第11話史の快気祝いパーティー

今日日曜日の午前中は、史の快気祝いパーティーで貸し切りである。

通常の開店時間は、午前9時になるが、午前8時には準備もあるらしい、史以外のパーティー参加者は全員集合して、いろいろと動いている。

あちこち飾り付けをするもの、歌や音楽の練習をするもの、特にキッチンではマスター、涼子、洋子、史の母美智子が大忙しである。


「はい、ピザのセットは出来たよ」マスター

「ちらし寿司は、春めいて桜でんぶを乗せた」涼子

「ザッハトルテとダロワイヨ仕込みのマカロンは出来上がりました」洋子

「フレッシュバターピーナッツは、その場で作るよ」マスター

「サンドイッチもその場でいいね」涼子

「それで、美智子さん、焼き具合はどう?」

洋子が美智子に声をかけた。

「ああ、ありがとう、このオーブン使いやすい、上手に焼けるはず」

美智子もうれしそうな顔になっている。

その顔を見て、マスター、涼子、洋子もホッとした顔になる。


午前8時55分になった。

「史君は時間ちょうどくらいに?」マスター

「うん、由紀が連れて来る」美智子

「楽しみだなあ、この日を待っていたの」涼子

「あ!ドアが開いた、由紀ちゃんと史君だ!全員拍手している!」洋子

確かに、大きな拍手が聞こえてきた。



「ねえ、ここでご挨拶だよ」

史の姉、由紀が史をステージに誘導した。

少しカチンコチンの史が挨拶を始めた。


「あの・・・こういうの・・・慣れていなくて・・・下手ですが・・・」

「本当に、こんなに、たくさん、集まってくれて・・・うれしくて」

「ご心配をおかけした足首も、痛みはなくなって歩けるようになりまして、本当に皆さんのおかげです、何から何まで・・・」

やはり史は涙ぐんでいる。

「史君がんばって!」

「治ってよかった!」

いろいろ声がかかって、史は、ますますカチンコチン。

「本当にうれしくて仕方がありません、ありがとうございます!」

それでも最後は、キチンとお礼、お辞儀をする。

そこでまた、全員から拍手を受ける。


その史の前に、花束を持った小さな女の子と、おそらく両親が立った。

少しキョトンとした史に

「お兄ちゃん、ありがとう!」

女の子は史に花束を差し出した。


「え・・・あの時の?」

史は、ようやく女の子の顔を思い出したようだ。

本当に驚いた顔で花束を受け取った。


「はい、本当に娘の命を救ってくれたのは史君です」

「自分の身を挺して、トラックの巻き込まれから、この子を救ってもらって」

「ちゃんとお礼も出来ず・・・ごめんなさい・・・」

母親は史の手を握って泣き出してしまった。

父親も泣いてしまっている。



マスターがキッチンから出てきた。

「さあ、今日は快気祝いです、涙は似合いませんよ!」

明るく全員に声をかける。


涼子も出てきた。

「はい、まずは、春のお祝い、つまり治るのお祝いで特製ちらし寿司とほうじ茶」

「マスター自慢の魚介類のピザも出ます」

「サンドイッチもフレッシュバターピーナッツももちろん」


パテシェの洋子も登場した。

「私が本気を込めたザッハトルテとマカロンはパリダロワイヨのレシピそのまま」


いつの間にかキッチンに入っていた由紀が、美智子を連れてきた。

「珈琲と紅茶は、由紀が淹れます、それから・・・」

由紀は母に話を振った。


母美智子が全員に一旦頭を下げた。

「皆さん、本当に史のためにありがとうございます」

「久しぶりに、焼き上げましたので、ご賞味ください」


洋子が話をつないだ。

「ニューグランド仕込みの干しイチジクパウンドケーキが焼き立てです!」

「私の知る限り、最上級のケーキです!」



その後は、様々、美味と笑顔のあふれる本当に幸せな快気祝いパーティーになった。

史のピアノ演奏や、合唱部の歌も大きな拍手を受けた。



「これが、本当の意味で、カフェ・ルミエールの開店なのかもしれない」

マスターがつぶやいた午前11時半、貸し切りの店の扉が開いた。


一組の上品な老夫婦が、豪華な花束を持って入って来た。


「大旦那様・・・」

マスターはにっこりと笑っている。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る