会話シチュエーションコント『サハネギ』 1~100

サハネギの人

No.1『キャラ付け』

佐原「うわぁっ」


根岸「佐原が撃たれた!伏せろ!敵の宇宙人だ!」


佐原「うぅ……。足を撃たれた、俺はもうダメだ」


根岸「しっかりしろ! 足なんてまだあるだろう!」


佐原「出撃前の、あの話が、やっぱりダメだったかなぁ……」


根岸「あれか、出撃前に「帰ったら森の中の小さなお家を買う」とか言ってたやつ」


佐原「シルバニアファミリーみたいな家庭をつくるのが夢だったんだ……」


根岸「佐原! しっかりしろ佐原!」


佐原「俺のこと……忘れないでいてくれよ……」


根岸「まだ大丈夫だ! 足の一本がなんだ、手当すれば助かる! しっかりしろ!」


佐原「ところでだ」


根岸「うお。いきなりしっかりしたら、びっくりするだろう」


佐原「キャラ付けって大事だと俺はこの死の間際に思うわけだよ」


根岸「え、ああ、うん。まあ足撃たれただけだから、いきなりすぐは死なないと思うけど」


佐原「そうか。……で、そんなことよりキャラ付けの話なんだけど」


根岸「撃たれた足はそんなこと扱いでいいのか」


佐原「いいのいいの、大丈夫。そのうち回復する」


根岸「本人がそう言うなら」


佐原「キャラ付けがしっかりしてると、覚えてもらえるわけだよ、人に」


根岸「ふむ」


佐原「デブキャラとか、メガネキャラとか、しばらくぶりに会うことになっても、割と覚えられてるだろ?」


根岸「あー、まあ、うん。芸能人に似てたりとか、出身地とか、それだけ覚えてたりするよな」


佐原「そう、ざっくり記憶しておくのに、キャラ付けはとても有効なんだ」


根岸「ふむ」


佐原「たとえば俺が今死んだら「あーあのシルバニアファミリーの佐原さんね」となるわけだ」


根岸「そのファミリーに所属してる人みたいになってるな。本人がそれでいいならそれで記憶しとくけども」


佐原「こういったキャラ付けによって、わかりやすくなるわけだ、誰がどういう人なのかってのが。そして人の記憶に残る」


根岸「まあ、そうね」


佐原「だが!貴様に俺の何がわかるというのだ!」


根岸「いきなり怒鳴るなよ、びっくりする。あと戦場で急に立ち上がらない」


佐原「ごめん」


根岸「遺憾である」


佐原「つまりその、こう、そんなに浅くないぞ俺はーって言いたい」


根岸「ふむ。でも情報不足だぞ。俺は佐原のことをよく知らない」


佐原「でも全部わかられてると、それは恥ずかしい」


根岸「いかんともしがたいなぁ」


佐原「だから俺は、あえてキャラ付けを捨てる! 恥ずかしいのだ!」


根岸「急に立つな。あと戦場で叫ばないでください」


佐原「ごめん」


根岸「いいかげんにしてほしいものだな」


佐原「だから俺は、あえてキャラ付けを捨てる」


根岸「小声だ」


佐原「もう、遅刻魔人、とか、借金天国、とか言わせない」


根岸「かなりダメな感じの人だなお前」


佐原「キャラ付けを捨て去り、なんか印象の薄い人として生きるのだ」


根岸「いかにして」


「こうだ!」


根岸「お……おお……。誰だ」


「佐原だよ」


根岸「佐原なのか。一瞬誰だかわからなくなったよ」


「すごいだろう。これで戦場ですぐ死ぬキャラともおさらばだぜ! ふふふ、では行くぜ! 俺は死なない!」


根岸「ひとりで突撃なんてそんな無茶な!」


「うわぁっ!」


根岸「さは……ええと、誰だかわからない人が撃たれたー!」


「ダメだキャラ付け関係ない! 戦場でキャラ付けは無意味!」


根岸「戻ってきた。誰だかわからないけど、頭撃ち抜かれて無事に?帰ってくるとは、元気だなあ」


佐原「佐原だってば!」


根岸「おお佐原、いつの間に頭に怪我を」


佐原「ダメだわー、キャラ付け関係ないわー、敵の宇宙人マジ容赦ねー」


根岸「そりゃお前、味方からしてみれば「あいつはああいうヤツだった」って記憶には残るだろうけど、敵さんからしたらキャラ付けは無意味だろう」


佐原「盲点!」


根岸「盲点だなー、そうだなー」


佐原「敵からしてみれば、俺が地球人でも火星人でも関係ないってことか!」


根岸「まあ、うん、概ねそうだね」


佐原「でもさ」


根岸「なんだ」


佐原「試してみなきゃわからないよね。もしかしたら撃たれないかも」


根岸「試して死んだらそこで終わりなんだけど」


佐原「やってみる」


根岸「いかがなもんか」


地球人「こうだ!」


根岸「うわあ地球人だ! 撃て撃て!」


地球人「ぎゃーす!」


根岸「ああびっくりした、なんでいきなり地球人が」


佐原「ダメだこれ味方に撃たれる!」


根岸「佐原! いつの間に全身に怪我を!」


佐原「ふふ……どうやら本当にもう俺はダメみたいだ……」


根岸「佐原! しっかりしろ佐原!」


佐原「さよなら……、根岸……がくり」


根岸「心臓が……止まった……。佐原ぁー! しっかりしろ!」


佐原「あと二つあるけどね」


根岸「だからいきなりしっかりするなよ。びっくりするから」


佐原「タコ型宇宙人でよかったよ、まだ生きてる。心臓みっつあるからな!」


根岸「なに、佐原、お前タコ型宇宙人だったのか」


佐原「え、うん。そうだけど」


根岸「撃て撃て!」


佐原「ぎゃーす! ま、まさか根岸、お前は、イカ型宇宙人だったのか!」


根岸「イカにも!」


閉幕

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