第9話 運命 うんめい


「でもまぁ、それが本当に偶然だったかも知れねぇし、その逆かも知れねぇ」

「……」


 結局は何にしても『全く分からない』という事である。


「ただ、あんたの顔によく似た真理亜まりあさんたちは、本当に偶然なのかあまりにも似た事が起き過ぎてんだよ……」


 一つの例として挙げられるのが、『兄が短命』という事だろう。もちろん、それは何となく真理亜まりあさんたちも分かっている。


 いや、もしかしたらそのお兄さんたちも「これが自分の『運命』なのかも知れない……」と思っていたかも知れない。


 そう考えると、非常にいたたまれない話だ。


 たとえそう思っても最初は『受け入れられない』だろうし、たとえ『受け入れられた』としても、それはあまりにも悲しすぎる。


 全て『運命』だなんて言葉で片付けられちまうなんて……むなしい話だ。


「それに、あんたと似たように『先を見通せている様に見える』のも気になんだよ。まるで、あんたを生き写したみたいで……」

「いえ、生き写し……とは少し違うわ」


 俺の言葉を遮る様に亞里亞ありあさんは訂正した。


「……そうか」

「ええ、あくまで『私』は『私』で、『真理亜まりあさん』は『真理亜まりあさん』だから……」


 たとえ、亞里亞ありあさんの様に『先を見通せる事が出来た』としても、やはりそこには『個人差』が出てしまう。


「いえ、ここ場合は『個性』と言うべきかしら」

「……それは人によりけりだな」


 わざわざ言い直していたけど、『個性』という言葉が出てきた事を考えると、やはり真理亜まりあさん以外にもいる……それはつまり『複数』いるという事になる様だ。


「それに、あの『水球』は私たちが販売していたモノよりも厄介でね、一度水が全て溜まった時。兄様何か言っていなかった?」

「……? あっ、そういえば……」


 思い返してみると、あの人は「ふと見上げた空に流れる『流れ星に願い』をかけた」と言っていた。


 その内容は……確か『普通じゃない生活をしたい……』だったはずだ。


 しかしあの時、「願いをかけたせいで色々変わってしまった」と言っていた。もちろん、本人にそんな気持ちはなく、本当に「まさか」だったらしい。


「その結果、私は突如とつじょとして『先が読める』っていうおかしな事が出来るようになったの」

「……最初から……なかったんだな」


「ええ。だから、まさか彼女たちに出会ってそういった『先を見通せる』って聞いた時、本当に申し訳なかった」

「……あんたは、真理亜まりあさんが『先祖返り』だと思っているのか?」


 ちなみに『先祖返り』とは、直接の両親でなく,それより遠い祖先の人が子孫に突然に現れる事を指すらしく、『真理亜まりあさん』や……いや、洋風な名前が付いていた『樹利亜じゅりあさん』や『恵美里亜えみりあさん』が当てはまる。


「それに私は、年を取れなくなった」

「……出家した後、あんたは何をしてたんだ?」


 今までの亞里亞ありあさんの家の話を聞いて「もし、亞里亞ありあ さんが生きていたとして……」と考えると、やはりそのまま野放しにするとは考えにくい。


 これ意地でも探し出しそうだ。


 多分、『出家』という事を選択したのもそういう『捜索』をさせないためだったのだろう。


 もし、『捜索』なんて事になってしまえば、一恭かずきよさんの様な人が出てしまう可能性も否定が出来ないからだ。


「私は……山奥で独りヒッソリと……生きていたわ。私の事を知っている人が誰もいなくなるまで……」

「……独り暮らしって事か?」


「正確には自給自足ね」


 なんて笑っていたが、いくら『出家』したとはいえ、ずっと『独り』でいるのはやはり大変だろう。


 それに時代が時代だ。


 もし、これが真理亜まりあさんがいる『時代』であれば色々便利になっているだろう。


 しかし、亞里亞ありあさんが『出家』した時は、そこまで便利にはなっていなかったはずだ。


 それこそ電話もなけりゃあ、パソコンもない。考えてみると、そういったモノが出て来たのは本当に『つい最近』の話である。


「……この建物は元々ね。私の家だったのよ」

「えっ」


 正直、その話には驚きだ。


「……取り壊されなかったんですか?」


 今まで生活をしていて、もし生活をしなくなったら、普通は『取り壊してしまう』はずだ。


「それがね。なぜか取り壊そうとすると……その工事をする人が怪我をするのよ。しかも、災害が起ころうが火事が起ころうが全然壊れない……」

「……」


 普通に考えると、それはやはりすごいのだろう。だが、俺はそれ以上に……


「怖くないか……それ」


 やはりこの『気持ち』が真っ先に出てきてしまう。ここはやはり、『普通』ではないから……と思う。


 何が起きても壊れない……。話で聞いていたり、噂になっていたりする事はあっても、実際にそれが目の前で起きると……。


 人は、普通ではない『得体の知れない謎の恐怖』を感じてしまうのだと……俺は自分の心情を勝手にその時代の人に当てはめていた――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る