第148話 爆誕!コレナガ商会

 最近は軍の馬車に揺られることが多い気がする。つい2,3日前にもティルデやアリーナに付き添われて軍の馬車で屈強くっきょうな冒険者のつどい亭に行ったところだ。


 そして今日も同じバルサナ軍の馬車で、屈強な冒険者の集い亭で行われるオーナー会議に向かっている。まあ、軍の馬車とは言え貧乏な女王陛下の馬車だ。誰もこれが女王陛下直属の軍の馬車とは思わないだろう。


 先日ダリオと対面したときの心境に比べれば、今日はまだ心に余裕がある。なにせ協会トップ・・・かどうかはわからんが、ダリオの後ろ盾がある事は確かだ。彼に認められているのとそうじゃないのとでは精神的な面で雲泥の差があるだろう。


 しかし女王陛下やユリアーナの言葉ではないが、それを理由に気を抜くのは愚者のやる事だ。ブリジッタやソフィーを離脱させなければいけないような、大変危険な事に関わっている事を忘れてはいけない。


 そう思い、俺は緊張感を保つよう努力している。なのに・・・だ。


「あーもう、なんでこんな朝早くから会合とかするのよ~。おかげで朝ごはん食べそこねちゃったじゃない~」


 緊張感のかけらも無い奴が役1名いるんだが!


「別に早くないでしょう!ユリアーナさんが昨日遅くまでルーナさんとおしゃべりしてるから、寝坊したんじゃないですか!」


「だって、ルナルナとのお喋り楽しいんだもん」


 昨日の夜、俺は今日に備えて早く寝ることにしたんだが、ユリアーナはちょっと散歩してくる~と言ってそのまま帰ってこなかった。聞けば、日付が変わるくらいまでルーナとお喋りをしていたという。


 あ、ちなみに今日の会議に同行するのはユリアーナだ。当初はエレオノーレさんの予定だったのだが、朝起きたらユリアーナになっていた。なんでだ?何が起こったというんだ。めちゃくちゃ不安なんだが。


「とにかく、会議中は静かにしておいてくださいよ?」


「シンちゃん私を何だと思っているのよ!」


 俺は彼女の事をエレオノーレさんではなくユリアーナだと認識しているので、正直大変不安で仕方ない。しかしそんな事を口にすると絶対喧嘩になる。この大事な大一番の前にそんな事はしたくないので俺は黙っている事にした。


「大体後ろ向きすぎるのよね~。悩んでもしょーも無い事でシンちゃん悩み過ぎなのよ。こんなもんなるようにしかならないって」


 前言撤回!この女黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!


「僕もあなたがエレオノーレさんだったら、ここまで心配しなくて済むのですけどね!」


「はああっ!?私の何が不満なのよ!?」


「全部です全部!チェンジお願いします!」


 こうして俺とユリアーナは、宿屋につくまでずっと喧嘩していた。おかげで変な緊張はせずに済んだが、どっと疲れたぜ・・・。


 さて、オーナーの会合という戦いのゴングが鳴る前にすでに疲れ果ててしまったわけだが、さすが宿の扉の前に立つと緊張が蘇ってきた。あと、また給仕のあの子に舌打ちされるのだろうかと違う種類の緊張もしている。


 カランカラン~。


 俺は集い亭の扉を開けて中に入った。そこには食事をしている宿屋の客でいっぱい・・・なんて事は無く、20人くらいのおっさン達が1階の酒場兼食堂にひしめきあっていた。そして入り口から入ってきた俺達を一斉に見ている。これ全員宿屋のオーナーか?怖すぎるぜ。


「し、失礼します・・・」


 俺は恐る恐る挨拶しながら店の中へと入っていった。ユリアーナもそれに続く。さっきまでとは違い、非常に礼儀正しい振舞いを見せている。


「おう、来たか」


 そういってダリオのおっさんが俺達を手招きしている。ここからは打合せ通りに事を運ぶ計画だ。


「こいつらが、さっき言ってたリバーランドから来たっていう商会の人間だ。じゃあ自己紹介してくれ」


 ダリオに促されて自己紹介を始める。


「初めまして、コレナガ商会のシン・コレナガと申します。こっちはパートナーのユリアーナです」


「お初にお目にかかります、ユリアーナと申します」


 俺達はあくまでビジネスとしてこの街にやってきたことをアピールした。コレナガ商会なんてものは架空の会社だが、一応バックにはアリサの所のバリー商会が付いている事にしている。単なる冒険者とか旅人が女王陛下とビジネスパートナー何てこと常識的に考えてあり得ないからな。


 もし細かく突っ込まれたら、バリー商会との契約上明らかに出来ないとか適当でっちあげることにしよう。念の為にバリー商会との繋がりを示す書状も準備万端である。架空会社「コレナガ商会」爆☆誕の瞬間だ。


「実はつい先日、この街で新たな事業を始めるという事で、説明の場を設けさせてくれないか?と相談されててな。それでいい機会だからオーナー会議で話してもらおうと思ってな」


 そう言ってダリオは俺に説明をするよう促す。皆の目線が注目する中、俺はさっきまでダリオがいた位置に移動する。そして前を向いて話し始めた。


「初めまして、本日はこのような場を設けていただいた事、誠に感謝いたします。時間ももったいないので、早速ご説明に入らせて頂きます」


 俺はそう言って手元の資料に目を移した。手元の資料つっても特に大したことは書いていない。説明する事を箇条書きにしただけのものだ。しかし何も持たずに話をするのもいまいちリアリティに欠ける気がしたので用意してみた。


「まず、私共はこの街で新しいタイプの宿の経営を行いたいと考えております」


 あれ?ちょっと待て!今の言い回し、すげえうさん臭くね?なんか詐欺か何かのセミナーみたいな・・・。いやもう始めちゃったもんは仕方ないが、もうちょっと言い回しを考えれば良かった!


「新しい経営って何だ?」


「宿を始めるって、俺達のライバルになるって事か?」


 俺の発言に上記のような様々な反応が返ってきた。まあ、新しい宿が増える=ライバルって発想は普通だよな。ここら辺は想定内だ。


「皆さんは丘の上の女王陛下のお屋敷をご存じだと思います。実は、あのお屋敷をまるごと宿屋にする計画を我々は立てています」


 俺がそう発言すると、全くと言って良いほど反応が無かった。あれ?もしかしてインパクトに欠けた?いやいや、あの屋敷丸ごと宿屋だぞ?そんなわけはねえ!


「・・・あ・・・」


 あ?


「あの屋敷を丸ごと宿にするだとおおおおおおおっ!」


「何の冗談だそりゃ!」


「俺達を無職にする気か!ふざけんな!」


「あんなでかい屋敷を宿になんかされたら、俺達の商売上がったりだろ!」


 しばらくシーンとしてたかと思うと、今度はオーナーからの怒号が飛び交う場となってしまった。ど、どうしよう・・・予想以上に皆さん怒っていらっしゃる・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る