No.22『悪の組織ツインズ』

佐原「ふはははは、世界を征服するのだー!」


根岸「総帥、ちょっと」


佐原「どうした根岸将軍、またヒーローが現れたのか?」


根岸「悪の組織ですよね、コレ」


佐原「コレとか言うな、悪の組織だぞもちろん」


根岸「団員は?」


佐原「お前」


根岸「ひとり?」


佐原「いえす」


根岸「ええと、怪人とかは?」


佐原「え、いないよ? なにそれ」


根岸「……二人、なんですか? この組織」


佐原「いえす」


根岸「無理無理無理、世界征服とか夢見すぎですよ!」


佐原「人数がどうとかじゃなくて夢見すぎだけどねー」


根岸「いやそこはほら、なんか団員とか怪人とか、ヒーローを数で圧倒する感じじゃないですか!」


佐原「どれだけ集めても世界の軍隊とか警察のほうが数多いって」


根岸「いやそうかもしれないですけど、そこはほら、軍隊ごときじゃどうにもならない科学力とかで!」


佐原「うむ、そんな技術は、無い!」


根岸「無いのかよ!」


佐原「しかし我々にはありあまるやる気と気合と根性と夢と希望と愛と勇気とミラクルパワーがある!」


根岸「うわー、その多くに同意しかねるー」


佐原「成せば成る! これが我々のスローガンだ」


根岸「悪の組織っぽくないスローガンだ」


佐原「とはいえ、障害はたくさんある」


根岸「ええ、山積みですとも」


佐原「まずヒーローの存在だ」


根岸「こっちの人数は後回しなんですね」


佐原「ヒーローだが、厄介なことにたくさんいる」


根岸「えー」


佐原「一小隊が5名、この小隊が55小隊で一中隊、これが555中隊で一大隊、それが5555大隊で、一個の軍団だ」


根岸「八億四千七百八十三万千八百七十五人!」


佐原「計算はやいなー、さすがは我が組織の将軍の中で一番計算の早い男」


根岸「将軍がまず私だけなんですけど……」


佐原「で、そのヒーロー軍団が世界に8つ。 日本にはひとつだ」


根岸「日本の人口より多いじゃないですか日本のヒーロー……軍隊とか警察とかがすごい少数に見える」


佐原「これに二人で挑もうっていうんだから、絶望的だな!」


根岸「二対八億って、数の暴力とかいった次元を超えてますよ」


佐原「だが、我々はやらねばならない、夢を捨ててはいけないんだ!」


根岸「言うことがいちいち悪役っぽくない」


ぴぴぴぴ


佐原「さて時間だな、幹部会議をはじめよう」


根岸「あ、はい。 とはいっても最初から最後まで二人ですけど」


佐原「では根岸将軍、何か世界征服に向けたいいアイデアはあるかね」


根岸「ううむ、難しいですね、一日一人ずつヒーローを倒しても二百三十年以上かかりますし……」


佐原「なんかすごい兵器とか開発して一網打尽にできないかね」


根岸「どこにそんな技術があるんですか。ハカセっぽい仲間もいないのに」


佐原「あー、なるほどー、まず必要なのは博士かー」


根岸「悪に魂を売った科学者って大事ですよね実際。」


佐原「ツッコミ要員で根岸を仲間になんかするんじゃなかったー」


根岸「ツッコミ要員なんですか私!」


佐原「そりゃそうだよー、ツッコミ将軍っていったら根岸だよー」


根岸「宴会部長みたいなカテゴリだなぁ」


佐原「じゃあ、新兵器とかそういうの無しで、世界征服できる方法を考えよう」


根岸「怪人とかの製造も、博士がいないとできないですしね」


佐原「二人でできる、世界征服!」


根岸「できるのかなぁ……」


佐原「やっぱりまず人数増やす? 求人とか出してみようか」


根岸「ハロワに行くと悪の組織紹介されたりするのか……」


佐原「はじめてでもできる、世界征服! 初心者歓迎! 経験者優遇!」


根岸「世界征服の経験者って何ですか」


佐原「そりゃあ過去に世界を征服したことがある人だよー」


根岸「ええと……?」


佐原「細かいことは気にしちゃダメだ。 しかしまあ、新人が来るまでは二人だから、できるところまでは二人でやろう」


根岸「はぁ。 しかし一体二人で何が……」


佐原「人数がいるから何かをするわけじゃない、夢があるから動くんだろう? 人数は関係ない」


根岸「言ってることは正論ですが……」


佐原「ひらめいたぞ将軍!」


根岸「お?」


佐原「まず、寝返る」


根岸「いきなりだなー」


佐原「正義のヒーローになってしまうんだ、そうすれば、世界にものすごい数いるヒーローがみんな味方だ!」


根岸「んー、うん。 ……うん? いいんですかそれ?」


佐原「根岸将軍、私はな、支配者になりたいんじゃないんだ」


根岸「え、だって世界征服って」


佐原「世界を征服し、統一することが私の目的なんだ」


根岸「はぁ」


佐原「だからそのために手段は問わない。 世界征服を成し遂げられるなら、私は一ヒーローでも構わないのだよ」


根岸「目的のために手段は選ばない……。 悪ですね!」


佐原「そのとおりだ、悪の組織の総帥だからな! はっはっはっは」


根岸「そうかー、じゃあ総帥はヒーローになるんですねー」


佐原「うむ! なるぞー、ヒーローだー!」


根岸「残念です」


ばきゅーん


佐原「え……あれ? あれれ? 何故私が撃たれるのだ……?」


根岸「だって、ヒーローになるんでしょ? 総帥。 敵じゃないですか」


佐原「ま、マジか! 根岸将軍マジなのか!」


根岸「マジですよ」


佐原「だって、そんな、拳銃とかさ、アレじゃん、悪の組織っぽくないじゃん!」


根岸「光線だろうが実弾だろうが、銃は銃でしょう、ヒーローも使ってます」


佐原「違う、違うぞ根岸将軍。 それじゃあ悪の組織じゃない、ただの悪だ!」


根岸「総帥が抜けたんで、組織じゃなくなりましたから」


佐原「悪の個人、ただの悪人になっちゃったのか!」


根岸「そういうことです。というわけで、サヨウナラ」


佐原「待った待った待った、やめるやめる、ヒーローやめる!」


根岸「……」


佐原「だから撃たないで殺さないで!総帥に戻るから!」


根岸「……」


佐原「ねっ!」


根岸「そっ」


佐原「そ?」


根岸「総帥! 大丈夫ですか! 誰にやられたんですか!」


佐原「……悪い奴に」





閉幕

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