真田十竜士 ~異世界仲間探し車中~
伊武大我
風の故郷へ
「それでは……、いきます……!」
巨大な神殿。
そりゃあもう体が反り返るほど見上げなきゃ上が見えないほどの柱がこれでもかというほど立ってるくらい巨大な神殿。
その神殿から溢れんばかりにたくさんの人が集まっている。
一体どれほどの人が集まっているのだろうか。
この国のほとんどの人は集まっているんじゃないかと思うほどの人の数。
それじゃあ国としての機能が無くなるんじゃないかって?
今日はそんな事など言っていられない大事な日。
皇帝も大臣も大司教も、町長さんだってみんな集まっている。
そんな大群衆の真ん中に、これまた巨大な神殿に見劣りしない巨大な祭壇があった。
祭壇の上には巨大なドラゴンのような姿の龍神様の像、そしてその前には大仰な格好の巫女らしき女が立っている。
女の前には魔法陣。
巨大な祭壇いっぱいに使って書かれた巨大な魔法陣。
書くだけで数日は掛かったであろう、巨大で複雑な魔法陣。
大群衆の視線は、その魔法陣と女に注がれていた。
今日ここで執り行われるは、まさに一世一代、世界の命運を賭けた大博打!
滅びかけたこの世界を救世し、地上を襲った闇を祓う、最後の希望!
そう!
英雄召喚である!――
*
(うぅ…全員こっち見てる…)
ま、まあ、あたり前だよね…
世界が滅びるかどうかが掛かってるんだからね…
でも大司教様がいらっしゃるのは聞いてたけど、大帝陛下までおいでになるとは聞いてなかったなぁ…
巨大な魔法陣の前で、とても緊張した、強張った表情で巫女のような格好をした女が固まっている。
歳は10代後半から20代前半といったところか。
端整な顔立ちだが、緊張で強張っているせいかなのか大量の羽飾りが付いた冠のような物と袖や裾がとても動きづらそうなほど大きな衣装のせいなのか、今は見る影もない。
「ただでさえ人前に立つの苦手なのに……なんでこんなに重いのよこの衣装!」
「あ、なんか頭がクラクラしてきた……」
巫女のような女は、遠目ではわからないほどだが少しふらついた。
しかしなんとか耐えた、踏ん張った。
表情がさらに辛そうになった。
「アミィ! がんばってー!」
群衆の中から、巫女のような女の名前を呼ぶ声援が聞こえる。
ちょっ!? あいつら何叫んでんの!? 大帝陛下も大司教もいるってのに!!
アミィに声援を送った同級生達は、アミィからの反応が無いとみるや聞こえてないのかと思ったのか、横断幕を取り出そうとしていた。
焦ったアミィは身動きができないので、とりあえず微笑み返しておいた。
横断幕を出そうとした同級生達は、広げる前に人の波に流されていった。
「それでは! 皆さま、お待たせいたしました!」
ものすごい数の大群衆から生じる雑音に負けそうになりながらも、司会者の声が巨大な神殿に響いた。
普段なら神殿で行われる行事に司会が付くような事は無いのだが、あまりにも大事になっているので最早儀式というより国を挙げたイベントと化していた。
「本日はお忙しい中、よくぞお越しくださいました!」
「滅びかけた我らが世界を救う、大儀式の始まりでございます!」
わあッ!! っと一斉に拍手と歓声が上がった。
この大群衆で一斉にやられると鼓膜が耐えきれるか心配になる。
「それではさっそく召喚の儀式へ……と言いたいところですが、本日は我らがジーアス帝国の皇帝であらせられるバルカ大帝陛下がいらっしゃっていますので、お言葉を頂戴したく存じます。」
「ゲェーッ! 絶対長くなるでしょ!? わたしこのまま?!」
思わず叫びそうになるアミィだったが、儀式の中身だけ教えて今日の段取りを詳しく教えなかった神父を睨みつけるのでとどめておいた。
しかし神父はこちらの抗議に満ちた視線に気付かずに陛下を見ている。あとで覚えておけ。
バルカ大帝陛下は、神殿の天井近くの壁からせり出した半円状の場所にあるとても豪華な皇帝専用席からスッと立ち上がり、大群衆を見渡せる位置まで歩み出た。
「皆のもの! 今宵は我らがジーアス帝国の運命を、そして、この世界の運命を決める重要な夜である!」
大帝陛下が声を発した途端、今まで絶える事の無かった大群衆からの雑音が、一瞬にして シン… と静まり返った。
「すでに冥王へ対する策は尽き果て、今は最早襲い来る魔の物達を寸での所で追い返すのがやっと。恐怖に震え、明日は我が身かと
群衆が同意の声でざわつく。
「しかし! それも今宵までの事!」
「我らは今ここに、救世の英雄を召喚する! 地上の闇と魔を一掃する、異世界の英雄である!」
「楽しく旅に出ていたあの日々を! 見張りも付けずにぐっすりと眠っていたあの日々を! 我々の元へと取り戻そうではないか!」
大帝陛下が語尾を強くして言い切ると、いよいよ鼓膜が破れたかと思うほどの大歓声が上がった。
そろそろほんとに倒れそうなアミィにこの大歓声はとても危険だ。
さすがに儀式が始まるまでは儀式用の杖はちゃんとした格好で持っていようと思っていたが、そうも言ってられなくなってきた。
「バルカ大帝陛下、大変ありがとうございました。」
「それではいよいよ! 英雄召喚の儀式に移りたいと思います!」
司会者の言葉に、今までで最大の歓声が上がった。
声が大きすぎて聞こえないくらいだ。あれ? なんか耳から血が出てない?
やっときたか。早くしてくれ。と思うアミィの耳にまたも無情な司会者の声
「えー、では実際の儀式に移る前に、大司教
それではお願い致します。という司会者の声で大司教様が歩み出てきた。
大帝陛下よりも下に位置する大司教の席にいた大司教は、大帝陛下程の高さではないが、大群衆を見下ろした。
「皆様、中央の祭壇にご注目ください。」
割と高い位置から見下ろしている大司教は開口一番、大群衆の視線をアミィの方へと向けた。
そんな高い所から見下ろしやがって……話長かったらぶっ殺すぞ……と思いながら大司教を睨んでいたアミィはいきなり群衆の目がこちらを向いたのでたじろいだ。
「儀式が始まりますと、そこに立っている巫女が、龍神様へと
「舞が捧げ終わりますと、巫女は英雄召喚に必要な言葉を紡ぎます。そして、魔法陣の中央まで歩いていき、手にした杖で魔法陣の中央を叩きます。この時にですね、皆様の世界を救いたいという『想い』が必要となります。どうか皆様、大帝陛下、巫女が合図をしましたら儀式を行う巫女と龍神様へ、そして我らの世界を救ってくださる英雄様へとお祈りを捧げくださいませ。」
大司教は深々とお辞儀をして、自分の席へと戻っていった。
いよいよか……
ついに本番だ。
今まで散々練習はしてきた。
祝詞も舞も召喚の時の言葉も完璧なはずだ。
最初はミスったけど今じゃもう大丈夫。
目を瞑ったって舞を踊れるくらいだ。
でも……緊張する~!
「大司教様、ありがとうございました。」
「さあ! ついにこの時がやって参りました! 英雄召喚の儀式でございます!!」
今度こそ! と大群衆はまた歓声を上げた。
しかし、アミィにはもう聞こえていない。
集中だ―
「この儀式で……世界の命運が決まる――」
緊張で強張っていた顔は、元の綺麗な顔に戻っていた。
「この歴史的な大儀式を担いますのは『龍神の巫女』アメリア・リヴィエール!」
「お集りの皆さま! この歴史的な大儀式が失敗しないよう、先ほど大司教猊下が仰ったお祈りをお忘れなきようにお願い致します!」
「それでは巫女様! よろしくお願い致します!」
アミィは フッ―― っと短く息を吐くと、龍神様の像と向き合った。
あんなにうるさかった大群衆は完全に静まり、全員の視線がアミィへと注がれている。
アミィは手に持った杖を掲げながら祝詞を唱えた。
古い言語なのかなんなのかわからないが、正直アミィにはよく意味がわからない。祝詞を教えた神父も言葉として理解できるわけではなく、意味を知っているというだけのようだ。
しかし、完璧に唱えた。
正しい発音かはわからないが、教えられた通りにやった。
次は龍神様に捧げる舞だ。
これはもう目を瞑ってやれる程なのだ。
何も心配はいらない。
衣装のせいで少し躓きそうにはなったが、完璧に舞った。
観客から金を取れる程の舞だった事だろう。
ここまでは龍神様へと向けた儀式だ。
次はいよいよ異世界の英雄へ向けた儀式。
――緊張するかって?
もちろんするよ。
誰もやった事が無い事だもん。
失敗するかもしれない――
わたしが完璧にやっても、そもそも効果の無い物なのかもしれない――
成功しても英雄とは全く違う、悪魔とかが召喚されちゃうかもしれない――
でも、これに賭けるしかない。
ただ震えて滅びるのを待つだけなんて、嫌だ。
アミィは龍神様の方から振り向き、巨大な魔法陣の前に立った。
目を瞑って フーーッ…… っと今度はさっきよりも長く、深く息を吐いた。
杖を握る手に力が入る。
アミィの綺麗な顔は、決意の籠った、凛々しい表情になり…
目を開け、口を開いた。
「それでは……、いきます――!」
アミィの言葉に、大群衆は、大帝陛下も大司教も皆、目を閉じ、手を合わせた。
見渡す限りの『想い』の籠った祈り。
また平和に暮らしたいという『想い』の籠った我らの最後の祈り。
その『想い』を形とする為、アミィは言葉を紡ぐ。
「
我が在るは異なる地
龍神の
我は
聴け、我が
受けよ、我らが想いを
我が命運は汝の手に
我が
「
言葉が終わると同時に、魔法陣の中央を杖で突いた。
カーン…… という音が神殿に響く。
そしてその音が鳴りやむ頃、突如として杖で突いた所から光が溢れ出した。
目が開けていられない程の白い光、その光が巨大な神殿全体を包んだ。
そして煙と共に強烈な風が吹き上がったかと思うと、徐々に光が弱まっていった。
沈黙。
突然の事に固まるアミィと大群衆の前に、霧のような煙のような白い
空気の流れで少しずつ晴れていく靄の中に、アミィは見た
「えっ……」
赤い服。
輪が6つ並んだ模様。
そしてその服を着た、どう見ても英雄には見えない少年の姿を――!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます