5.ソメイ
第1話 霹靂 へきれき
『
この言葉は日本の
例えば目の前に広がる雲一つないこの天気が突然、雷鳴が
そうだとしたら、たった今。
俺が置かれているこの状況も普通の人からすれば、まさしく『
「はぁ、それにしても」
昨日はいつの間にか机で眠っていたらしく、体の節々が固まっている様に感じる。ついでに、手で頬の辺りをさすると『何かの跡』がついてしまったようだ。
「うーん。ふぅ」
俺は軽く伸びをしながら体の調子を確認した。少し体がだるく感じたが、それ以外に体の不調は感じられない。
「さてっと、ん?」
ふと目の前にある窓から外の光景に目をやると、学校帰りだと思われる子供たちの大きく無邪気な声が広い『団地』に響いた。
この景色を目にしたことによって俺は、ようやく今が「夕方」だという事に気がついた。
『よーし! いっくよー! あーしたてんきになーれ!』
しかし、子供の声というモノはかなり『
「あー。うるせぇ」
口ではそういった粗暴な言葉しか出ないが、俺にも窓に映る子供たちと同じような年齢は確かにあったはずだ。
だが、あんな風に元気だったかと聞かれると……違う。
空の景色は一切変わらない。雲もなに一つない。本当に快晴のいい天気だ。そして、綺麗な夕日が子供たちの元気で良い雰囲気を醸し出している。
こんな状況で雷のでも落ちればそれは確かに、『
ただもし、雷が鳴って大雨が降ってきたら、子供たちは大慌てで帰るだろう。そんな光景を想像すると、少し笑える。
なんてそんな事を考えると少し面白いが、俺の考える『
俺が思っている『
確か、俺が昨日見た時はランドセルを背負った子供たちが、コンクリートで整備された道を前日に見たアニメーションの話やら、最近発売されたゲームの話をしていたはずだ。
しかし今、俺の目の前に広がっている光景はコンクリートで整備されていない。だだっ広い『団地』だ。
そして、そこで遊んでいる子供たちは靴ではなく、『下駄』を履いていた。しかも、ほとんどは『着物』を着ている。
ある日、目を覚ましたら……。突然目の前の光景が、教科書に出てきそうな『昔』と言われるような光景に変わっていました……となれば、誰でも驚くだろう。
「まぁ」
そんな、普通の人にとって『
今では、「あっ、移動したんだな」くらいにしか思わない。
窓の景色から目をそらした俺は、タンスに入っていた『着物』を適当に取り出し、慣れた手つきで『着物』を着た。
何度も『時代』の移動を繰り返していると、服装などもその時代に合わせなくてはならない。
存在していない『洋服』などそんなモノを着るわけにもいかない訳だし、そこは『時代を渡る者』の『礼儀』の様なモノだと思っている。
しかし、毎回毎回服装を合わせるのも大変だ。
それに、時代によっては、店にすら出られない事もある。それらを考えると、色々と大変である。
ただお店の外に出られないのは、俺の『洋風な』容姿に原因がある。
しかし、この『時代』なら多分、何も問題はないはずだ……とか考えながら手すりに手をかけながらトントンと木製の階段を下りると――。
「……あら? 今日は目覚めが悪かったのかしら?」
俺の姿を見るなり、開口一番に少女は口に手を当てながら顔に小さな笑みを浮かべた。
「……うるせぇよ」
どうやら少女は店番をしていたらしく、座布団の上に可愛らしくチョコンと乗っている。
だが、残念ながらこの少女の年齢は、そんな可愛らしい事をする……いや、見た目だけの話でいけば、何らおかしくないのか。
まぁ、要するに……この少女は幼い見た目に反して『年齢不詳』というより。『不明』なのだ。
「…………」
もし、お客に彼女のことを聞かれた場合は、『俺の妹』という事で通している。
いや、むしろ『周りが』勝手にそう思ってくれている節がある様に思う。ただまぁ、大概は無言で通る。
そうすれば、相手が勝手に察してくれて無理に言う必要もない。
ただ、俺からしてみれば、『妹』なんて可愛らしいものでは……なんて、そんな事は決して……言えない。だから、口には出せないその言葉を俺はいつも心の中でそっと呟く事にした。
「どうかしたの? 只でさえ悪い顔がさらに……」
「ねみぃんだよ」
「あらあら、あまりにも顔色が悪そうだから、風邪でもひいたと思ったんだけど?」
「俺の顔は元々こうだ」
「あらそう」
それだけ言うと少女は片手にはたきを持ち、店内の掃除を始めた。
「はぁ」
俺は少女とのやり取りを終え、ため息混じりにお店を見渡す。
目線の先には、色々なモノが置いてあり、それは『ただ古いモノ』から『用途不明のよく分からないモノ』まで様々だ。
『
正直俺は、『骨董店』という『店』に定める定義があるのか、ないのか……とかは知らない。
ただ見渡した限り、俺の目に映るモノはそのほとんどが『雑貨』に見えてしまう。
だが、この『年齢不明の少女』が言うには、その『雑貨』のほとんどが『とんでもない』モノらしい。
全てとは言わないが、この『雑貨』を購入した人は、何らか形で人生の『転機』を迎えている……。
もしかしたらこういったモノを購入した人は、その『転機』を願っているのかも知れない。
ただ、残念ながらその転機は、良いも悪いも人によって様々だ。
でも、そういう人たちは決まって他のモノにはほとんど目もくれず、その『モノ』に興味を持つと購入するまで気にしている。
まるで最初から買うのが決まっていたかの様だ。そんなお客の姿を俺は何度も見てきた。
俺は、ある日偶然少女と出会い、このお店を開くことになった。まぁ、その話はまた別の機会にでもしよう。
「ふぁ……」
「あらあら、お寝坊さんね」
「うるせぇ。それになんだ? コレ」
あくびをしながら手に取ったのは、一本の棒だった。
その『棒』は先にフサフサとした毛がついている。ただ、『これ』は明らかに『骨董店』には不釣り合いなモノだ。
「ああ、それは猫じゃらしよ」
「はっ? 猫じゃらし?」
「ええ」
「なぜに猫じゃらし?」
「今度こそ、あの猫が来たら遊ぶためによ」
「……」
悪いが、話が全く見えない。
「だから、この間出会った猫と遊ぶためによ」
少女曰く、以前『
「ふーん」
特に興味があったわけでもなかったが、俺の記憶が正しければ、確かあの猫が現れたのは、『現代』だったはずだ。
いや、それ以上にこんなモノを作っていないで商売しろよ。なんて心の中でつっこみを入れながら、俺はその『猫じゃらし』を元の場所に戻した。
「あら?」
「どうした?」
「いえ? 今、お店の扉が開いたような?」
「そうか?」
そう少女は、正面にある玄関の引き戸の方へとゆっくりと歩いた。
俺はと言うと『台所』からお茶の入った湯呑を持って来ていたのだが……少女は、なぜか玄関先で固まっている。
「……何しているんだ?」
その行動を不審そうに見ていたが、一向に少女が動く気配がない。そこで、少女の元に行くと……。
「おい、どうし……」
「……」
「なっ!? 誰だよ。この人……」
「分からない」
「はっ? 分からない……って、なんだよ」
「分からないモノは分からない!」
「いや、そんな事言われても……って、おい!」
「あっ、あれ?」
そのまま少女はその場で、腰を抜かして倒れそうになった。
俺はそんな少女をしっかりと支え、少女からもう一度詳しい状況を聞こうとした……が、何度聞いても、少女は「分からない」だけしか言ない。
どうやら、少女は相当ショック受けているのだろう。
そこでとりあえず、少女をその場に座らせ、もう一度玄関のその方を見ると……そこには、扉を
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