No.64『いきじごく』

根岸「……あと一段……もうちょっと、いけそうな……」


佐原「んー」


根岸「おぉ、いける……。もう一段……」


佐原「お、ヒマそうなねぎし発見!」


根岸「お……おぉ、まだいける……、あと一段……」


佐原「ねーぎし、あそぼうぜ! 俺参上!」


根岸「あ!」


佐原「お?」


根岸「あー、くずれたー」


佐原「なにしてんの? ねぎし」


根岸「見ての通り、積み木だよ。いま崩れたけど」


佐原「暗い、暗いよねぎしー、俺らももうねんちょうさんだぜ? そんな暗い遊びしてないでさ、もっと高みを目指さないと」


根岸「うん、まあ高みは目指していた気はするんだけどね。今崩れ去ったけど」


佐原「そんなことよりさ、あそぼう! いまヒマ?」


根岸「今しがたヒマになった。さはらのせいで。―――なにしてあそぶの? おそと?」


佐原「いやいや、お外とか、もうガキじゃないんだしな? ねんちょうさんだよ? ねんちょうさん」


根岸「一般的には7歳以下の幼児は、ガキだと思うよ」


佐原「世間的にはな? でももうこころはオトナだぜ? なにしろねんちょうさんだ」


根岸「さいですか」


佐原「からだはコドモ! ずのうもコドモ!」


根岸「うん、そうだね」


佐原「というかねぎしがもう、まったくもう幼児っぽくない。ぽさゼロ!」


根岸「積み木で遊んでたじゃないか。幼児らしく」


佐原「楽しかった?」


根岸「それなりに。いまはほら、石をただ積み上げる大人の遊びもあるらしいし、悪くはないんじゃないかな」


佐原「そう、まあいいけどさ。もっとこう、幼児としてはさ、積み上げてた積み木が崩されたら泣き喚くとかさ、もっとこう、もっとこうだな」


根岸「自由時間が終わったらどうせ崩すだろうに」


佐原「たっかんしてるなぁ……。あとねぎし、セリフに漢字おおい」


根岸「そんなん言われても」


佐原「幼児ってのはね、もっとこう、もっとこう……もっと、こうだよ!」


根岸「どうなんだよ」


佐原「泣いたり、笑ったり、怒ったり! かんじょーひょーげんがゆたかなんだぜ!」


根岸「ふむ」


佐原「ふむじゃない!」


根岸「そんなん言われても」


佐原「赤ちゃんのごとく、意味もなく泣いたりするんだ!」


根岸「……いや、赤ちゃんも意味なく泣いたりはしないだろ。あれはあれで、彼らなりの意味があるんだよ」


佐原「ねぎしくんはおかしなことをいう。まったくもってだね、まったくもって」


根岸「何かしら、意味や意図はあるだろ。赤ちゃんなりに。それが大人に伝わるかどうかはまた別の問題だ」


佐原「……ひぐっ、ひっぐ……うぐ……うあああああああん!」


根岸「えぇぇ……泣き出した……」


佐原「とまあ、このように、いみもなく泣けるのだよ」


根岸「切り替え早すぎだろ」


佐原「うむ。嘘マジ泣きだからな」


根岸「というか、今のも、意味はなかったかもしれないが、意味も無く泣くのを見せるという意図はあっただろう」


佐原「……むむむ」


根岸「違うか?」


佐原「ちょっとむつかしくてよくわからないですね」


根岸「えぇ……」


佐原「ねぎしくんは、むつかしい」


根岸「そうか、気をつけるよ」


佐原「うん、気をつけて」


根岸「で、なにしてあそぶの? かくれんぼ?」


佐原「おお、二人でかくれる!」


根岸「誰が探すんだよ……」


佐原「……数日後にはオトナが探してくれるとおもう」


根岸「かくれんぼというか、失踪だねそれはもう」


佐原「じょうはつともいう」


根岸「そうだね」


佐原「かくれんぼは、ちがうな! オトナにしんぱいをかけてはいけない」


根岸「じゃあなんだ、お絵かきとかか?」


佐原「オトナがしんぱいしそうな絵を描こうぜ!」


根岸「一瞬で言ってること矛盾した」


佐原「うんこの絵いっぱい描くの!」


根岸「なんかちゃんとコドモっぽくはあるような気がするな」


佐原「油性ペンで!」


根岸「うん、ダメだ。わかってやってるのであれば何も微笑ましくないぞ」


佐原「ダメかー。なんかこう、鬼がいるあそびがいいな」


根岸「さっき、かくれんぼがダメだったじゃないか」


佐原「あれは社会という闇に生きねばならない屍のような大人たちを皮肉った意味での鬼だったからな」


根岸「なんか突然どうした」


佐原「べつにー」


根岸「おにごっことかは?」


佐原「おお、わかった、おにになる!」


根岸「鬼がいいのか、いいけど」


佐原「じゃあ、俺はつみき、崩すから、ねぎしは積んで」


根岸「なんで」


佐原「つみき崩しやろうぜ! 俺は崩すひと! ねぎし積むひと!」


根岸「おにごっこはどこいったんだよ」


佐原「俺は、心を鬼にして、おにになる! ねぎしがひっしこいて詰んだつみきを、くずす! くずしにくずす!」


根岸「っていうか、さっき既に崩されたんだけど」


佐原「ねぎしは、なんどでも、なんどでも、積むんだ。つみあがるころに俺がやってきて、くずす! それはもうかいじゅうのように!」


根岸「賽の河原かよ」


佐原「ガキだからな!」




閉幕

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