臓器

ある日、目が覚めると辺りが真っ暗。

時計も見られないから時間も分からん。


ただ朝なのだろう事は音で分かる。

…あ、時間は7時32分だって言ってる。


腹が減ったな〜と思っているうちに。

何故か胃袋が満たされる感じがしてきた。


ん?


誰かが手を握ってくれていた。


「調子はどうだい?」


母親の声だ。どうって言われても…

今、答えられないみたいなんだよ。


身体が動かせないみたいでさ。

困ったな…寝ぼけているのかな。

早く起きたいんだけどなぁ。


「決心しよう」


何だ?親父の声だ。

何を決心するんだ?


「でも…私は嫌よ。

 誰にもあげたくないわ」


「あげたほうが良いじゃないか。

 孝もそれを喜んでくれるよ」


「ん?何をあげるんだ?

 大したもん持ってないぞー」


「…わかったわ。

 誰かの中で孝は生き続けるのよね」


「ん?俺、ここに居るし」


「では、孝さんをこちらに移します。

 最後の挨拶はもう、良いですか?」


部屋からシクシクと泣き声が聞こえる。

俺はここに居るし動けないだけなんだが。


ガラガラとベッドごと移動してるらしい。


困ったな…どこに連れて行かれるんだ?


うっ!冷たい!

腹を何かひんやりしたもので拭かれた。


次の瞬間。


腹に信じられない激痛!


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

———痛い!!!!


何かで切り裂かれた!


そして俺は飛び起きた!


目の前には驚いた顔の医者。

腹はザックリと切られている。

パックリ開いた腹から何かが見えている……


大慌てでどこかへ電話する看護師。

安静にじっとしててくれと言う医者。


そこからはもう皆、大慌て。

腹はすぐ、麻酔を打ってくれた。


しかしあの痛みは酷いな…

無麻酔で腹を切られるとは。


俺は今、腹に大きな縫い目がある。

両親は泣いて喜び医者を攻め立てた。


脳死…


俺はそう、判断されたそうだ。


脳は死んで自我も無く生かされるのみ。


しかし俺は知っている。


ひたすら、動けないだけだ。


…という事を。


動けない、意思を伝えられない。

ただ、それだけで思考は色々できた。


意識はある。

なのにそれを表現できない……


全ての脳死がそうかは分からない。

でも、何人かは俺と同じように……

そして最後まで動く事が出来なければ……


意識在るままに切り刻まれ

激しい痛みに何も出来ず殺される。


臓器という臓器、目も皮膚も盗られて……


俺も家族も。

ドナーカードを持つようになった。


もちろん「提供しない」だ。

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