第168話 襲われた商隊

 屋敷内の内通者を特定する作戦は成功した。しかし俺は、まだ誰が犯人なのかを教えてもらってない。何故かというと・・・。


「だってシンちゃんに言ったら態度に出るじゃん」


 この一言で片付けられてしまった。


「ちょっと待ってくださいよ!凄く気になるんですけど!」


「シンちゃんが気になるとかどうでもいいから」


「どうでも良いって・・・」


「とにかく!事が進展するまではシンちゃんには内緒だから!」


 ユリアーナからは、絶対に俺には話さないという強い意志を感じたので、このままユリアーナに文句を言っても埒が明か無いと思った俺はアリサに聞くことに。


「アリサさん、何とか言ってくださいよ!」


「私もユリアーナに賛成ですわ」


 なんだとー!


「コレナガ、以前、門の前で私が犯人候補が消えたって話をした時の事覚えてます?」


「え?あ、はい。「対象がいなくなった」って教えてもらった時ですよね?」


 あれがどうしたというのだろう?


「あの時のあなた、そりゃもう不自然なほどにキョロキョロしてて、私「ギョッ」としましたわ」


「うっ・・・でも、あんな事聞かされたらあんな行動に出るのは普通じゃないですか」


「ええ、だからあなたに教えるのは止めときましょうと、私がユリアーナに言いましたの」


「・・・・・・」


 くっそ~反論したいが反論できない!つーか現在進行形で、ルーナ以外の人には挙動不審になっている俺がいる。


「あっ!でも、親衛隊のコルラッドについては別に隠したりしてないじゃないですか!」


 そうだよ!あっちは良くてこっちはダメとか意味わからんぞ!


「だって親衛隊のコルラッドと会う事なんてほとんど無いじゃん。でもこっちは同じ家に住んでるんだよ?同じじゃないでしょ」


 ユリアーナはそう言うと、この話は終わりと言わんばかりにとっとと部屋を出て行った。


 俺は残ったアリサとエレオノーレさんの方を向いた。


「ダメですわよ。教えられませんわ」


 アリサにはそうきっぱりと言われ、エレオノーレさんには凄く困った顔をされてしまった。


 え?何?俺、そこまでダメなの?


 俺は自分への信用度の無さに、しばらくの間愕然としてしまったよ。


 でもまあこの時はまだ良かったんだよな。このくらいの事で怒ったりへこんだり出来てたんだから。


 それから数日後、俺達はショッキングなニュースを受け取ることになった。


「サランドラの商隊が襲撃を受けた!?」


 俺は思わず大きな声を出してしまい、慌てたユリアーナに両手で口をふさがれてしまった。


「ちょっと!大きな声出さないでよ!」


「す、すみません・・・。ですが今の話は本当なんですか?」


「はい。今現在バルサナ軍と女王陛下の親衛隊による調査が入っています」


 このしらせを俺達に持ってきたのはアリーナだ。朝早くからユリアーナにたたき起こされたと思ったら、すぐにアリーナが部屋に飛び込んできてすげえ驚いた。


 ティルデは部下を引き連れ現場へ向かい、陛下とアリーナは本部で情報収集、そしてアリーナは俺達へ知らせに来てくれた・・・という事を、アリーナから説明を受けたところだ。


 そしてそれを聞いたフィオリーナさんは、サランドラのアルターラ支部へとすっ飛んでいったらしい。


「しかし一体誰がそんな事を。やはり盗賊ですか?」


「一応、軍の調査隊からの初期調査では盗賊の仕業だろうとい報告書が届いています。ですが・・・」


「あまりにもタイミングが良すぎますね」


 アリーナの言葉を引き継ぐように話したエレオノーレさんの言葉に、俺達は皆黙って頷いた。


 そもそもサランドラ商会は、バルサナとのコネクションが無い。なので、取引自体行っていなかった。


 それが今回初めて取引を開始して、まさにその第一弾の物資がバルサナに運ばれようとしていた矢先にこの事件だ。そんな偶然あり得るか?


「しかしバルサナ軍の初期調査報告書には不自然な点は無く、現在ティルデさんが行っている現地での調査の報告待ちとなっています」


「そうなるとやはり、ただ単に賊に運悪く襲われてしまったという事なんでしょうか?」


「うーん、どっちにしても親衛隊の調査報告待ちってことになるかもね」


 俺の疑問にはユリアーナが答えてくれた。やっぱそうだよなあ。ティルデの調査結果を待つしかないか。


 そしてそれからしばらくの間、俺達は俺達に出来る事をしつつ、ティルデの調査報告を待った。そして1週間後、ティルデが調査結果を持って屋敷へとやって来た。


「結論から言えば、限りなく「黒」に近い・・・と言わざるを得ないわ」


 ティルデが俺達に提示した答えはそれだった。


「ティルデがそう結論付けたのなら、それなりの根拠があるのだと思います。聞かせてもらっても?」


「もちろんよ」


 ティルデは俺にそう言うと、ソファに改めて座りなおした。


「まず第一に、状況がおかしすぎるの」


「状況がおかしい?どういう事です?」


「普通、盗賊に襲われた場合、金品の強奪だけでなく、その場にいる商隊の全てが殺されていても不思議ではないわ。ところが今回の事件では全員が怪我の有無はあるけど、命を落とした者はいない」


「えっと、それはただの偶然とかではなく?」


「なんとか盗賊から逃げ延びた少数が生き残ったのならともかく、その場にいた全員が無事に生きに残る?そんな話聞いたこともないわ」


 俺はこの世界の盗賊の都合などわかるわけがないので、思わずユリアーナの方を見た。


「もしシンちゃんが盗賊なら、わざわざ自分達の身の安全を脅かす証人を生かしておいたりする?」


 確かに、実際俺が盗賊でも、証拠隠滅の為に誰も生かしておいたりしないだろう・・・。


「そして第二の不可解な点・・・」


 そしてティルデは、さらに俺達に不審な状況を説明した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る