2つ山の手荒さ


「怖い~怖いッスぅ~、雄一ユウイチ君、なんか不安になってきたよ……」


「お姉さん……大丈夫ですよ、ちゃんと到着出来ますって」


 僕は不安になる氷川コオリカワさんのお姉さんに話かける言葉が、このくらいしか思い浮かばなかった。しばらく、2つ山の暗く光が差し込まない木々の狭い山道を車で走る。道は暗いながらカーナビのルートが変るも、一定の目的地を指している。走っている目の前に、次は、トンネルが近づいてくる。


「うわ……トンネルだね」

薄気味うすきみ悪い雰囲気だね……」


 僕たちの車がくぐり抜けるトンネルは、古びたコンクリートで朽ちていて、所々にとても暗い照明がポツンとある、登り勾配で一方通行のトンネルだった。中では聞いたことがない残響音が車の排気音に合さって、キーッ! キーッ!という音が入り混ざって不気味だった。


「うあ~このトンネル、そろそろ……、うん、終わらないね」


「普通のトンネルって明るくてすぐに抜けるのに……なんでこんなに長いの~」


 僕と氷川さんと、津井ツイさん姉妹と、氷川さんのお姉さんは、学園前で集合して車に乗ったときと比べて、テンションが下がっている状態だった。それぞれの一言が重い。運転しているお姉さんが、さらに涙目になるくらい薄暗いトンネルの長さが尋常ではなかった。


「そろそろ……やっぱり、終わらない」


「トンネルもう少し……まだぬけない」


 もしこの2つ山の伝説に、新たに書き加えることが出来るとしたら…… ”山道のトンネルが尋常じゃなく、暗くて細くて長い” と、書き加えたいくらい長いトンネルだった。


「あーっ奥が、明るいね~」

「本当だ! このトンネルが終わるね~グッバイ・トンネル!」


 津井さん姉妹が話したあとに、長い困難なトンネルは何とか明るい奥に吸い込まれるように、車はくぐり抜けた。その瞬間に車内では気持ちが和らいだのか、自然に拍手が響き渡った。


「本当に~拍手もんだよ……ふう~、みんな有り難う~」


「お姉さんの、安全運転のおかげですよ」


 トンネルを脱けると山道が明るくなってきた。太陽がいつもより近くに感じる。霧なのか雲なのか下側に広がってくる。カーナビには、山道の中腹を画面に表示している。僕たちは確実に目的地に近づいている。


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