第60話里奈の悩み(1)

里奈は、史が柔道部員の治樹の「故意の足蹴」により右足首を怪我して以来、史の登下校送り迎えを、毎日行っている。

それには、里奈も柔道部員で、駅も近いことから、「柔道部の責任」として、自ら願い出たという事情がある。

ただ、里奈としては、史のことが大好きであるし、一緒に歩いているだけで「心ドキドキ」「心ウキウキ」で、幸せなのであるが、少し悩みがある。


まず、史を独占できるのは、「登下校時間限定」であること。

史と里奈が学園最寄の駅につくなり、あっという間に史の周りには、特に女子学生たちが群がってくる。

そのうえ、まるで里奈のことを「お邪魔虫」のように、「怨嗟」の目で見てくる。

その「怨嗟の目」にちょっとでも反応しようものなら


「いつでも変わるよ」

「独占禁止だよ」

「いい思いをし過ぎ」

・・・・

ものすごい「攻撃目線」にさらされるのである。

それも、里奈が属する柔道部の先輩の美佳まで、そんなことをしてくるのだから、目も当てられない。



「そうかといって、せっかくつかまえた史君だ、手放したくない」

「史君が完治してからも、一緒に登校したいなあ」

里奈は、そう思っているのだけど、それについては、強い不安がある。


里奈としては、史から

「ああ、里奈ちゃん、僕、治ったから、もういいよ」

「今まで、ありがとう」

なんて、さわやかに言われたら、絶対に泣いちゃうと思う。


「・・・送り迎えしているだけで・・・」

「史君って、私のことを、どう思ってくれているのかな」

「うーーーー!」

「どうやって聞いたらいいの?」

里奈は、ますます不安が募る。


「なんとなく、そんなムードをだして・・・」

「え?何?里奈ちゃん?」

そんな、対応になったらと思うと・・・


少しずつ史の足もスムーズに動くようになってきた。


「うれしいんだけど」

「うーーー不安だあ・・・」

里奈は、寝付けなくなってきている。



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