第3話
もう一分と保つ事はできないだろう。
ローデスは微笑んだのを見て、彼は、ローデスの手をほそっと握る。
「隊長・・・・ラインヴァルト隊長・・・本隊からの救援は・・・・?」
死に逝く戦場の中で、ローデスは切れ切れの言葉で問いかける。
「本隊も救援に来る 恐らく、他の隊員はしぶとく生き残っている
はずだ。こんな程度で死ぬ様な隊員じゃない」
彼―――― ラインヴァルトは短く告げた。
助けには絶対に来ないと確信をしているが、これからあの世に逝く者に
真実を知らせるよりは、安らかに逝かせるべきだと考え、あえて出鱈目な事を
言う。
「それなら・・・・安心・・・です・・・ね・・・・なら・・・ちょっと、休んでも・・・いいですか?・・・・少し疲れ・・・ました・・・」
天を仰ぐラインヴァルトの腕の中、 第4秘密小隊『
「ああ、そうだな。ローデス。ゆっくり休め」
呟くラインヴァルトの表情には、苦笑を浮かべていた。
「今にすごく格好良い本隊の戦友達が、俺達を救援に来てくれる」
哀愁を纏った幽鬼を彷彿とさせる様に、ゆっくりと立ち上がる。
ラインヴァルトは、軽機関銃の弾倉が装填されている事を確認すると、一気に
ビル陰から躍り出た
ローデスが息を引き取った時点で、ラインヴァルトは生きて妻と息子の元に帰還
する事を諦めた。
生き残って夜な夜な魘される様な事にはなりたくないため、隊員の仇を討ち糞ったれな死に様で終える方を選択した。
雄叫びを上げて突撃するラインヴァルトの思考には、妻と子供の貌が浮かんで
いたゆえに、続く展開を予想していたわけでは無論なかった。
敵の砲弾か味方の砲弾か――――それとも両方なのか分からないが、
天が爆発かと思うほどの衝撃と光が覆った。
ラインヴァルトは、砲弾ではありえないレベルの破壊力が付近で炸裂したのを
悟った。
恐らく攻撃魔術系の威力だ。
「(一体・・・何が・・・・)」
ラインヴァルトがいた街区が、ただの焼け野原と化していた。
隊員の遺体も敵の部隊も、残らず吹き飛んでいる。
「(これは・・・何の冗談なんだよっ!? まさか・・・味方を巻き添えにしてまで攻撃魔術を・・・・)」
視覚と聴覚が正常な機能を取り戻すまでかなりの時間を要した。
だが、それで現状を把握する事は出来た。
恐らく敵か味方かは分からないが、この街区を攻撃魔術で吹き飛ばしたのだ。
敵も味方も関係なく。
ラインヴァルトは即死は免れたというだけで深い傷を負っていた。
それでも、敵軍の狂気を孕んだ凄まじい攻勢に戦慄を覚えた。
「・・・ごふっ!!」
爆風で飛ばされてきた鉄骨やコンクリ塊が背中と脇腹に刺さり、骨折と裂傷も
相当数な数で負っているのが、激しい痛みでわかる。
吐血が止まらない所を見ると、確実に内臓が潰れている。
「畜生・・畜生っ、俺は――――」
こぼこぼと出る吐血のせいで、発音が出来ない。
焼け野原と化した街区を装甲車を伴ったラトビニュア帝国正規軍と傭兵団、
6個連隊規模が鬼の様な形相を浮かべ、隊列を組み進撃してくるのが見えた。
苦痛と怒りで叫び声を上げたが、身動き出来ないほど体力を失っていた。
残っているのは強靭な精神力だけだが、それも枯渇してしまいそうだ。
ラインヴァルトは、平和、静けさ、そして責めさいなむような苦痛から
解放を約束してくれる暗闇の誘惑に屈服しそうになる。
闇黒と沈黙の壁が降りて来ようとしたとき、ラインヴァルトの耳に、
何かが聞こえた。
「(――――――――)」
そして、無意識に背骨が削られるような嫌な感覚を身体を走り抜けた。
近くの瓦礫の場所で、黒い輝きの陽炎が立ち上がる姿をラインヴァルトは見た。
それは、人の姿に見え、馬の用にも見え、魚の用にも見えたし鳥にも
見えた。
そして、そのどれでもないような気もしたが、それはとてつもなく嫌な感覚を覚える。
はたして、瓦礫を踏みしめながら現れたのは――――
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