第160話カフェ・ルミエール楽団演奏会(6)

さて、史の指揮による「フィガロの結婚序曲」が終わった。

史は例によって、キチンと楽団に頭を下げ、客席にも頭を下げる。

そして再び、大拍手に包まれる。


榊原先生が再びステージに上ってきた。

「史君、素晴らしい」

「できれば、本番でも振ってもらいたいところだけど」

「ピアノ協奏曲もあるから、それはないよ」


その言葉で史はホッとした顔になる。

「ありがとうございます」

「フィガロ、楽しかったです、いい経験になりました」

史は榊原にまた頭を下げる。


榊原は史にまた声をかける。

「音大の先生方も、すごくほめている」

「いつでも遊びにおいでってね」


ただ、それを言われると史は、少し顔が曇る。

「あ・・・いえ・・・遊びなら行きます」

「あくまでも、音楽は楽しみでやりたいので」

少し残念そうな榊原にもう一度頭を下げ、史はステージをおりた。

そして向かう先は、里奈しかいない。


さて、史の演奏や大拍手を聴いていた里奈は複雑な顔をしている。

「史君、すごすぎ・・・なんか・・・レベルが私と違う」

「私・・・柔道部だし」

「柔道部でも、そんなに才能ないし」

「史君がすごいのはうれしいけれど」

「本当に、私なんかでいいのかなあ・・・」

里奈は、史への拍手のすごさに、うれしいと思う反面、不安も強くなってしまった。


その史が近づいてきた。

そして

「里奈ちゃん、聴いてくれていてありがとう!」

「もう練習は終わりだから一緒に帰ろう」

「あ、里奈ちゃん、カフェ・ルミエールに寄る時間あるかな」

「僕が珈琲淹れるよ」

そんなことを言って里奈の手を、すっと握る。


「史君・・・」

里奈は、どうしていいのか、よくわからなくなった。

そして突然、泣き出してしまう。


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