第11話 バトルの後はビールがうまい。


「このクソ坊主っ!なんでミサンガにテレポート機能があるって事、先に言わなかった?うちの親父寝込んじまったじゃないかっ!」


グリーンの七城さんは、第一印象では温厚そうな人だと思ったんですが…ひとたびキレると、無茶苦茶怖い人になります。


小柄なお坊さん(空海さんと言うらしいです)に掴みかかって馬乗りになり、逆に金縛り攻撃かけられて、レッド魚沼さんに引き剥がされました。


まあ、目の前で子供が消えたらそりゃーぶっ倒れもするでしょうね。


七城さんのお父上が気の毒です。


部屋の隅ではドレッドヘアを束ねたインド人風少年が、


「振られた…振られた…」と言って畳を叩いて泣いています。名前はルリオくんといいます。


根津に場所を移動して僕をこの宴会に誘ってくれたブルー勝沼さんは、ルリオくんを無視して、勝手に乾杯の音頭を取り始めました。


「えー、それでは、初バトル突破記念の慰労会と、したまち@パッカーズのプレオープンを祝して、かんぱーい!」


ああ…やっぱり、バトルの後の生ビールは最高です…


申し遅れました。僕はヒノヒカリイエローの、都城琢磨と言います。


職業は公務員。


実家は、先祖代々戸隠流忍術を継承してます。


ちなみに親父は海上自衛隊の潜水艦乗り。何処かの海域を潜航してます。


双子の弟は陸上自衛隊所属でいま富士の何処かでレンジャー訓練中です。


元くノ一の母は、宮崎の実家で暮らしています。


なんか、普通に異常な自己紹介をしてすいません。


フツーでない環境で育ってきた僕だから、このフツーでない座談会を淡々と語っています。


帰庁した僕は、霞ヶ関でいきなり異生物に襲われ、スイハンジャーの他の仲間と協力し合いながらも全員倒しました。


変身を解除した僕らは、ブルー勝沼さんに誘われてオープン前の安宿「したまち@パッカーズ」2階「いなほの間」の宴会に参加する事になりました。


仲間を紹介します。まずはコシヒカリレッドの魚沼隆文さん。

小柄だけど体操選手みたいに修敏そうな体つきで目だけが大きくくりくりしてます。


衣服ごしだけど、この人めちゃめちゃガタイいいです。長い間肉体労働に従事していたのでしょう。


米農家の息子&元新体操選手と聞いて納得しました。


「アニキ」とお呼びしたいタイプです。


つぎはササニシキブルーの勝沼悟さん。この宿のオーナーで、長身やせ形のメガネ男子です。

第一印象はすかしている、って感じがしました。


魚沼さんに「実は勝沼酒造のぼんぼんだべ」と簡単に素性を聞かされた僕は、15秒遅れてめっちゃ驚きました。

あんた東京下町で何する気なんだよ?


空海さんにやっと金縛りを解かれて畳の上でぜいぜい息をついているのが、七城米グリーンの七城正嗣さん。教師兼寺の跡取り息子だそうです。


目が細くて穏和そうな顔をしていますが、何やら訳のわからない術で相手を金縛りに出来る、すごい人のようです。


…最後の仲間を紹介します。


変身解除後に初○ミクのコスプレをしていたきららホワイトさん。目だち過ぎるんで、近場の公園トイレでとりあえず着替えてもらって、ここにお連れしました。


実名は小岩井きららさん、20歳。音大の2年生だそうです。そして、ルリオくんがさっきから泣いている原因を作りました。


事の顛末はこうです。


この部屋に入ると宿の支配人、紫垣さんが料理を用意してくれていてその隣でルリオくんが「疲労回復のお茶」を作って戦隊の皆に飲ませてくれました。


漢方薬を3倍に煮詰めたようなものすごく臭くて苦いお茶に、僕は何かの罰ゲームを受けている気分になりましたが、不思議と体の疲労が取れました。


「やっと薬師如来が本来の仕事を始めたようだね」

と勝沼さんが言っていました。


「とーぜんさ」とルリオくんがえばっていた時です。僕の隣にいたきららさんを一目見た彼は


「もしかして、君はティーン雑誌のモデルのキラちゃん?」と聞き、彼女が戸惑ったように「え?そーですけど…」と認めると


「結婚してください!」と左手に蓮の花を取りだし、迫ったのです。


出会って速攻プロポーズって、そんな告白あるか?


さらに辺りを凍りつかせたきららさんの返事が


「失せな、ガキ」とドスの利いた一言でした。蓮の花が一瞬にして枯れました。


「不老不死って特典があるから!」とルリオくんが食い下がってましたが、


「別にいらないし」


きららさんは、冷たく突っぱねて少年を泣かせたって訳です。


きららさんはバトル時に「きゃはっ」を連呼するハイテンションキャラだと思っていたのですが、実像は180度違います…


「あのキャラ、事務所の方針でやってるだけですから…

わたし、元々派手なこと好きではないんですよー、プ○キュア好きなだけで…でも、バイトでコスプレモデルやってる内に、なぜだか別の人格が宿ったみたいになって…恐いです…」


なんでも大学入りたての頃アキバでスカウトされて、軽いバイト感覚でコスプレモデルやってたら、ティーン層と「大きいお友達」の間で人気が出だしだらしいです…


メイクも取ったすっぴんのきららさん、ほんとに「上京したての女子高生」って感じの幼い顔立ちをしています。髪型も、ボブヘアーってより、おかっぱ?


彼女、「市松人形」によく似ています。

…まあ、嫌いじゃないです。むしろ、素朴で…可愛いです。童顔仲間が出来ました。


今はスウェットスーツ上下でその見事なプロポーションが隠されていますが…


え?ホワイトのボディラインガン見して鼻血噴いてただろーが?ですって?


いや、別に、僕以外のメンバーも見てたはずですっ!


そりゃ見ますよ。見てしまいますよ…


だって「男子」だもの!


きららさん、高校の頃までフィギュアスケートの選手だったそうですが、

「カラダの実る所が実りすぎて」辞めてしまったそうです。


え?きららさんの話題が多い?違います!別にそんなんじゃねーし!!


じゃ、話を変えましょうかね…


紫垣さんが一階に降りていったのを見計らって、乙ちゃんと松五郎と呼ばれる「木霊さん」がちゃぶ台の上に出てきました。そして僕の背後に、あのくそいまいましい声が…


「たくぽーん、また会えたねえー。俺様、寂しかったよん」

「役小角!!」



琢磨の出会い頭のパンチを、小角は軽くかわした。


「今夜は宴会モードなんだから、そんなぶっ殺しそうな目でニラまないでよおー。ね?カンパーイ」

カチン、とビールのグラスが鳴る。乱れ気味のロン毛に、日焼けした肌。ハイビスカス柄のダボシャツにステテコと相変わらずふざけた格好している。


「次はタダじゃおかねえからな…」

琢磨のにらみを小角はへらへら笑って流した。


「誰だべ?このチンピラなおっさんは?」

琢磨以外は初めて小角を見るので、室内はどよめいている。


「えー、みんな注目ー!」

料理の皿の間から、白衣姿の松五郎が呼び掛けた。


「スイハンジャー主要メンバー全員集まった所で説明会始めるべ。おらは木霊の松五郎。となりが女房でスーツデザイナーの乙ちゃんだ。みなさんのメインマネージャーだべ。おらはメカニックを担当するべ」


「松五郎、お前科学者だったべか?汎用性高いキャラだべなあ!」


「バトル後は地味に敵のサンプル回収するべ。ミサンガのテレポート機能も、135回の実験を重ねてようやく完成したべ…」


乙ちゃんに自分のパワースーツのバ○ボン柄の文句を言いたかったが、琢磨はこらえて「なんかえらそうな木霊」の説明を聞いた。


「えー、おら達ちっちゃいし忙しいから各メンバーに一人ずつ、サブマネージャーが付く事になったべ。隆文担当はおらたち。ブルー担当は、薬師如来ルリオ」


「最悪だ…」

悟とルリオが、互いにうんざりした顔をした。


「グリーン担当は、弘法大師空海」


「まーくん、よろしく」


「…すでに居候決定ですよ。免許偽造して人間になりすまして…ってーか、あんたいつの間に実体持ってるんですか?幽霊のくせに!」


なに?この『電波』ワールド…ビール一杯で僕は悪酔いしそうでした。


「いっておくが、そなたも広義で『電波さん』ぞよ」

空海さんに痛い所を指摘され、七城先生は「いやだっ!」と叫んでますが、無駄な抵抗です。


「イエロー担当は、役小角!!」

「マネージャーってより体術の師匠なんだけどねー」

「こいつにちゃんとした仕事出来るのか?出会い頭に人をボコる常識ない奴だぞ!」


「万葉の時代の者だからそこはカンベンしてよー。めんどい雑務は、秘書の後鬼ごきに任せるからー」


「ゴキ?」


「俺様の弟子。仕事が出来る奴だからいずれ会わせるよ」

確かに、こいつよりはマシかもしれないな、と僕は思いました。


「えー、あと敵とのバトルは、皆さん社会人と学生だから金曜夕方から日曜日の間にしてえ所だが、急襲の場合もある事も考慮してけれ」


「つまりはアトランダム、ってことですか…?」


七城先生が顔を引きつらせました。


「その時暇な奴チョイスして転送すんべ。従って、5人全員で戦うとは限らねえ。実は、助っ人サブメンバーもスカウト中だけど…」


松五郎がなんか苦い顔で言ったのが気になりました。


「あと、最後におめえさんらはヒーローものの鉄則にあまり従わないからな、即ち『魔空空間に飛ばさない』『秩父の採石場でバトルしない』だべ。あ、めっちゃ社会に迷惑だから『巨大ロボットは使わない』べ」


「そ、そんな~」


「タカっぺ、『魔空空間理論』研究と『巨大ロボット』建造した時の試算額だべ…これが現実だべ」


「高っ!!は、払えません…」


「さっきの霞ヶ関バトルみたいなのも、今後はありってことかい?それに僕たち、ガッツリ目撃されてるけど…」


「サトル、ネットでニュース調べてみれ」


悟は松五郎の言われるままにした。


「そ、そんな…僕たちも、敵も『一切画像に写っていない』!!待て待て…軽傷者2名?警察は目撃証言のみで、捜査は非常に難航している…つまりは僕たち…」


「おまえらも敵も人間の撮影機器には映らないから、蜃気楼のようなものにしか見えねーべ。そう、つまりは『都市伝説』レベルだな」


「でも、掲示板には『霞ヶ関にヒーローキター』とか、しっかりウワサになってるんですけど!!」


「まー、そんなこと気にせずに闘え」


「妙なところで気になるよっ!気にし続けるよっ!その敵の正体も不明だし…」


「それは、ラボに帰ってから解析すんべ。あわてて集めてカケラ2~3片…空気に触れたら急速に消滅したからなあ…って、きららちゃんどうしたべ」


しきりに挙手するきららを、松五郎は指した。


「あのう…わたしのマネージャー、まだ紹介してないんですけど…わたしに白いしゃもじくれた子なの…」


「あ、そーだった。いま何処にいんべ?」


「この部屋入る前は見えてたんですけど…どこ行ったのかしら?」


ふすまの向こうからぼそぼそっと紫垣さんの声がした。

「マスター、食糧庫からビーフジャーキーだけが減っているんです…そちらで使いましたかね?」


「ええっ?…分かった、在庫確認して報告して下さい。補充するから…明日でいいよ」


「はい…」


紫垣さんが階下に降りるのを確認してから、悟は厳しい顔で室内を見回した。


「出てきなさい!ビーフジャーキー泥棒っ!!」


にゃはははは~っ。

ばつの悪そうな子供の声である。

いつの間にかきららの太ももの上に4、5歳くらいの女児が乗っていた。小さな両手にビーフジャーキーを3本ずつ握っている。


祭りのお稚児さんみたいな白装束姿で、黒くたっぷりとした髪は、奈良時代風に結い上げている。


「ちび女神の『ひこ』だにゃ。きららねたん、あーん」


『ひこ』と名乗った女児は、盗んだビーフジャーキーをきららに食べさせようとした。


「えーと、この子がわたしのマネージャーです。『ひこ』ちゃん、まず『ごめんなさい』でしょ?説明するには結構時間かかりますけど、いいですか?」


「もう終電ないし、明日は土日だし、思う存分話してくれたまえよ…『ひこ』くん、それあげるから…」


「にゃははー」


『ひこ』は、幼児とは思えぬ歯の力で、ビーフジャーキーをがぶしゅ、かぶしゅ!とかじり始めた。


今夜は眠れなくなりそうです。


母さん、お盆には(たぶん)実家に帰ります。


琢磨

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