第41話 つないだ手つながる糸



「あっ‼ あれ見て?! 」


ターニャがカズマとウィズが佇んでいるほうを指して叫んだ。

ウィズの手から放たれた白い霧がみるみる巨大な物体を形成していく。


「……カズマ…いったい何をするつもりなの?……」


その物体は、空を黒く染めあげていたグラトニーファングを押し退けるように、どんどん具現していき、ついには1キロほどの巨大な氷の四角い箱が出来上がった。

箱の一面には扇状の大きなラッパ?のようなものがグラトニーファングに向けられている。


「…凄い…‼ さすがウィズね…… 凄まじい魔力……。」


ターニャが呟いた。


ん? ターニャ?

ウィズって……知ってるの?


ううん。ターニャが約束してくれたんだ。彼女がちゃんと話してくれる。

今、私は私の仕事をしなきゃ。


「あっ‼ ウィズが倒れた。」


「えぇっ‼ あっ‼ほんとだ。」


作り終えたウィズが前向きに倒れるのが見えた。なんだかしらないけど御苦労様。そのまま一生寝てていいからね。カズマと魔界には私が。


「めぐみん?あれ何? 何しようとしてるの?旦那様。」


「……私もわかんない…。けど、あのひとは私を待ってる。私は私の仕事をすればいい。それで絶対勝てる。」


ターニャは大きなため息をついて


「……きっとそれだから誰もあなたの旦那様には勝てないんでしょうね。

敵に回したくないわ…本当に。」


あのひとの前では、神すらも狼狽するだろう。

だって。本当に何するかわかんないんだもん。

ターニャの言ってることも解るわ。

これほど恐い相手居ないだろう。


ターニャ…。敵なんだろうな……。

そんな気がした。


そんな中。

遠目にウィズがむくりと起き上がり、カズマに抱きついたのが見えた。

あぁぁ?! このメスアンデッド‼


「何してんだコラ‼ウィズ?! 離れろ‼ ちょ ウィズ?! 」


ターニャが笑いながら


「…大丈夫みたいよ? 旦那様。

嫌がって手を振ってるみたいだわ。ふふふ。」


「いやいやいやいや!

ちょっとあのメスアンデッドごと一発ぶちこみます!」


「やめなさい!めぐみん‼ 旦那様死んだらみんな助からない‼」


「でも……くぅううう‼ 終わったら覚えてなさい?! 絶対殺す‼」


「あの~お師様?……」


「えいみーはあんな男に引っかかるんじゃありませんよ?!

心配で心配でもぉぉお‼」


ターニャが大きな?マークを浮かべたえいみーを撫でる。


「大人になったら解るわ。今はそっと聞き流してあげてね。」


と笑ってる。


「ウィズ!ぶっっとば~す‼」



****************




「 こっ これくらいの大きさでいいですか?! よ 予想以上にしんどいです!」


「そんなもんだな‼ 通路はもうちょい長めのほうが安全なんだけどさ‼」


「えぇっ‼ も もうガス欠です‼ カズマさん?! 倒れていいですか?! 」


「えぇっ‼」


「倒れます‼ きゅぅぅぅう。」


「ウィズ!だ 大丈夫か?! 」


ウィズが受け身もなしに突然前のめりに倒れた。


「ウィズ!っておい‼ 返事しろ!ヤバいって! あいつら降ってくるぞ?!

ウィズ?! 白目?! おい‼ あっ薄くなってく?! おい!ウィズー?! 」


「はい。いただきます‼」


突然むくりと起き上がりカズマに抱きついてそのままキス。


「わっ わっ わっ‼ な な な な なにすんだ?! 」


「あー。あったかーい。もうちょっと。」


「おおぉぉお?! は 背後から黒い重圧感じるぜ?! 殺意?!

とにかくやめろ‼ なんかヤバい気がする!」


「もぅちょっとー! 先っちょだけー‼」


「えぇっ?! あぁぁ?! なんか背後がヤバい!

前もヤバいけど?! もふって。どんだけ巨乳だよ?! お前?! 」


「もぉぉ‼ ケチですね‼

いいです。 魔界でつづきね?」


「よろしくお願い……いやいやいや?!

とにかく早く片付けようぜ?! 」


「ふーんだ。カズマさんの意気地無し。

で。これからどうするんですか?」


「俺がマナタイト持ってあの中に入る。マナタイトを弾けさせれば、あいつらを誘き寄せられる。

クソ魚がぜんぶ入ったらお前はめぐみんに合図してくれ。んで。ぜんぶ片づいたら屋敷に迎えに来てくれよ。」


「…タイミング逃したら爆裂魔法で消し飛びますよ? ……本当に大丈夫ですか?…」


「まぁ何とかなるだろ? ………ウィズ。そんな顔すんな。

大丈夫だよ。早く片付けて魔界行こうぜ?」


「………もぅ…。本当に気をつけて下さいよ?

私を一回くらい抱いて下さいね?お願い。」


「そ それはめぐみんの許可を貰ってください?! 」


「ふーんだ。襲ってやる。………生きて帰ってね。お願いします…。」


今度は唇にキス。


「……ふふ。めぐみんさん怒りますね。本当に 気をつけて。」


「あぁ。じゃあ頼むぜ!狙撃!」


カズマは鉤爪を弓で飛ばして、氷の網に乗り込む。

キョウヤに振り向いて


「ミツルギ‼ 追い込み漁だ! 斬撃飛ばしてガンガンこの中に追い込んでくれ‼」


「わかった! 相変わらず突拍子もないな君は?! 気をつけろよ‼」


ダクネスが不安そうに見つめている。


「ダクネス! 無事に帰るから心配すんな‼ 帰ったら抱きしめてちゅぅだ‼ いいな?! 」


カズマは笑ってウィンク


「…………お前を信じてる‼」


カズマは遠くめぐみんの居るほうを見つめ、呟く。


「頼んだぜ。世界最強の爆裂魔法を見せてくれよ。」



****************



「あら?あなたの旦那様が居ないけど?! どこに行ったの…?」


そういえばカズマの姿が見えない…

目をこらしても、ウィズらしき人影が見えるだけだ。


「……よく見えないね…。たぶんその辺に居るはずだけど…。」


突然、物体から赤い閃光が弾けた。


「あっ? 魚が凄い勢いであの中に入ってくわ?! 凄い‼ 吸い寄せられてるみたい‼」


見ると

先導を失い散り散りになっていたグラトニーファングが、まるで吸いとられているように巨大な物体の中に入っていく。

同時にめまいのような感覚を覚える。

お酒に酔った時みたいに高揚感を伴う。何?何が起きてるの?

うわ。凄い酷い。


「た ターニャ?! 」


身体の変調に不安になり、ターニャを振り向くと、ターニャもえいみーも頭を押さえて気持ち悪そう。


「何なのこれ?二日酔いに似てるけど…?」


ターニャが呟く。

あぁ。そういうことか!

マナ酔いだ!

魔力のある人間は、急激に強い魔力を浴びると酔ってしまう。

魔王戦の時。マナタイトでドーピングした時も同じだった。


魔力のある人間は、自分の魔力の保有量までは自然にコントロール出来る。でも、外部から大量のマナを浴びると、それも身体は過剰に通してしまうから、酩酊した状態になる。

酩酊で済めばいいが、コントロールする術をしらない者は、気を失ったり、酷いなら発狂すらする。

えいみーは…?


「え えいみー? 大丈夫ですか?」


「…お師様……き 気持ちいいんですが…わたし…大丈夫でしょうか…?」


見ればえいみーは紅い顔でハァハァ言ってる。酔ってるだけみたい。良かった。


「……あなたは自然とマナをコントロール出来ているのですね。うん。私の見込んだ通り。あなたはとっても強い大魔道士になりそうです。」


えいみーは酔いから来るのか、すごく嬉しそうに飛び跳ねてはしゃぎ


「やったー‼じゃぁちゃちゃっと上級魔法覚えちゃお!

お師様?わたしちっちゃい頃ね。親友と約束したんです。あなたは私が絶対護るから、あなたは私を護ってねって。指切りしたんです‼だから強くなるの‼決めてたの‼」


可愛いなぁ。

ほんと、私の昔見てるみたい。

でも、その親友ってまさか……


「…紅魔族の子? あなたの親友って?」


「はい‼ 私たちすぐに引っ越しちゃったので、1年くらいしか遊んでないけど…でも絶対忘れません。一日も忘れたことないです‼ 大好きです‼結婚するんです‼」


「結婚?! ……女の子じゃないの?」


「女の子です‼ でも、かっこよくて可愛くて…大好きなんです‼」


「……名前…聞いてもいいですか…?」


「はい‼ こめっこと言います!」



やっぱり!!


昔あの子から聞いたことがある!


婚約者が出来たって。結婚するんだって。

相手の子が遠くに行ってしまうとかで、まるでこの世の終わりみたいに泣いて帰ってきたことがあった。


ずっと男の子なんだと思ってたから何とも思わなかったけど、当時こめっこに名前を聞いたことがあって、変わった名前の男の子だなって思ったのを、えいみーに出逢った時にうっすら思い出していた。


やっぱりあなたがこめっこの婚約者だったのね?!


「…えいみー?……驚かずに聞いて下さいね?

そのあなたの親友…こめっこは…私の妹なのです。」


刹那。


えいみーの紅い美しい瞳から涙が溢れる。

言葉を忘れたかの様に一言も発さず、 ただただ私を見つめたまま、ボロボロと次から次へと涙は止めどなくこぼれ落ちる。

心配になった私は


「 …えいみー? 大丈夫?」


と聞くとえいみーはしゃくりあげながら、少しずつその感情を吐露し始めた。


「……お母さま…ありがとうございます………………。

……ずっとずっと…ずーっと……お母さまの言う通りに祈っていました…。

…………こめっこに逢えますように…強くなって…こめっこを護れますようにって……ずっと…ずっと…ずっと……。

……お父さまと…お母さまが居なくなってしあのんを………しあのんを護らなきゃって………それでも…わたし…こめっこに逢いたくて……祈って……。

……泣いたら…こめっこに笑われるって……泣かずにがんばったら…こめっこが…護ってくれるって…信じて……。

…がんばって…がんばって…護って……祈って……がんばって…それだけを信じて……。」


私も

涙が止まらなかった。


なんて強い想い…

なんて強い子なんだろう。


たかだか8歳の身空で

こんな大きなものを背負って

それでも泣かないで妹の手を取って頑張って生きてきた。

祈りながら、信じながら。

一辺の曇りもなく。


…運命はこんな子に何をさせてるの?!


「……でも、今日叶ったよ。……………こめっこにたどり着いたよ…。

……それがわたしのお師様だなんて……。

ひっ……ありがとう…ひっく…ありがとう…お母さま…ひっ……ありがとう……ひっく……えーん」


堪らずえいみーを抱きしめた。

ターニャも号泣している。

私に抱かれるえいみーを撫でながら

何度も繰り返す。


「…良かったね…えいみー。良かったね。」



カズマが言ってた。


人の縁は不思議なもんだ。どこでどう繋がってるか分からない。

分かれ道を選ぶ度に現れたり消えたりするんだって。

選んだ道で、出逢えたひとが

そのひとの正解だと、自分がそれを本物だと思えるかどうかだって。


この子は独りで頑張って歩いて来たんだ。

祈りながら

消えやすく切れやすい糸を

その小さな手で

ちょっとずつ ちょっとずつ手繰りながら

本物だと思える道まで、こうやっていつか出逢えると信じて。


「えいみー。ここまでよく頑張りましたね。

あなたの頑張って歩いて来た道は正解です。

私がそれを誰にも否定はさせません。

あなたは間違いなく本物を生きてきたのです。

もぅ大丈夫。

あなたの縁の糸は私がちゃんと掴まえました。

だから生きて帰りましょう。こめっこが待っていますよ。」


「お師様ぁ‼」


私の胸で泣きじゃくるえいみーを何度も何度も撫で、決意した。


クソ神よ。

運命なんて知らない。

お前たちの好きにはさせてやらない。


私たちは絶対に本物を生きてやる‼



****************



カズマの姿が見えなくなってから、ウィズがインフェルノやカースド・ライトニングを放って、散らばったグラトニーファングを追い始めた。

同時にキョウヤも反対側から遠距離剣技で追いたてていく。


「凄い……。」


ターニャがため息混じりに吐く。

それくらいものすごい連撃を二人は繰り出している。グラトニーファングたちは堪らず、次々と追いたてられ、白い物体に逃げ込んで

いっている。


「…あの二人もほんと…敵に回したくはないわね……。」


ターニャの顔色が悪い。

心底そう思ってるんだろう。


「でも空を見て?もうすぐぜんぶの魚があの中に入ってくわ。」


私とえいみーが見上げると

確かにもぅちょっとであの物体に入りそう。

おそらくさっきの赤い閃光で呼び寄せたんだろう。

マナ酔いも治まったし、このまま私が撃てば終わりかな。

…いつ撃てばいいの?カズマ?


「あっ‼ ウィズが走ってくる‼」


ターニャが叫ぶ。

見るとウィズが大きく手を振りながらこちらに走ってくる。

なんか叫んでる…?


「――――!」


「何ー?! 聞こえない‼」


「――――って!―みんさん!」


「えぇぇ?! 聞こえないってば!」


「撃って‼ 今すぐ! めぐみんさん!あれをぶっ飛ばして‼」


「分かった!」


私はまた詠唱する。

今度は本気で爆裂雨を振らしてやる‼


「えいみー‼いきますよ‼」


「はい!お師様‼」


えいみーはそばで私の袖を掴んで立つ。


「ターニャ! 爆裂雨を降らせます‼

下がってて‼」


「…爆裂雨…? ……あの時の?

分かったわ。」


精神統一する。

ただ、紅い爆焔の渦に私を投じる。


さぁ行きましょう爆焔よ。

私はあなたと共にすべてをゼロに変えるのです。


「黒より黒く。

闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。

覚醒のとき来たれり。

無謬の境界に落ちし理。

無行の歪みとなりて現出せよ!

踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。

並ぶ者なき崩壊なり。

万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!

これが人類最大の威力の攻撃手段。これこそが究極の攻撃魔法!


エクスプロージョン!」



凄まじい音と共に撃たれた爆焔の腕は、真っ直ぐに白い物体を穿つ。

同時にいくつもの魔方陣が白い物体を取り囲み発生する。

軽く一キロを超えるその火柱は、すっぽりと白い物体を覆い尽くし、辺りは爆焔の海へと変わる。


「……こ これは……す 凄すぎる…‼」


後ろでターニャが呟く声に

私は微笑んで


「ターニャ?撃ったのはまだたった一発だけですよ?」


と答える。


「……まだ?! 」


「ぜんぶを吹き飛ばせとあの人は言っています。いきます。エクスプロージョン!」


第二波を飛ばす。

続いて第三波、第四波第五波と撃つ。

辺りの空間が歪み、地面が蒸発する。


第六波、第七波、第八波、第九波。

もはや白い物体は完全に崩壊し、マグマの様に煮えたぎる地面にボロボロとその残骸を落として、蒸気へと変わる。


「最後はえいみー?あなたも手を貸して下さいね。 私に手を。」


呆然と眼前の地獄を見つめていたえいみーは、その声で現実へ。


「は はい!お師様‼」


えいみーが右手を私の左手に差し出す。

私はそれを取り、前に出し


「あなたも一緒に撃ちますよ。せーの!」


「「エクスプロージョン!」」


爆焔は私とえいみーの手から放たれ、ひときわ大きくきらめき白い物体を完全に蒸発させた。



子供たちの歓声が聞こえる。

次の瞬間

私とえいみーは取り囲まれた。


「すごーい‼ 勝った!」

「すげぇ‼ 魚が消えた‼」

「大魔道士様‼ ありがとう!」

「えいみーすごーい‼」

「えいみーも爆裂魔法撃ったのか?! 最後の一番大きかった‼」


えいみーが照れて紅くなってる。ふふ。

私はえいみーを抱き上げ腕をあげさせた。


「未来の大魔道士の誕生です‼ みんな今日の日を絶対に忘れないで下さいね?」


「「「はい!大魔道士えいみー!すごーい‼」」」


ターニャが拍手すると、みんな一斉に拍手した。

えいみーは照れくさそうに私とみんなを交互に見る。


「とどめはあなたの魔力を借りました。この拍手はあなたのものですよえいみー。」


と言うと

ぱぁっと笑顔が咲いた。

そして、私の頬にキスして、みんなに向かって言った。


「私の名はえいみー!

世界最強の大魔道士の唯ひとりの弟子にして、やがて爆裂魔法を極めし者‼

みんなは絶対に私とこめっこが護ってあげる‼」


「「「わーっ‼‼」」」


一同は歓声でそれを称えた。



****************



ダクネスとウィズとキョウヤが走り寄ってくる。

…あれ?カズマが居ない…?


ダクネスが深刻な面持ちで私に


「めぐみん。急いで屋敷に帰るぞ‼」


ダクネスが焦っている。

なんで…?


「どうしたのですか?ダクネス。

グラトニーファングはぜんぶ消えましたよ?

それよりカズマはどこですか?」


ダクネスの表情がさらに険しくなる。


「だから急いで屋敷に帰りたい。

カズマが無事なのかどうか……。」


えっ?! どういうこと?

ダクネスが本当に辛そう。


「カズマがなんで?

ちゃんと説明してください!」


ウィズもキョウヤもうつむいてる。


「……カズマは…あの中でマナタイトを割って囮に…」


「お姉ちゃん!!!」


「……すまん。めぐみん…。」


身体が震える。手足が痺れる。

ああぁぁぁぁぁ‼カズマ‼カズマ‼


「ウィズ!! なぜ撃たせた!?

なぜだ!!?」


「………ごめん…なさい……。」


「このクソアンデッド‼‼ 塵に還してやる‼‼」


全魔力を集中する。幸いマナタイトのおかげで私の魔力は残ってる。

渾身の爆裂魔法を撃ち込んでやる‼


「めぐみん‼ 待て‼ 落ち着け‼

カズマはギリギリでテレポートすると言った!

僕たちはあいつを信じたんだ‼

ウィズは悪くない‼ カズマの頼みを守っただけだ‼ 信じてくれ‼」


あああぁぁああ‼ カズマ!

身体が震えて言うことを聞かない。

頭が真っ白だ。

カズマが……カズマが…


「行こうめぐみん‼ カズマの無事を確認しよう‼ ウィズのテレポートで。」


ガタガタと震える私の身体を押さえる様にダクネスが抱きながら、ウィズの元へ。

ターニャが近寄り、抱きしめてくれる。


「めぐみん。大丈夫。あなたの旦那様は絶対に大丈夫だから。ね。子供たちは任せて帰りなさい。」


「…ターニャ… ごめん…」


「……めぐみんさん。ダクネスさん。いきます。」


空間が歪み、私たちは屋敷に跳んだ。



****************



着いてすぐに走る。

気が逸る。気が気じゃない。

なにもかもどうでもいい。


カズマが…

カズマが無事で居てくれれば他に何も要らない。


「カズマぁあ‼ カズマぁあ!?

お願い!!無事で居て!!ひとりにしないで!!」


泣けてくる。


自分の頭の悪さに。

赤い閃光が走った時点で気づくでしょう?!

私が殺したんだ!!一番大切なひとを!!

一番大切な爆裂魔法で、私が!

私の手で!


「ああぁぁぁぁぁカズマ!!

カズマカズマカズマぁぁぁあ!!

お願い!!無事で居て!!カズマぁあ!!!」


「うっせーなおい。勝手に俺を殺すなバカアークウィザード。」


へ?! か カズマ!?


台所からカスタードパイをくわえたカズマがにやにやしながら出てくる。


「仕事早ぇなめぐみん。いつのまに作ってたんだ? 残りか?」


は は…はぁぁあ……良かったぁ……


「カズマ!無事だったか?! 」


ダクネスが駆け込んでくる。


「カズマさん…。」


ウィズも泣いてる。


「当たり前だろ? 俺を誰だと思ってんの?

ってちょっとヤバかったけどな。

まぁ無事だよ。」


とウィンクする。

私は全身の力が抜けて床にへたりこむ。

腰が立たない。

ダクネスがカズマを抱きしめてキスをする。


「お疲れ様。さすがだな。お前は私の誇りだ。」


カズマは嬉しそうに


「当たり前だって言ってんだろ?

お前らのリーダーなんだぜ。伊達に世界最強冒険者名のってねーよ。」


ウィズがしゃくり泣きながら


「…カズマさん。信じてました。

約束通り、魔界では私の身体を好きにしてくださいね? どんなプレイでもお好みのままに。」


むむっ?……


「おっ!おぃウィズ?!

俺そんな約束してねぇよな?! ……お願いしたいけども…。」


…あぁ?! コラ?今なんつった?!


「嘘!私の唇にキスして耳元で言ってくれたじゃないですか?! ひどい‼」


…………………あぁ?!


「言ってねぇよ‼ 唇にキスはほんとだけど…いやいやいや‼

ヤバいって?! ウィズ?! ほんとヤバいって!」


「カズマ? お前そんなことしてたのか?ウィズと二人っきりで…」


「してねぇってば!キスはしたけども…いやいやダクネス!信じてくれ‼ お前を愛してる‼」


ダクネスは紅くなって誤魔化されてるけど私は許さんぞ?コラ?


「カズマ。クソアンデッドとちゅうちゅう乳くり合ってたというわけですか……良ければあと一発撃てます。喰らうかコラ!!?」


「えぇぇえぇぇええええ?!」


「天界でアクアとエリスに宜しく!!!

エクスプロージョン!!!!」


「きゃぁああああああ!!」



****************

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る