第54話 隠れ隊員?


 空は暗く、瞬く星の数も片手で足りるほどしか見えない。

 そんな夜空の下を少女は、色々と悩みながら歩いていた。


 ――新藤君の言うことが本当なら、私がこれまで行ってきた正義とは何なのかしら。いや、それだけじゃない。この国は一体何を考えているのかしら。でも、彼の言うことを鵜呑うのみみするのも危険な気がするわ。


 蘭が口にしたように、サクラも彼等の話の方がしっくりくると感じていた。ただ、一方的な情報だけで判断するのは拙いと考えたのだ。


 そんなサクラに向けて、詰まら無さそうに隣で脚を進める蘭が口を開いた。勿論、既に拘束は解かれ、自由な状態となっている。


「なあ、このまま本部に戻って、なんて答えるんだ? いや、抑々、オレ達に嘘が付けるのか? なんか、前から疑問に思ってるんだが、なぜか洗いざらい吐いちまうんだよな~」


 その言葉を聞いたサクラが、それに返事をする代わりに難しい顔を作る。


 ――そういえば、これまで黙っていようと思った事も無いけど......彼女の言う通りかも......なんか、どうでも良い事までペラペラと話しているような気がするわ。それって、もしかして......


 サクラはこれまで疑問に感じていなかったのだが、蘭に言われてある行為が気になり始めた。


「ねえ、蘭って報告の前に、ドリンクを飲んでる?」


「ああ、飲んでるぞ! あれ、美味いからな~」


 そう、サクラは報告の前に決まってドリンクを飲んでいた。というのも、必ずそれが出されるからだ。そして、今考えるとそれが不思議に思えてきたのだ。


「ねえ、あれって待ち時間に出されるでしょ? 飲まないと呼び出しが無いような気がしない?」


「そういえば......この前、飲もうとして零したら、直ぐに替えを持ってきたな。だけど、それで飲む気をなくしたら、ずっと呼ばれなかったな。まあ、最終的に喉が渇いて飲んだんだけど、そしたら直ぐに呼ばれたような気がする。てか、あの部屋、乾燥しすぎだろ!」


 ――やっぱり......よくよく考えると、私もあれを直ぐに飲んだ時は、なぜか呼び出しが早かったような気がする......あれって、自白剤が入ってるんじゃないかな?


 蘭の言葉を聞いて、その疑惑を黒でないかと考え始めたサクラは、透かさず蘭に話し掛ける。


「ねえ、蘭、今回はあれを飲む振りしない?」


「それは構わんけど、なんでだ?」


 サクラが提案すると、蘭は直ぐに乗ってきたのだが、それの理由を知りたがった。


 ――どうしよう。蘭って、嘘が下手だし......まあ、でも、ここは話すしかないよね。


 賛成してくれたのは良いのだが、サクラは彼女に全てを語ることに不安を感じる。しかし、話さない事には始まらないと考えたようで、渋々ながらも説明することにしたようだ。


「あれって、自白剤が入ってるんじゃないかと思うの」


「なんだと! てか、それなら合点が行く。この前も余計に壊したのを内緒にしようと思ったのに、ついつい喋っちまったからな。それで、どうやって誤魔化すんだ?」


 ――それは......抑々の問題よね......正直に話すべきだわ。


 蘭の苦言に呆れたサクラだったが、気を取り直してその方法を告げたのだった。







 無事に報告を済ませたサクラは、自分の自室に戻ると、すぐさま部屋の中を見回して嘆息する。


 ――まあ、直ぐに分かる場所にはないか......でも、何かある筈だわ。報告も嘘を吐き通せたし......きっと、黒影には何か後ろめたいことがある筈よ。


 この組織に疑念を感じ始めたサクラは、慎重に部屋の中を捜索していく。そして、直ぐに見つけた。


 ――あったわ。これ、盗聴器ね。他にはないかしら......


 その盗聴器をそのままにして、更に部屋の中を探し回るサクラだったが、実はドキドキしていた。


 ――盗撮カメラが無くてよかったわ......


 そう、自分の淫らな姿を撮られていたら、どうしようかと思っていたからだ。勿論、蘭とは違って自分自身を慰める習慣はない。それ故に、そういった淫らな行為を覗かれる心配はないのだが、やはり自室となると裸になったりもするのだ。


 取り敢えず、全ての盗聴器の場所を見つけたものの、それは触らずにそのままにしておいた。しかし、そこで別の物が気になった。


 ――まさかとは思うけど......


 サクラは恐る恐る自分の服を脱ぎ始める。そして、まるで爆発物でも処理するかのように調べ始めた。


「サクラ! 飯食いにいこうぜ!」


 サクラが下着姿で自分の制服を調べていると、物凄い勢いで入り口のドアが開いた。


「ちょっと! 勝手に入らないでよ! というか、ノックくらいしてよ」


 だったら鍵を閉めれば良いのだが、実を言うと、数日前に蘭が壊したままなのだ。


「おっ! 下着姿で......今からやるつもりだったのか?」


「やりません!」


 下賤な台詞を叩き斬り、即座に蘭の側に移動すると、彼女の口を手で塞ぐ。


「ふぐぐ! お、おれ、のーま、ノーマルだぞ、おとこが......ふごふご......いい」


「バカ! そんなんじゃないわよ! 少し黙ってなさい。いえ、あなたも脱ぎなさい」


 暴れる蘭の耳元で囁くのだが、その言葉が更に彼女を混乱させる。


「だ、ダメだって......おとこ......が......いい」


「だから、ちがうの! 盗聴器を探すのよ」


「と......」


 さすがに理解したのか、蘭は素直に頷くと静かになった。それを見たサクラが耳元で更に情報の連携をすると、蘭は飛び出すように自分の部屋へ戻っていった。


「ら、蘭!」


 サクラは間違っても壊すなと告げようとして、そこで押し黙り、可愛い下着姿のまま蘭の部屋へと向かうのだった。







 その部屋では、二匹のネズミ宜しく二人の少女が部屋の隅でコソコソと遣り取りしていた。


「制服に仕掛けられて無くて助かったわ」


「そうだな。階級章も無くしてしまったし、丁度よかったじゃん」


 そう、スバル達は二人をアジトに連れて行く時に、怪しいと思われる物を全て捨てたのだ。

 まあ、それもミケの知恵なのだが――でも、そのお陰で二人は策略を知られることなく、自白剤入りのドリンクを回避できたのだ。


「新しい階級章には、見事に盗聴器が仕込まれてたからな」


「もう、この組織は信じられないわね」


「だから言ったじゃん。あの時、残れば良かったのに......そしたら、一発できたの......ふがっ!」


「あなたはエッチしか頭にないの?」


 盗聴器の存在を知って、疑心暗鬼になっているサクラに、蘭はほら見た事かと告げるのだが、邪な考えを言葉にしようとしたところで、口をふ塞がれることになった。


「まあ、戻るにしても、何か情報を仕入れたいわ。彼等は捕まっている仲間を助け出したいんでしょ?」


「ええ~、そこまでやる義理はないんじゃね?」


 ――確かに蘭の言う通りだけど......何か罪滅ぼしをしたいわ。助け出すのは無理でも、場所だけでも調べられないかしら。というか、蘭がその気じゃないし......それなら......


「蘭、このまま戻っても新藤君はエッチしてくれないと思うわよ? だって、可愛い彼女も......いえ、いけ好かない女に誑し込まれてたから」


「そ、それは、確かに......じゃあ、どうすればいい?」


「そこよ! 何かお土産を持っていけば、喜んで......いえ、致し方なく抱いてくれるんじゃない......」


 必死に蘭をそそのかそうとするサクラだが、スバルに絡むところで胸の痛みを覚える。


 ――あう......もう諦めようかな~。今頃も、あの女に誑し込まれて抱き合ってるんだろうし......嫌だな~、せっかく会えたのに、他の女と遣り捲ってるなんて......


 由華という名の可愛い女を思い出して、どっぷりと落ち込むサクラなのだが、どうやらその態度は見え見えだったようだ。それに気付いた蘭が即座に持論を展開した。


「馬鹿だな~サクラは、男はこなした数だけ上手になるんだぞ! 同じやるなら上手い方がいいじゃないか。入れた途端、終わったなんて言われたらドン引きだぞ? それに略奪愛の方が燃えるじゃね~か」


「略奪愛......ちょ、ちょっといいかも......あの女の鳴き面......見たいかも」


 まあ、ここ最近の由華はしょっちゅう泣きっ面なのだが――


「よし、じゃあ、情報を仕入れて奴等に合流しようぜ」


「そうね。ただ、慎重にね。どこで見られて、どこで聞かれているかなんて、解ったもんじゃないわ」


 結局、略奪愛の魅力に負けたサクラは、エッチしたいだけの蘭と共に、何処でもクラッシャーズの隠れ隊員となるのだった。

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