幸福の名を持つ毒。

ういんぐ神風

一章

拝啓、我が親友へ。


 これで何通目になるのか?私が君に相談の電子メールのやりとりをすることは。送信を押すのには震えるほど恐怖を感じてしまうぐらいだった。この文書が一瞬で手元に送られるのが想像しただけで背筋が凍る。数秒の恐怖は私を迷路に居た気分だった。これで最後のやり取りになるのだろう。

 君もご存知であるように、物事が順調に進んでいる。社会人になってから5年、今年から出世し世間にも私の名が広まったあたりだった。この5年間で成果を出しやっと自ら手に入れた名誉でもあった。取締役で最年少にもなった。数百名の社員の命が私に託されたのだった。世俗の上に立ちはだかった。誰もが恨む立場にも至り、至上へたどり着いた。

 けれども、それは私を苦しめる物でもあった。数百人の社員の指図、会社を正しく導くための責任、任務、義務。その全てを背負いなければならない。一日の五割がそのためにあった。それ以外には趣味や快楽に使っている。これまで出来ない趣味や快楽を体験することができた。相当の給与を与えられている。だが、先ほども言った通りにそれは私を苦しめているものだった。

 世間から裕福で幸福でありそうな私は実際そうではなかった。趣味や快楽は一瞬にして消え失せる。幻のように過ぎ去っていく快感でしかないのであった。取締役になったころは生活の安全と安定が保証されたのかのように感じ取った。実際もそうであった、金融と時間はあまりにも余るほどのものだった。 

 しかし、私はいまである幸福を噛み締める事ができない。最も回りが幸福を言うような快楽、趣味、ゴルフや高級車の購入や歌舞伎町のキャバクラを堪能しても心はあの頃のように楽しむことはなかった。幸福を噛み締める事が出来ない阿呆なのだ。以前なように七割以上の時間を使い、部下と共に仕事を励むのがどれほど生きている実感が出来るのか。幸福を噛み締める君の事が羨ましく思う。工場の作業を励み、最低賃金の給与を特有しながらもいながら文句を零すことなく幸福を感じ取れた。私と全く反対でもあった。給与が高くても、何も得る事は出来なかった。

 その結果として、先日私は退職届を出した。もう、この地獄に耐えるのはごめんだ。幸福を噛み締めない私に相応しい罰でもある。この先退社ほ後は少々旅に出ようと思う。もう、この世の誰と会うこともない場所に行くのだろう。これも最後になるのだろう。いろいろと君に迷惑をかけての謝罪しなければならない。お元気で、


敬具

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る