第34話 太陽の家
「とは言ったものの……どうしますかね?」
別にウィズに用なんてないし
ゆんゆんのとこに行っても、何だかいらない気を遣われて面倒くさい気がするし…
あの娘あれで案外頭いいですからね……私の次にですけど。
「ま。無難にウィズんとこに戻りますか。」
とウィズの店を目指して
遠回りにのんびり歩いて行くことにした。
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「ん? こんなとこに建物なんてありましたかね?」
店に向かう道中。
川を渡った先の拓けていた区画に、大きな洋館が建っていた。
それは三階建ての洋館で、一見すると貴族の屋敷に見えるほど立派なもので、解放されたたくさんの窓からは子供たちの元気な声が聞こえている。
あぁ。もしかしてここって。
洋館の前に回ってみると、なるほど。門には[太陽の家]と書かれてある。
ふふ。
あなたらしいですねキョウヤ。
思わず笑顔になるその名前はまさしく、キョウヤの建てた孤児院にふさわしい名前だと思った。
そのまま立ち去ろうと踵を返すと
「お姉ちゃん?お客様ですか?」
と声をかけられた。
あわてて振り向くと、そこには7、8歳くらいの女の子が、3歳くらいの妹の手を繋いでにっこりと立っていた。
私は微笑んで膝をつき、少女に視線を合わせ
「いいえ。違うんですよお嬢ちゃん。私は通りがかっただけなのです。」
と言うと、少女の表情がさっと曇り
「そうですか。ごめんなさい。
戻ろうか。しあのん。」
と深々と頭を下げて、妹の手を引いて洋館へと戻ろうとした。
えっ?!
今、この子…名前……
「待ってお嬢ちゃん‼」
思わず引き留めてしまった。
少女は怪訝な表情で聞く
「どうしたんですか?お姉ちゃん…?」
私は彼女の瞳を覗き込んで確信した。
「…お嬢ちゃんのお名前教えてもらってもいいですか?」
少女は美しい笑顔でにっこりと笑って答えてくれた。
「私はえいみーと言います。」
私を真っ直ぐに見つめるその瞳は
紅く紅くきらめいていた。
「えいみー?お姉ちゃんも用事が出来ました。中に案内してもらってもいいですか?」
と言うと
えいみーの顔がぱーっと喜びに輝いて
「はい‼こちらにどうぞ‼」
と私の手も取って嬉しそうに歩き出した。
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玄関をくぐると
床や壁至るところにカラフルな模様の太陽が描かれており、またその色使いも、見ているだけでほっこりと温かくなってしまうような落ちついた暖色を基調にしてあった。
そして玄関ホールには開放感あふれる吹き抜けが三階まで突き抜けるように造られていて、吹き抜けを囲む様に階段が拵えてある。
一段一段の段は低く広く、真ん中にも手すりが設けてあり、どうやら登り下りの区別をつけてあるようだ。
これなら幼い子供でも安全に昇降出来るし、三階まで吹き抜けているので、万が一の事態にも対応しやすいだろう。
ふふふ。
よく考えられていますね…。
彼は本当に子供好きなんでしょうね。
思わず笑みがもれる。
キョウヤは居ないのかな…?
辺りをきょろきょろと見回していると、上から声がかかる。
「あっ‼えいみー。お客様なのー?
」
上を見ると、二階や三階の手すりからたくさんの子供たちが顔を覗かしている。
えいみーが嬉しそうに答える。
「そうよー!私がご案内したのー‼」
その言葉にみんなが一斉に階段を降りてきた。
「「わーお客様だー‼」」
降りてきてすぐに私は揉みくちゃにされる。凄い。
その中でえいみーが大きな声で
「みんなだめよ!キョウヤから教わってるでしょ‼ ちゃんとして‼」
その言葉に一同が静まりかえり、えいみーを中心に整列する。
私が戸惑っていると、またえいみーが大きな声で号令をかけると一斉に
「せーの!」
「「お姉ちゃんようこそ‼ 太陽のホームへ‼」」
私は軽く泣きそうになった。
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