只今異世界捜索中!~Capriccio Continente de Oratorio~ 第一部 チェロ村の攻防

ヅラじゃありません

プロローグ

 

 私立音瀬高等学校交響楽団。

 開校五年目の新設校の、これまた創設されてまだ三年目という、弱小ともいえるオーケストラ部で、部員は三十八名。

 うち、その日、その時、音楽室に集まっていたのは二十九名――


 先に言っておくと、彼等はちょっと変わっていた。

 誰もが癖のある、奇特な面々だった。

 

 周りと比べて、力持ちの少女がいたり。

 周りと比べて、ギャグ体質で四階から飛び降りても平気なバカがいたり。

 周りと比べて、頭の回転が早くアンドロイドを自作してしまうような胡散臭い天才がいたり。


 とまあ、彼等は存在そのものが学園物のローファンタジー小説に登場する人物のような、やたら自己主張が激しい面々だった。


 だが体系的に分類すれば、どこにでもいるような『ただの高校生』と何ら変わりない集団だったといえる。

 当たり前のように毎朝登校し、当たり前のように退屈な授業を受けて、当たり前のように部活に励み、当たり前のように夏休みをエンジョイし、当たり前のように期末試験に一喜一憂し、当たり前のように青春を謳歌していた。


 ほら、どこにでもいる『ただの高校生』だ。

 

 だがしかし。

 ただ一つ。

 強いて言えば。

 そう、あえて言うならば。

 

 彼等は、周りと比べて『やたら』トラブルを引き寄せてしまう体質の集団だった。


 そしてそれは猛暑が続く葉月の上旬。


 やはりというか、もはや様式美と化した災難トラブルに彼等は見舞われたのである。

 最低最悪でこれ以上ない程の災難だったが。


 

 端的に言うと、不幸な事故でのだ。

 日本でもない、地球でもない『どこか』に。

 そう、俗にいう異世界転移という奴だ。



 まあ、こう綴っておいてなんだが、のだが。

 もしかするとのだが。

 とにかく、、その日本とは違う『どこか』において、彼等は遭難してしまったのである。

 

 しつこいようだが、もう一度言おう。

 彼等はちょっと変わっていた。

 誰もが癖のある、奇特な面々だった。

 けれどただの高校生だ。


 ああ、そうそう。そして、これが最も重要なことだ。

 別の世界に飛んだからといって、勿論彼等が持っている『トラブルを引き寄せる』体質が消えるわけでもない。

 むしろ、その世界の変な女神様に愛されてしまったらしく、やはり、案の定、もはやお決まりの如く、彼等に災難は降って湧いた。

 それはもう、これでもかってくらい。


 これから奏でる、それはもう長い長い調べは。

 そんな災難に遭いつつも、逸れた部員達を捜し旅を続けた六人の少年少女達の軌跡だ。


 チート能力? あったらこの旅はどんなに楽になっただろう。

 それでも彼等は足掻き、抗い、諦めずに仲間を捜して旅を続けた。

 みんなで帰ろう、誰一人欠けることなく元の世界へ戻ろう――と。

 目覚めた時手元に残っていた、不思議な力が宿った楽器を携えて。



 さて。

 それでは、そろそろ開演するとしよう。


 より始まり。


 を求めて。


 を変えようとした少年少女達の『奇想曲Capriccio』を――

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