第百五十四話 どこまでも、まっすぐ



『うわぁっ! な、なに、これぇっ!?』


 フォレオが周囲を飛び回るその装置に戸惑う中、サヤコは勝ち誇ったかのように笑い出す。


「ハッハッハッ、それはドラゴンを操ることに特化した魔法具さ。ドラゴンの血に反応し、特殊な魔力で拘束する仕組みなんだよ。ちなみにブレスで蹴散らそうとしてもムダだ。対策は万全だからねぇ!」


 つまりサヤコはフォレオを操り、マキトたちに攻撃させようというのだ。味方に襲われるという屈辱を目いっぱい味わせる。そんな意地の悪い攻撃を、サヤコは意気揚々としかけてきたのだ。

 元々は、ドラゴンがたくさんいるオランジェ王国で、魔物による軍団を結成するべく開発したモノだった。そこにちょうどフォレオが現れ、これは良い実験台だと思ったのである。

 これもまた、サヤコが数十年かけて作った傑作品の一つであった。

 積み重ねてきた年数が違う。そんじょそこらの若造になんか負けないよと、そんな勝ち誇った笑みを、サヤコは絶やさない。

 数秒後、魔法具に操られたフォレオが、マキトたちを攻撃し、マキトと魔物たちの悲痛な叫び声が聞こえてくることを想像しているのだ。

 しかし――


「…………」


 何も起こらない。ただ魔法具が、フォレオやマキトたちの周囲をウロウロと飛び回っているだけである。

 一応、目で追いかけてはいるものの、これ以上の変化はなさそうだった。


「フォレオ、蹴散らしちゃえ」

『はーい』


 感情の込められてないマキトとフォレオのやり取りとともに、飛び回っている魔法具目掛けてブレスが放たれる。小さな爆発音とともに、魔法具は黒焦げの塊となって地面に落ちた。

 一体何だったんだろうと思いつつ、マキトはサヤコに視線を向けると、サヤコが口をあんぐりと開けたまま呆然としているのが見えた。


「な……な、な、なな……」


 今しがた起こった出来事に錯乱しつつ、サヤコは叫び出す。


「何故だ! どうして反応しないんだい!? アタシの研究は完璧だった! 間違いや不備なんてなかったんだ! 実験で何度も見たんだよ! あの装置でドラゴンを完璧に操るその素晴らしい効果を! なのに……どうしてこんな……」


 膝から崩れ落ち、サヤコは俯いたまま、ブツブツと何かを呟き出す。その姿は周囲に恐怖をまき散らし、ブルッと背筋を震わせていた。


「もしかして……フォレオがドラゴンさんじゃないからなのでは?」

「あぁ、それしかないな」


 引きつった声で言うラティに、マキトが頷いた。

 フォレオはあくまで霊獣。今のドラゴンの姿は仮物に過ぎないのだ。すなわち体に流れている血もドラゴンではなく霊獣。だから魔法具が反応しなかった。

 ついでに言えば、フォレオの魔力はスライムの隠れ里で数段強化されている。ブレスで魔法具が蹴散らせたのは、単純にフォレオの魔力が魔法具の耐性を上回ったということだ。


(まぁ、今のばあちゃんの様子だと、言ったところで信じなさそうだけどな)


 マキトがひっそりとため息をついた瞬間、サヤコが俯いたまま、ユラリと揺れながら立ち上がる。そして――


「お前たち! あの忌まわしき小僧たちをやっちまいな!」


 歪んだ表情で血走った目をギラリと光らせながら、サヤコは叫んだ。

 控えていた魔導師たちは慌てて動き出し、マキトたち目掛けて大広間を走り出しながら、魔力を集め発動する。

 勿論マキトたちも、黙って見ているつもりなどなかった。


「ラティ、フォレオ、一気に決めろ!」

『おぉーっ!』

「りょーかいなのですっ! もはや遠慮する必要なんてどこにもないのです!」


 マキトがロップルとリムを連れ、フォレオの背から飛び降りる。フォレオとラティは同時に動き出し、それぞれブレスと魔法玉を放ち、魔導師たちを相手の魔法ごと次々と蹴散らしていった。

 相手の魔導師の魔力は決して低くはない。研究所に勤め、サヤコたちを守るべく鍛えてきたのだ。そんな魔導師たちが、いとも簡単に倒されていく姿は、サヤコも魔導師たちも信じられない光景そのものに見えていた。

 マキトたちは気づいていなかった。スライムの隠れ里で強化した魔力量が、途轍もない大きさであることを。

 地下通路を突破する際に魔法を打ち続けられたのも、大気中の魔力をよりスムーズに吸収できるようになったのも、全てはその凄まじい強化を遂げたからこそであることを。

 いわば今の彼らは、自覚なき強さを披露しているのであった。

 慢心も油断もせずに立ち向かっているのが、大きな救いと言えるだろう。彼らはあくまで普通の冒険者として、ありふれた一つの修羅場を潜り抜けようとしているだけに過ぎないのだ。

 実は厄介な出来事に巻き込まれているなど知る由もなく。


「マスター、行きましょう!」

「おう!」


 ラティが道を切り開き、ロップルとリムを連れてマキトが走り出す。

 そこに――


「小僧……キサマだけはぁっ!!」


 立ちはだかるサヤコが魔法を放った。凄まじい炎が一直線にマキト目掛けて飛んでくる。このままだと爆発とともに大ケガは避けられないだろう。

 しかしマキトは慌てない。冷静な表情で立ち止まり、真正面から炎の魔法を直撃で受けるのだった。

 発生した爆音と煙が、魔法の凄まじさを物語る。サヤコは勝ったと思った。これを喰らって生き残れるヤツなんていないと。

 そして煙が晴れたそこには――無傷のマキトたちの姿があった。


「バ、バカな……直撃を受けたハズだ……」


 サヤコはまたしても信じられない事実を突きつけられ、崩れ落ちる。そしてとうとう立ち上がれなくなってしまった。


「よくやったぞ、ロップル」

「キュウッ♪」


 マキトに褒められたロップルは嬉しそうに笑う。炎の魔法が直撃する寸前、防御強化能力を発動させたのだ。

 サヤコは魔法を放ったことで勝利を確信し、ロップルが防御強化を発動させたところを見逃していた。それは小さくて、とても大きな慢心だった。

 あまりの衝撃の強さに戦意を喪失してしまうほどに。


「マスター、こっちも終わったのです!」

『もう魔導師さんたちいないよー』


 フォレオとラティが変身したまま、マキトたちの元へ戻ってくる。どちらも無傷で疲れている様子もない。危なげなかったようだった。

 それを確認したマキトは、嬉しそうな笑みを浮かべて頷いた。


「よし、皆ご苦労さん。じゃあとりあえず、あの隠し扉みたいなのから……」


 出ようか、と言いかけたその瞬間、大きな物音と地響きが発生した。同時に隠し扉から大爆発が起き、白い煙が大量に噴き出してくる。


「ふやぁっ! な、なんなのですか!?」


 ラティが驚きながら叫ぶと、煙の中から何かが出てきた。

 それは動く機械だった。二足歩行で動く機械の頭部に老人が乗っており、機械を操りながらマキトたちを睨みつけてくる。


「遊びはここまでだ、このマサノブが、お前たちに引導を渡してくれようぞ!」


 老人ことマサノブの目が、サヤコと同じように鋭くギラつくのだった。



 ◇ ◇ ◇



「なんか不思議な乗り物なのです。あんなの見たことがないのです」

『あれにも凄い魔力を感じるよ』


 ラティとフォレオが緊張を乗せた声で言う。マキトにしがみつくロップルやリムも同じ様子であった。

 一方マキトは、驚いてはいたが、その方向性は違っていた。

 まだ地球にいた頃、本か何かでチラッと見た気がした。動物以外のことには興味がなかったため、詳しいワケでもないが、少なくともその存在は知っていた。


「ロボット……魔力兵器ってところか?」

「ほう、察しが良いな。それにロボットという言葉も知っておるとは……ワシらと同郷の者から話でも聞いたかな?」


 マサノブの問いかけにマキトは答えない。お互いに同じ地球で暮らしていた事実を知る由もなく、きっとたまたまどこかで知ったんだろう、という認識程度でしかなかった。

 ここで一声でもかければ、マキトとマサノブに良くも悪くも深い繋がりが生まれることは間違いない。しかし彼らはそれをしない。よって二人の関係性は、突発的に現れた敵同士でしかないのだった。

 チャンスを逃したということでもあるのだが、果たしてそれが幸だったのか不幸だったのかは、神様でも知っているかどうか微妙なところであった。


「今からキサマらを、コイツの試し打ちに利用してやろう。少しばかり痛いかもしれんが、そこらへんは勘弁してくれ」

「いやいや……そりゃどう見ても痛いってだけじゃ済まないだろ」


 マサノブのワクワクしたような物言いに、マキトは引きつった表情を浮かべる。やはり衝突は避けられないかと、マキトたちが身構えたその時だった。


「そこまでよ!!」


 崩れた隠し扉から、ユグラシアとエステルが現れた。まさかの登場にマキトたちが驚く中、マサノブは落ち着いた様子を保ったまま振り向いた。


「ほう……これはこれは、賢者様のお出ましというワケか……」


 どこまでも余裕そうに笑うマサノブに、ユグラシアもエステルも顔をしかめる。

 そしてユグラシアたちの後ろから、拘束されたもう一人の姿が――


「本当に不覚極まりないですよ……またしても私は、まんまと利用されたということですからねぇ……」


 彼は憎しみを目いっぱい宿した表情でマサノブを睨みつける。そしてその先に知った顔ぶれを見つけ、その表情は更に歪んだ。


「しかも、またアナタたちですか……この私の無様な姿を二度も見られるとは、屈辱極まりないことですよ!」


 ワザと大き目の声で叫ぶ彼の言葉に、マキトとラティは顔を見合わせる。


「……あの人、どこかで会ったことありましたっけ?」

「さぁ?」


 完全に記憶になく、首を傾げるしかない。その様子に彼は、更に憤慨した。


「覚えてないんですか! 余りにも優秀過ぎて認められず、二年前にスフォリア王都でアナタたちに野望を邪魔された、天才魔導師ことビーズ様ですよ!!」


 叫ぶビーズに、マキトは顎に手を当てながら、記憶の引き出しを漁る。


「二年前のスフォリア王都……セドの妹が騒ぎを起こしたアレか?」

「そうそう。わたしたちのことを操ろうとしたんですよ。力づくで突破してやりましたけど」

「あぁ、そんなこともあったなぁ……そっか、アイツがそうだったか」


 ラティの言葉でようやくマキトも思い出した。王宮で立ちはだかった魔導師の男の存在を。

 如何せん町の様子など、他の場面も凄すぎたため、思わず忘れていたのだ。決着があっという間だったというのも、理由の一つではあったが。


「くうぅ~~っ! どこまでも憎たらしいことこの上ありませんねぇ!」


 ビーズがやりきれなさそうに唸り出す。


「隙を見て脱獄して放浪し、やっとの思いでこの魔法都市に流れ着き、所長が私の才能を認めてくださったかと思いきや、その実、ただ単に都合のよい捨て駒でしかなかったとは……全くもって悔やんでも悔やみきれないですよおぉーーっ!」


 目からポロポロと涙を流す彼は、実に哀れな姿そのものだった。マキトたちは勿論のこと、捕らえたユグラシアやエステルでさえも、かける言葉が見つからない。

 しかしそんな中、マサノブだけは冷めた目付きでビーズを見下ろしていた。


「話はもういいかね? 全くムダな時間を使いおってからに……」


 マサノブは吐き捨てるように言いながら、兵器の腕を振りかざした。


「もはやお前などに価値はない。コイツらとまとめて、この魔力兵器で跡形もなく消し去ってやろうぞ」


 容赦なくそう告げられたビーズは、絶望に包まれた表情となり、叫び出す。


「そ、そんなっ! それは私が開発した最高傑作だぞ!」

「何をバカなことを言ってる。そんな事実はどこにもありはしないよ。ワシの指示でお前が作っていたのだ。いわばこれはワシの兵器そのものだ」

「横暴だ……こんな横暴が許されるのかっ!?」

「許されるに決まっておるではないか。ワシに逆らう者は消すだけだからな」


 どこまでも自分が一番の存在。マサノブの中で、その気持ちは揺るぎなきモノとして居座っていた。

 もはや何を言ってもムダだ。そう思ったビーズは項垂れる。

 そこにユグラシアが、険しい表情で前に出てきた。


「これ以上勝手なことはさせないわ。森の賢者として、この事態を放っておくわけにはいかない。あなたの悪だくみもここまでよ!」


 その声は怒りを伴っていた。最初はあまりの身勝手さに言葉も出なかったが、今は兵器を操る老人を黙らせたい気持ちでいっぱいだった。

 もし容赦なく潰しても良いのなら、迷うことなくそうしたいと思いながら。


「ここは私が直々に――」

「待ってくれ!」


 ユグラシアの言葉に割り込んだのは、マキトの声だった。ユグラシアたちやマサノブが視線を向ける中、マキトが魔物たちに問いかける。


「リムとロップルは大丈夫だよな? ラティとフォレオは?」

『いけるよー!』

「大丈夫なのですっ!」

「よし!」


 魔物たちのやる気ある返事に、マキトは笑顔で頷き、ユグラシアのほうを向く。


「折角ここまで来たんだ。悪いけど最後まで、俺たちだけでやらせてほしい」


 そうマキトはハッキリと告げた。しばしの沈黙が流れる中、やがて呆然とした表情のまま、エステルが戸惑いながら口を開いた。


「し、しかしここは……」

「分かったわ」

「ユグラシア様!?」


 アッサリと認めたユグラシアに、エステルは驚く。しかしユグラシアはすました表情で、マキトたちを見た。


「彼らが自らそう望んだのです。ここは黙って見守りましょう」

「そんな……まぁ、そうおっしゃるなら……」


 エステルも渋々ながら頷く。納得できないというよりは、まさかユグラシアがマキトたちを優先させるとは思わなかった、という驚きのほうが大きい。

 少しの間だけ一緒に旅をしていたことはなんとなく聞いていたが、そこまで大きな信頼関係を結んでいたとまでは思わなかった。

 戸惑わずにはいられないエステルをよそに、ユグラシアは思う。


(二年前に会ったときは、まだ駆け出しの可愛いボウヤだったというのに……なんだかんだで、大きくなっていたということかしらね)


 ユグラシアは頬を緩ませる。まるで頑張る息子たちを見守る母親のようであり、その様子が更にエステルを戸惑いへ誘っていた。

 一方、マサノブは興味なさげに様子を見ており、やがて心底つまらなそうにため息をついた。


「話は終わったようだな。では早速、キサマらから葬り去ってやるとしよう」


 マサノブはニヤリと笑いながら、兵器を動かし始める。ラティとフォレオも、同時に動き出した。

 フォレオのブレスとラティの魔力玉が炸裂。兵器に命中し、白い煙が充満する。しかし煙が晴れると、無傷の兵器がそこにあった。


「フッ、いくら攻撃しようと、この兵器の前では話にならんようだな」


 マサノブがやれやれと首を横に振ると、ラティが眉をピクッと動かした。


「まだまだ! 勝負はこれからなのですっ!!」


 そう叫びながら、ラティがもう一発魔力玉を放つ。しかし――


「くだらん」


 マサノブは魔力玉を受け止め、なんとそれを打ち返してしまう。躱す間もなく、魔力玉はラティに直撃。吹き飛ばされはしたが、なんとか体勢を立て直す。

 フォレオも負けじとブレスを放つが、マサノブが兵器の手をかざした瞬間、魔力によるバリアーが展開され、そのままブレスを跳ね返す。フォレオが驚きの表情を浮かべた瞬間、ブレスの光に包み込まれた。

 ボロボロになりつつ、なんとかフォレオも立ち直る。ラティに飛び移ったリムが回復能力を発動し、ラティとフォレオの傷を癒す。

 戦える状態に戻ったものの、打つ手が見つからない状態でもあった。

 マサノブは依然として、余裕の笑みを浮かべたままでいる。ラティたちなどいつでも倒せると確信しているということは、火を見るよりも明らかであった。


「所詮キサマらでは、この兵器に勝つことなどできん。もう諦めたらどうだ?」


 そう言われたマキトは、一瞬反応を見せるが、すぐに表情を引き締める。


「諦めないさ……誰が諦めるもんか!」


 そしてその声に、魔物たちも――


「ここまで進んできたのです。こんなところで立ち止まりたくないのです!」

『ぼくだってまだたくさん戦える。だから立ち向かうよ!』

「キュッ!」

「くきゅーっ!」


 顔を上げ、しっかりとマサノブを見ながら応えるのだった。それに対し、マサノブは小さく笑い出す。


「フッ、やれやれ……どこまでも、まっすぐと立ち向かってくるか。いいだろう。その減らず口を封じてやる!」


 マサノブは兵器の右手を突き出し、そこに魔力の光を集め出す。


「終わりだ!」


 兵器の右手から魔力の光線が解き放たれた。それは一直線にマキトに迫る。


「ロップル!」

「キュッ!」


 だがマキトも黙っていない。ロップルの防御強化を発動し、直撃を受けながらもダメージは避けた。

 しかし――


「ロップル、そのままもう少しだ!」


 マキトは光線を受け止め続け、必死に耐えていた。いつもならすぐにでも周囲に拡散させ、あっという間に粒子と化している。なのに今回はそれをしない。

 できないのではなく、あえてしていないのだ。

 必死に受け止め続けながら、マキトはギリッと歯を噛み締める。


「防ぐだけじゃ、ダメだ……これを、攻撃に……っ!」

「キュウ……」


 マキトとロップル。二つの想いが重なっていく。光線はやがて、凝縮された一つの魔力の塊に生まれ変わっていった。


「ぅぉおおおおぉぉーーーっ!」


 全身全霊を込め、マキトは凝縮した魔力を解き放つ。発射された魔力の光線は、小さいながらも威力を増加させた魔力玉として打ち返された。

時間にしてわずか数秒。周囲からしてみれば、光線が発射されたかと思いきや、逆に跳ね返したように見えていた。


「なにぃっ!?」


 マサノブも驚きを隠せず、成す術もなく魔力玉の餌食となる。致命傷には至らなかったが、マサノブを乗せた兵器は派手によろめいた。


「今だ!」


 マキトの掛け声に、ラティとフォレオが動き出す。ありったけの力を込めて、魔力玉とブレスを打ち込んだ。

 二つの攻撃が巨大な一つの攻撃と化し、マサノブごと兵器を包み込む。そのまま吹き飛ばし、壁に激突して大爆発を起こすのだった。

 凄まじい音と衝撃が広がり、やがてお乳たところでマキトたちは目を開く。

 マサノブが爆発と同時に吹き飛ばされており、ボロボロになりながらもしぶとく生き残っていた。

 エステルが魔力を伴う枷を嵌め、マサノブを捕らえる。そして傍で、未だ放心状態となっているサヤコにも。

 ラティとフォレオは、それぞれ元の姿に戻りつつ、マキトの元へ戻っていった。そしてそこに、ユグラシアが駆けつける。


「マキト君、それに魔物ちゃんたちも……無事でなによりだわ」


 ユグラシアに声をかけられたマキトたちは、嬉しそうな表情で振り向いた。それを見た彼女も嬉しそうな笑みを浮かべ、そして告げる。


「あなたたちのおかげで、今回の件も片付いたわ。本当にありがとう」

「いや。俺たちは、ただ単に外に出たかっただけだから……何があったのかも、全然知らないし」


 マキトは首を横に振りながらそう答える。事実それ以外に言いようがなかった。魔法具の暴走に巻き込まれて、地下へ落されてここまできた。それ以上でもそれ以下でもないのだから。


「マスター! 外が見えるのです!」


 ラティが爆発した壁の方向を指さしながら叫ぶ。振り向いてみると、確かに外が見えていた。

 爆発の衝撃で破壊された壁の向こうには、夜空が広がっていた。

 ずっと地下にいたせいか、時間の感覚が殆ど分からなくなっていたため、もうそんなに時間が経過していたのかと、マキトは驚きを隠せない。


「これでようやく出られますね」


 そう言ってニッコリと笑みを浮かべるラティに、マキトもあぁ、と笑みを浮かべながら頷くのだった。


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