第113話 レベル1の理由
「やあ、コレナガさん」
寮にやって来たのは本当にレオナルドだった。真っ白な歯が「キラッ」と輝いているから間違いない。
「えっと、どうしたんですか?」
レオナルドには連絡先としてこの住所を教えていたので、ここにやって来たこと自体は不思議でも何でもないんだが、どういう理由でやって来たのかは謎だ。
余談だが、カーラからもしつこく住所を聞かれたんだが、そこは断固としてお断りした。あいつの目当ては絶対ユリアーナだからな。
あいつに教えた日には、この家に入り浸るに決まってる。やっと手に入れた俺の安息の地、簡単には手放さないぜ!
「実はギルドから連絡があったんだ」
俺が一人で
「ギルドから?」
ギルドからレオナルドに何の連絡があったというのだろう?と言うより、俺にもこうして知らせに来たって事は、俺にも関係あるってことだよな?
「あの、ここではなんですし、中へどうぞ」
ああ、そりゃそうだ。玄関先で話すような内容では無いだろう。
「じゃあお言葉に甘えて上がらせてもらおうかな」
「どうぞどうぞ」
そう言って、リビングへのソファーへとレオナルドを案内した。
「あれ?レオっちどうしたのこんな夜中に?」
「実はギルドからコレナガさんに連絡があったんだよ」
突然のレオっちの来訪に驚くユリアーナさん。
いやまて。なんだ「レオっち」って。いつの間にそんな仲良くなってんだよ。これだからコミュ力ある奴は・・・。
「なんで変な顔してんの?」
「なんでもありません」
俺は咄嗟にそう答えた。まさか「お前らのコミュニケーション能力に嫉妬してたんだよ!」等というわけにもいかない。
「えっとそれで、ギルドからの連絡とは一体なんでしょう?僕の所へ来たって事は、僕にも関係ある事なんですよね?」
「ああ、まあな」
しかしレオナルドは、俺の言葉にうわの空で返事をし、何やらキョロキョロと周囲を見回していた。
「えっとレオナルドさん、どうされました?」
俺はレオナルドがあまりにも挙動不審なので、思わずそう聞いてしまった。だってさっきから「ふーん」「ほう」とか言いながら、部屋の中を見回してるんだぜ。
「あ、いやすまんすまん。本当にユリアーナと一緒に行動してるんだなーと思ってさ」
あー、そっちですか・・・。
「実はずっと不思議に思っていたことがあってさ」
「不思議?」
レオナルドはエレオノーレさんから勧められてソファーに腰を下ろしてから、そう語りだした。
「ユリアーナと言えば、俺達冒険者の間じゃ数少ない高レベル冒険者として有名だ」
「なんかそうらしいですね。僕もこの前初めて聞きました」
ブリジッタから聞いたんだよな確か。国で1000人も居ないとか何とかって。目の前で寝転がってあしをばたばたさせながら本を読んでるこいつを見てると、とてもそうは思えないが。
「それで思ったんだよ。そんな凄腕の冒険者とパーティーを組んでて、なんで君はレベルが1のままなんだって」
ああ、なるほどー。確かに、高レベル冒険者と一緒に旅してるのに、レベル1ってのは違和感が・・・と言うか、違和感しかねーな。しかしこれどう説明したもんかなあ。
「レオナルドさん」
俺がレオナルドへの説明を考えていると、エレオノーレさんがレオナルドに話しかけていた。
「ほら、実は私もレベル2なんですよ」
そういって自分のマザープレートを取り出し、レオナルドに見せている。
「ええっ!いやでも、森の中では凄い剣術で魔獣を倒してたじゃないですか!?」
レオナルドは訳が分からないと言った感じで、立ち上がっておろおろしている。そりゃそうだ。あんな凄い剣技を見せられて実はレベル2でしたー、なんて、質の悪い冗談にしか聞こえない。
「実は私、元軍人なんですよ」
「え?」
そうだった。エレオノーレさんは、元軍人だ。なので剣の扱いはお手の物なんだ。ただ、モンスターと人相手では、色々と戦い方も違ってくるらしい。なのであの剣さばきでもレベル1からスタートなんだと。
「なるほど・・・。あの剣の使い方は軍で培った物なのか」
「そうなんです。なので魔獣相手にはまだまだひよっこなんです」
「いや、とてもひよっこの立ち回りにはみえなかったけどな・・・はは」
「ですよねー。俺なんか何やってるのかよくわかりませんでしたから」
なんか剣を2回ほど振ったのはわかったんだけど、速すぎてどういう振り方したかなんて全然わからなかった。
「いやでも、コレナガさんにも驚いているんだ」
「へ?僕ですか?」
あの場面で俺に驚くようなシーンなんかあったか?
「だって、魔法剣士だって聞いてたのに弓を持って来ていたし」
そっちかよ!
「あっはっはっはっは!だよねー、なんでこいつ弓持ってんの?っておもうよねー!」
ユリアーナがここぞとばかりに大笑いしている。くそー、怒りたいが事実なので怒れねえ・・・。
「いや、それもなんだけど、レベル1にしては弓の精度が素晴らしかったんだ」
「ホントですか!?」
俺は思わず身を乗り出して聞いてしまった。だって弓とは言え、誰かから褒められる機会なんてそうそうないぞ!
「ああ、知り合いに俺と同じくらいのレベルの弓師がいるんだが、そいつと同じくらい上手かったと思う」
ま、まじかー!やばい!すげえ嬉しい!だってレオナルドと同じレベルって事は30オーバーだろ?そんな奴と同じレベルなんて・・・。
「だから余計不思議だったんだ。なんで君は弓師じゃなくて魔法剣士なんかしてるんだろうって」
「うっ」
まさか、奴隷生活が長くて冒険者なんかほとんどしてません、とか言えるわけが無い。しかも、弓を覚えたのはパーティーに誘ってもらえず、食っていくための苦肉の策とか言えるわけがねえ!
「シンちゃんが弓が上手いのは、森のG級ハンターだからよね」
「ちょっとあんた何言ってんだ!」
俺は慌てて立ち上がった。
「え?森のG級?」
レオナルドは、何の話か全くわかっていないようだ。そりゃそうだろう。
「あと、あの山は俺が制覇・・・」
「いえいえいえいえ、なんでもないんですよー」
俺はさらに何かを言おうとしていたユリアーナの口を手で塞いで、慌てて誤魔化した。こいつ何を言ってくれてるんだ・・・。
「えっと、元々は魔法剣士として登録したんですが、諸事情で最近まで冒険者活動が出来ない状態にありまして・・・。その諸事情により弓を覚えた次第です」
「はあ・・・」
だよねー、わけがわかんないよねー。
「あの、レオナルドさん」
「はい?」
俺がどうしたものかとすげえ悩んでいると、エレオノーレさんがレオナルドに話しかけていた。
「実は私もコレナガさんも、冒険者活動を本格的始めたのはここ数か月なんですよ」
「あ、そうなんですか?」
「はい。しかも、私達は人探しをしていまして、その合間に生活費を稼ぐためにクエストを行っていたので、戦闘系のクエストはほとんどやって無いんです」
「あ、それでは、冒険の為のパーティーじゃなくて、人探しの為に一緒に活動しているという事ですか?」
「そうなんです」
「そしてコレナガさんは、以前は狩人として暮らしていたので、弓が上手なんですよ」
「なるほど!それで合点がいきました」
レオナルドはエレオノーレさんの言葉に、なるほどと頷いていた。
俺がさんざん悩んでもどう答えて良いかわからずにいたのに、すっとその答えが出てくるエレオノーレさん。さすがです!
「ねえレオっち、今日はギルドからの連絡がどうとか言ってなかったっけ?」
「あ、そうだった」
そういえばそうだった!ユリアーナに言われるまで、そんな事頭からすっかり飛んじゃってたわ。
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