第10話 突発 とっぱつ


「ふぅ……」


 突然現れた『訪問者』を玄関で見送ると、俺はその場で小さく息を吐いき、ついさっき見送ったばかりの『訪問者』をもう一度思い返した。


 あの少年は……多分、もう大丈夫だろう……。


 最初あの少年を見た時、俺は『作業部屋』であの『天象儀てんしょうぎ』の修理を行っていた。


 まぁ、どうやら俺は物事に没頭しやすい人間らしく、その時も外が真っ暗だったなんて気づきもしない。


『げっ!』


 ふと見上げた空の景色に驚いていた時、突然「バシャバシャ」という音と共に何やら『黒い塊』がこちらに向かって走っている事に気が付いた。


 俺はその『黒い塊』を最初に見た時、本当に『泥棒』だと思っていたのだ。しかし、その『真っ黒い塊』の正体は、学生服を着た少年だったのだ。


 でも、話をしていく内に彼はに『臆病者』だと思った。だから、周りに及ぼす影響など色々考えてしまい、何も言えずに出来なかった。


 しかし、そんな彼もさっき帰った時の表情は、どこかスッキリとしていたように見える。


「それにしても……」


 いつもはこういった『来客』が現れた時「大抵『あの人』がまるで見計らったかのように会話に入ってくるはずなのに、今回は現れなかった……」と思っていると、居間の扉を「スーッ」という横に引いた音が聞こえた。


「……珍しいな。あんたが何も声をかけずに見逃すなんてよ」

「あら、見逃すだなんて、私は寝ていただけよ」


 まぁ、確かに今までの出来事は全て『真夜中』に起きた出来事だから、この少女が眠っていても何も問題はない。


「あの葛の風呂敷の時ですら、ひょっこりと顔を出したのに、今回は来なかったんだなぁと思ってな」

「あら、あの時は『偶然』だ……ってちゃんと言ったはずよ?」


 まぁ、確かにそう言っていた。


「なーんか……。あんたの言葉って、イマイチ信用出来ねぇんだよなぁ」

「本当に失礼な人ね」


「信用が欲しけりゃ言動に気をつけろ。って事だよ」

「うーん……。それに、あの『天象儀てんしょうぎ』を使っている時は扉や窓は一切使えなくなるでしょ」


 そうこの『天象儀てんしょうぎ』は使っている最中は、外からの接触が出来なくなる代物だ。


 まぁ、簡単に言ってしまえば、映像が出ている間は、窓やドアはまるで『鍵』がかかったかのように全く開かなくなる。


 確かに『天象儀てんしょうぎ』は『プラネタリウム』の和名ではあるが、ここに置いてある時点で『普通』に『映像を見るだけ』……ではない。


「つーか、その特徴を言っているつー事は、あんたやっぱり……」


 そう言うと、少女は「しまった」という顔で口元を抑えた。その姿を見ると正直、つくづくこの人が出て来なくてよかった……と思えてしまう。


 実はまぁ、そうなる事を見越して、会話の途中で早めに『天象儀てんしょうぎ』のスイッチを入れたのだが……そんな事は、決して口には出せない。


「なぁ」

「なっ、何?」


「なんで、俺ら『戦国』とか『都が出来たばかり』の時代に行った事がねぇんだ?」

「……」


「それだけじゃねぇ。あんたが前に言っていた……」


 俺がそう言った瞬間。遮るように少女は、俺の目の前に『植物』を差し出した。


「……ごめんなさいね」

「あっ、あんた……。こっ、これ……」


 普通に『花束』や『植木鉢』を目の前に差し出されたのであれば、ここまで俺も驚かなかっただろう。


 だが、俺の目の前に差し出された『それ』は……『夢上見花』だった。


 この『夢上見花』は、催眠作用のある胞子を出す『植物』で、何も防がずにその胞子を吸い込んでしまうと……当然の様に強烈な『睡魔』に襲われる。


 それは、俺自身が身を持って知っていた。


 なぜなら、俺はこの『夢上見花』の効力を知らなかったからだ。でも、それは今はちゃんと知っている。それだけに、少女の行動に驚いたのだ。


「っ! あん……た、な……ん」


 だが、驚いたものの……俺にはどうする事も出来なかった。しかも、昨日の寝不足も相まって……俺はそのまま強烈な睡魔に襲われ、その場で「バタッ」という音を立て、崩れるように倒れた――。

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