第44話由紀の部長昇格(4)(完)
榊原は、さらに音楽講師を責めた。
「お前みたいな、元プロが昔の名前にしがみついて、無神経でゴーマンで暴力的な指導をするから、クラシック音楽が嫌われるんだ」
「自分自身でたいした演奏も出来ず、若い頃だけだろ?仲間がいたのは」
「仲間だって、お前の自分勝手な演奏に嫌気がさして、どんどん離れてしまった」
「ソロをやらせれば、ガチャガチャ力任せに弾いているだけで、音楽として何も面白くない」
「そうかといって、アンサンブルをやらせても、周りの音とか呼吸を読まないから、音楽そのものがグチャグチャになる、だからお前と組む演奏家はいなくなった」
榊原の指摘は、事実らしい。
音楽講師は、ガックリと肩を落とした。
岡村も続いた。
「ああ、君の伴奏では、絶対に歌いたくなかった」
「僕の仲間が君の伴奏で歌って、本当に苦労したのを見たことがある」
「リズムもテンポもダイナミックスも、打ち合わせを違うことを本番でやってしまうんだろ?それで文句を言っても謝らない」
「何しろ、歌手より伴奏のほうが、音が大きいなんてありえる?」
「どうして、周りを活かす音楽が出来ないんだ!」
最後に、おそらく新しい就職先の関係らしい、田中が断を下した。
「あなたの採用は、取りやめにします」
「まだ正式に採用契約もありませんので」
その言葉が決定的だった。
音楽講師は、これ以上は、音楽室に残ることはできなかった。
合唱部をそのままにして、学園自体から、うなだれ姿を消したのである。
「ありがとうございます、いろいろ」
由紀は、カフェ・ルミエールに合唱部の全員を連れてお礼に来た。
学園長や、榊原、岡村の姿も見える。
「いえいえ・・・スッキリした?」
洋子もうれしそうである。
「はい、あの音楽講師が、フラフラになっていなくなって」
「そのまま、榊原先生と岡村先生に指導してもらいました」
「もうね、全然違っていて、練習して感激です」
由紀の顔が、真っ赤である。
どうやら、心の底から感激しているようだ。
「私も安心しました、マスターに話ししたらすぐに連絡してくれて」
洋子は、榊原と岡村に頭を下げた。
「いやいや、マスターに頼まれたたら、仕方ないさ」
「というよりは、あの音楽講師がひどすぎる」
「ああいう奴は、大勢の前で恥をかかせないと、わからないのさ」
「本当はしたくないけどな」
榊原は、そこでウィンク。
「生徒たちの声もね、心を開けば声帯も開く」
「その根本を教えられないようでは、声楽の指導はできない」
「あとは、僕にまかせてくれ」
どうやら岡村が、合唱部の指導をするようである。
「本当に助かります、こんな高名な先生に指導をしていただけるなんて」
学園長は、ほぼ恐縮している。
「いやいや・・・気にすることはないさ、それで合唱部の生徒をまとめるのは、由紀ちゃんが部長だからいいとして・・・史君はまだかい?」
榊原は由紀の顔を見た。
「えっと・・・まだ・・・もう少し・・・歩けるまでは時間が」
由紀も、困っているようだ。
「まったくねえ・・・由紀ちゃんの半分でもいいから、元気が欲しいねえ」
洋子は、少し呆れている。
しかし、すぐに表情を変えた。
大きな声で全員に呼びかけた。
「みんな、由紀ちゃんの部長昇格お祝いパーティーをカフェ・ルミエールで開きます!」
「お菓子は、色とりどりのマカロン、たくさん作るから、みんな手伝って!」
由紀は、またしても顔が真っ赤。
そして、全員の拍手を浴びている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます