第50話 天才と武闘大会 初日・初戦
押され、つぶされ、流されて、ようやく貼り紙の見える位置まで来ることができた。
会場の各地に貼ってあるそうだが、人数が分散されてもこの人込みだ。参加者の総数は推して図るべし。
「むぐぐ……えっと、12番。12番は、っと」
ズラリと並んでいる番号の中から探すのは一苦労だ。
目を凝らして探していると、影が出来た。
見上げると、空から人が下りてくる。
鳥の獣人のようだ。キレイな羽根は美しいが、それに遮られて紙が見えなくなってしまった。
他の冒険者たちからも、見えないぞと苦情が飛ぶ。
――空を飛べるのは羨ましいけど、あの羽は場所を取るな。
鳥の獣人は自分の番号を確認すればすぐに飛び立つだろうと考えていたが、意外にも善人だったらしい。
貼り出されていた紙を手に取ると、それをひらひらと振って自身に注目を集めた。
「あ、あー。遠くまで聞こえる? 今から番号と時間、場所を読み上げるよ。ぼくちんのことが信用できない者、聞き逃した者、自分の眼で確かめたい者は後で同じところに貼り付けとくから、見に来てね。んじゃあ、読み上げるよ~」
見た目は男の子にも女の子にも見えるその獣人は、朗々と読んでいく。
風魔法で音量を増幅されているのだろうが、優しいその声はついつい聞き入ってしまう魅力があった。
「――109番、89番、35番、22番、12番は三の鐘が鳴ってから、会場控室。次に、403番、308番、5番、――」
あまりにも心地よいため、聞き逃すところだった。
自分の番号が読まれて、正気に戻る。
――12番は、三の鐘に会場控室へ向かえばいいのね。
三の鐘と言えば、すぐとは言わずともそんなにゆっくりと出来る時間でもない。
あれだけ顔をさらしていて、嘘を吐くメリットもないだろう。そう判断して、あの獣人を信用することにする。
少し減った人込みをかき分けて、私は昼食を買いに向かった。
お祭り価格の屋台から、手軽に食べれる軽食を買って控室に向かう。
扉の前に立っている人に番号を聞かれ、素直に答えた。
「12番は次だな。もう入っていいぞ」
「ええ、ありがとう」
飲食可能だと言われたので、控室でご飯を食べる。
さすが屋台。味が濃い。だがそこがうまい。
もぐもぐと食べていると、部屋で待たされている人が増えてきた。
おそらく、対戦相手だろう。何となしに眺める。剣士が多そうだ。
――鑑定した結果も弱そうだし。これは私の一人勝ちね。
外から大きな歓声が響いてきた。決着がついたのだ。
係員だと思われる男たちはうなづき合うと、私たちに集まるように言う。入って来た時とは違う扉が開いた。
――いよいよか。
手に着いたタレをなめとって。男たちに促されるままに観音開きの扉をくぐる。
途端に湧き上がる、大きな歓声。遮るもののない広いフィールド。照りつける太陽。
――うん、実に気分が良い。
この高揚感は癖になりそうだ。
にやけるのを押さえながらも、観客を見渡した。
フィーはどこにいるだろうか。良い席だと言っていたので、きっと前の方だと思うのだが。
しかし、無情にも探し切る前に審判が開始の合図をする。
「――準備はいいな。では、始め!!」
あれだけの人数だったのだ。さっさと捌かないと時間が足りなくなることはわかる。
だが、もう少し余裕があってもいいんじゃないだろうか。
不満を感じたが、始まってしまったのなら仕方ない。杖を構えた。
「フィーに無様なところは見せられないものね。キレイに決めてあげるわ」
近くにいた冒険者たちが一斉に襲い掛かってくる。
いくら女、子どもといえども、一対多数の戦闘だと魔術師は危険なのだ。だからとても良い判断である。――けれど。
「遅いし、勢いも足りない。
杖を振り、彼らと私の間に激流を発生させる。
襲い掛かってきた者だけでなく、少し離れていた者も、全員が見事に飲み込まれ行った。
「そもそも、回復薬があったって、飲ませなければいいのよ。
もう一度振ると、水がグルグルと回りながら立ち上がる。
水の中だと息もできないだろう。
一番最初に意識が落ちたのは、魔術師風の男だった。鑑定で完全に意識がなくなったのを確認する。
「……やっぱり、殺すのは良くないわよね。
魔術で出した赤い紐が男を捕らえ、渦の中から引っ張り出す。
魔術師風の男は地面に叩きつけられても起き上がらない。だが、死んではいないようなのでそのままにする。
続けて、意識の落ちた者を一人、二人と引っ張り上げる。
――これではまるで、一本釣りだ。
「おかしいわね。……キレイに決めるはずだったのだけれど」
これは果たしてキレイの部類に入るのか?
宙を舞う男どもを見上げながら、キレイって何だっけ? と、考えていた。
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