第166話 持ち出された資料
反対派への対策はかなり上手く行っていた。
現在主犯と見ているコルラッドへ偽の情報を流すことにより、陛下が屋敷に来ない日に反対派が大挙して押し寄せてくると言うようなことが多くなった。
もちろんその日に陛下が来ることは無く、反対派の皆さんは陛下が来ないのに炎天下の中、一日中反対のこぶしを突き上げていた。全くご苦労なことだ。
ただ、気になるのが当のコルラッドの様子だ。
偽の情報を流されて、さぞ慌てているだろうと思いきや、特にそんな様子は見られない。
ある日コルラッドが「最近スケジュールが目まぐるしく変更されていますが、何かございましたか?」と陛下に尋ねた事があったらしい。
もちろん「お前が怪しいから」とは言わず、やることが多すぎて、管理が行き届いてない旨を陛下は謝罪したそうだ。
すると「今は陛下にとって大事な時です。無理せずお休みになられることも検討されてください」等と言われたんだと。
あまりに落ち着いた様子なので、「実は彼は無関係なのでは?」と考え、一度テストと称して本当の予定をコルラッドに流したところ、反対派が押し寄せた事があった。
やはりコルラッドから情報が流れているのは確かなんだが、なんだかな~と言った感じだ。
だがそれよりも、今はもっと別の悩みが出来てしまっている。それもこちらのほうがより深刻と言える。
「これで3件目ですか・・・」
「ごめんなさい」
「あ、いえ、アリサさんを責めているわけではないんです!」
俺は慌ててアリサに弁解した。
何が3件目かと言うと、アリサ商会が契約した商会が、この屋敷の軽から手を引くと言ってきたんだ。それが3件目だと言う話だ。
この屋敷はかなり広い。なので、バリー商会とサランドラだけでどうにかするのは無理なんだ。
なので、陛下からある程度の権限を委託された両商会が、商会に付き合いのある地元の商会にこの屋敷での仕事を振り分ける事にしたんだ。
そしてさっき、そのうちの1件が断りを入れてきたわけだ。
断りを入れてきた3件とも話を聞いた時には飛びついてきたらしいけどね。それが何で急に断りを入れてくるような事態になっているのか。
「何かおかしいね」
ユリアーナがぼそっとつぶやいた。
「何がですか?」
「だってここに来て、急に幾つもの業者が断りを入れてくるんだよ。こんなの普通あり得ないよ」
「確かにそうですが・・・」
そうは言っても、相手の都合による以上、こちら側からではどうにもならないからなあ。
「あまり考えたくは無いのですが・・・」
エレオノーレさんが言い難そうに発言する。
「この屋敷にも内通者がいる可能性があるのではないでしょうか?」
「ええっ!」
俺は心底驚いた。だってこの屋敷にいる内通者って、屋敷に常時いるのは、メイドの「ルーナ」に「ドロレス」、そして執事の「イグナシオ」の3人だぞ!
「いや、そんな事あるんでしょうか?」
俺は思わず疑問を口にしていた。エレオノーレさんを否定するわけじゃないが、どうにも信じ難かったんだ。
それになんでバリー商会で問題が発生したら、この屋敷の人間が疑わしい事になるんだ?
「実は、今回の取引停止なんですが、サランドラ側では発生していないんです」
「ん?つまり、バリー商会側の業者だけで取引停止が相次いでいるって事ですか?」
俺はそう言いながらアリサの方を見た。ジト目で。
「ちょっと!なんですかその目はコレナガシン!別に無茶な要望とか取引なんか、バリー商会はしてませんわよ!」
oh!なんで俺の考えていることがわかったんだ。
「まあ、冗談はともかく、それはちょっと気にはなりますね」
気にはなるが、バリー商会と屋敷との関連性がイマイチわからん。
「実はですね、バリー商会は取引相手の資料をこの屋敷で保管していたんです」
「え!?そうなんですか?」
俺はアリサに確認した。
「その通りですわ。何しろ通信でリバーランドとは連絡が取れますから、手元に資料を残しておきましたの」
「えっと、サランドラの資料は・・・?」
「詳しくは知りませんが、こちらで預かっているという話はありませんね」
俺の言葉にエレオノーレさんが答えてくれた。という事は、この屋敷で保管している可能性は低いって事か・・・。
まあ、フィオリーナさんの性格からして、ライバルが常駐しているこの屋敷に大切な資料を残しておくような事はしないだろう。
「資料を屋敷に残したバリー商会は取引停止する業者が現れ、そうではないサランドラは取引停止の被害にはあっていない・・・」
つまり、屋敷内の誰かが、バリー商会の取引相手を盗み見て、それを政府のお偉いさんに流す。そしてそこから業者に圧力なりもっと良い条件で手を引かせるなりしてるって事か・・・。
ここまで現状を提示されたら誰だって屋敷に内通者がいる事を予想するだろう。はあ、まじかよ・・・。
「断言はしませんが、スパイがいる可能性はかなり高いでしょうね」
皆が感じていることを、エレオノーレさんが口にする。
どうにか親衛隊のスパイに関しては対処方法が見つかったと言うのに、今度は屋敷の方で疑惑発生か。
ここに来て、次から次に問題が降りかかってくる。
「とりあえず大事な資料は本国へ送っておきますわ。それで・・・犯人捜しはどうしますの?」
「ど、どうしましょうか?」
アリサの言葉に、俺はこれといった答えを持っていなかった。
「でも、バルサナ国内の業者からは断りの連絡は入ってないんですよね?」
「はい。一応、ダリオさん経由で取引はしていますが、今の所取引停止を望む声は聞いていませんね」
エレオノーレさんの疑問に俺はそう答えた。バルサナ国内の業者からは取引停止の連絡は一件も無い。
「そういえば妨害するならバルサナ国内からの方が手っ取り早いのに、なんでこんな面倒な事をしているんだろう?」
「むしろ国内だから手を出しにくいのかも」
ユリアーナが俺の問いに答える。
「何故です?」
「国内でそんなことしたら、政府が反対派を主導していると自ら言っているようなものじゃん。あくまでも反対は国民の意思で行われている・・・そう思われなきゃ意味が無いから」
「なるほど・・・」
そりゃ用意周到に年数をかけてバルサナに侵食してきたガルドラだ。そのくらいの事理解しているに決まってるか。
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