第204話由紀の進学(1)

由紀もそろそろ大学進学を決める時期になった。

母美智子からは

「いったいどうするの?」

「あなた取り柄があるの?」

とか連日言われ、はっきりと言い返せない由紀は、悩んでいる。


「史だったら音大とか、文学部とか、いろいろだなあ」

「私も史みたいな才能があれば悩まないけれど」

「母美智子は嫌味タップリだし、史なんかには絶対相談したくないし」

「父さんは、そんなの本人が決めることで、素っ気ないし」

「ああ、なんて私は不幸な娘なのか」

「試験も近いし」

で、最近は夜も眠れない。


「思い切って史のかわりに京都に住むかなあ」

「もともと京都の血だしなあ」

「和の文化を極めるのもいい・・・」

「いや・・・それはいいけれど、史をここで野放しにするのも、危険だ」

「あいつは女に甘すぎるし、苦労するのが目に見えている」

「まったく、私が京都に住めないのは、史のアホのせいだ」

「ああ、気に入らない!」

そう思うと、ストレスのあまり、史をポカリしたくなってきた。


「よしよし、たまには姉のお説教だ」

と思って部屋を出て、史の部屋のドアをノックする。


「おい!史!話がある!」

ちょっと強めにノックするけれど、返事がない。

「このアホ!何してるの!」で扉を開けるけど、史はいない。


「まあ、キチンとしたお部屋だこと、でもそれは史が単細胞なだけさ」

由紀は、少々自分の部屋の「雑然」を反省するけれど、ここはそれで終わってはいけない。

何より史を探してポカリして、ストレスを発散させようと思っている。


「どこへ行ったの?つまんない」

いなければいないで、由紀はムッとするのだけど、廊下を歩いていると、父の部屋から声が聞こえてくる。

父晃の声と史の声、混じって母美智子の声も聞こえてくる。


由紀

「もう!私に黙って秘密の相談なの?」

「ああ!気に入らない!」

で、ノックもしないで、父晃の部屋に入る。


入ると

美智子

「え?由紀?何?お勉強は?」

「洗濯物たたんでおいた、しっかり自分のは自分でやって」

いきなり、そんなことを言われて、由紀は口が「への字」になる。


それでも父の晃からは

「ああ、由紀、玉鬘の話をするんで、相談していた」

「由紀は試験が近いから、声をかけなかった」

少しフォローが入る。


そして晃は

「この話が終わったら、由紀に話があるよ」

「だから、あと三十分したら、部屋においで」

やさしい顔になっている。


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