第156話 女王の婚約者

「お久しぶりでございます女王陛下」


 そういってオルガ女王の前で片膝をついてかしこまっているのは、評議委員の息子の「アルフィオ・バッソ」だ。


 馬車から降りて女王陛下に挨拶するまでの所作全てが「THE貴族」という感じで洗練されていた・・・ような気がする。しかもイケメンだ。


 大体こういう場合、父親が陛下とは敵対する側の評議委員なんだから、息子ももうちょっとこう、意地悪な感じと言うか、いやらしい笑いを浮かべたような奴ってのがお約束じゃないのか。なんだこれは。


「お久しぶりですアルフィオ。お父上はお元気ですか?」


「はい、父上も陛下に長らくお会いできていないことを残念に思っているとの事です」


「そうですか。このオルガも、デオフィロ委員にお会いできず大変残念だと、ぜひお伝えください」


 俺が見てもわかるような超うすっぺら~い挨拶を二人は交わしていた。まあでも、内情を知っているから、どうしても先入観ありきで見てしまっている感は否めないけどな。まあ、少なくとも陛下の本心では無いだろう。


「ところで、こちらの者は・・・」


 一通りの挨拶を終えるとアルフィオが俺達を一瞥してからオルガ陛下にそう尋ねていた。まあ、どう考えても「ザ・平民」の俺達がこの場にいることには違和感しか感じないよな。


「こちらの方は私の新しい取り組みを手伝ってくださっている協力者の方々です」


 陛下が俺達を紹介してくれたので、俺は自己紹介することにした。


「はじめましt・・・」


「陛下!あれほどご勝手はしないで頂きたいと申し上げたはずです!」


 陛下の言葉にアルフィオは俺の自己紹介など無視し、オルガ陛下にそう大きな声で訴えていた。


「陛下がこの屋敷を使って何かを行おうとしている事は城の評議委員会の耳にも入ってきております。あまり勝手なことをされますと、陛下のお立場が・・・」


「ここは私が所有する私の屋敷であり、その維持には国からの負担を一切受けておりません。その場所で私が何を行うかは私の自由なのではありませんか?」


 陛下のその言葉を聞くとアルフィオは大きなため息をついた。


「陛下、そういう事では無いのです。国には国の方針と言うものがあります。陛下がその方針を無視して様々な事を行う事で、どれだけ評議委員の心証を悪くしているか!私も父もそれを心配しているのです」


「私が私の私有地で何かを行う事が、評議会の方針にどう反すると言うのでしょう?」


「オルガ、そういう事ではないんだ!僕は評議会に目を付けられている君の事が心配なんだ!今は父上の計らいで何とかなってはいるが、これ以上勝手をするなら父や僕でもどうにもならないかもしれないんだ!」


 アルフィオはそれまでの陛下に対する話し方とは全く真逆の、とても親しい人間に話すかのような話し方になっていた。あれ?もしかしてこの二人そういう事なの?いくらにぶちんの俺でもここまであからさまだと・・・。


「しかもこんな得体の知れない平民達と一緒になんて、何を考えているんだ!」


 おい、得体が知れなくて悪かったな!いやでも得体が知れないというのは間違いないのか?俺なんか異世界人だしな。


「あなたの言う事はわかりましたアルフィオ」


「では・・・!?」


「ですが、私はあくまでも個人的に何かを行いたいだけであり、別に評議会に反抗したいわけではありません。そこはご理解ください」


「・・・わかりました。今日の所は一旦帰ります。ですが私は諦めませんよ!」


 アルフィオはそういうと、俺達がいる場所を「どけ!」と言わんばかりに歩いて馬車へと乗って、そのまま屋敷の門から出て行った。


 つ、疲れたあ・・・。あいつが居た時間はそれほど長くは無かったんだが、どっと疲れた。


「お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません」


 屋敷の敷地からあいつがいなくなってほっとしていると、陛下が俺達にそう謝罪してきた。


「い、いえ、とんでもないです。こちらこそ重要な場に居合わせてしまい申し訳なかったです」


「部屋に入り一息つきませんか?」


 陛下にそう言われ、俺達は屋敷の中の応接室に移動した。そしてルーナが結構良い品物だと思われる「来客用のお茶淹れちゃうね!」と言って、素人の俺でもわかるくらい良い香りのする紅茶を用意してくれた。


「まずは、皆様への非礼の数々をお詫びさせてください」


 そう言ってオルガ陛下は俺達へ深々と頭を下げてきた。なので俺は慌てて陛下を止めに入った。そもそも陛下が謝る事じゃないしな。


「あれは悪い人間では無いのですが、如何せん世の常識と言うものを知らなさすぎるのです」


 ああ、まあなんかそれはわかる。俺達の事をゴミを見るような目で見ていたしな。しかもわざわざ俺達のいるところを無理やりどけさせて歩いて帰ったしな。


「あの~、さっきの男は陛下の恋人か何かですか?」


 ユリアーナが陛下にそんな質問を投げかけた。お前、仮にも国のお偉いさんの息子に向かってあの男って・・・。しかしその質問は俺も気になる。


「一応公的には婚約者・・・そうなっているようですよ」


 やっぱりそうだったか。でも陛下からの返事は、それはそれは完全に他人事のようなものだった。でもアルフィオの態度からして、あっちの方はオルガ陛下にいれあげていたけどな。


「ええ、あれは趣味悪いですよー」


「ちょっと!あんた何言ってるんですか!」


「ええ、だってシンちゃんも思わなかった?あの人陛下を自分の思い通りにしたくて仕方ないって感じだったよ」


「うっ、それはその・・・」


 確かになあ、それはそう思ったよ。だってあの男、陛下の事を考えている・・・まあ、本人は本当にそのつもりなんだろうが、全部国や自分たちの都合でどうにかしようって考えだったからなあ。


 陛下がどうしたいのか・・・って所には微塵も触れやがらなかった。それどころか全否定だからな。アルフィオはわからんが、父親の評議委員のデルフィオ・・・だっけ?そっちは絶対政治的にお飾りとはいえ王家の人間と関係を結んで自分の家を盤石に・・・みたいにしか考えて無い気がするわ。


「いいんです。ユリアーナさんの言う通り、彼は悪い意味で人と言うものをまるでわかっていません。そして彼は自分の行動が私の為になると信じてやまないのです」


 そう言ってオルガ陛下はため息をついていた。まあ要は世間知らずのお坊ちゃんってところか。


 それにしてもフィオリーナさんの陛下への謁見が今日じゃなくて本当に良かった。謁見中にあのボンボンに乗り込んでこられたりしたら目も当てられなかったぜ。

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