第53話 ゆが
いつからか、夢を諦めた―――かかえきれない夢を持ったものの、叶えたいのはどれだかわからなくなった。そしていつしか、コンビニのバイトに成り下がっていった――――
いつか、人生は幸せになれるものだと信じていた。けれど、実際はこんなものだ。そう自分に言い聞かせ、ここまで歩んできた―――
明日はX'mas。世間のリア充どもはイチャついて。俺は三十で。ある程度の話相手はいるものの、友人はほぼ皆無だ。
まあいいや、そう思い近くのコンビニに入る。いつしか、自分のバイト先と同じチェーン店のコンビニにしか入らなくなっていた。
「うー寒ぃ……」
一人言を呟き、BGMを聞き流しながら弁当売り場に向かう。300円ののり弁を適当に選び、レジに向かう。
「温めますか?」
レジのキレイなお姉さんが聞いてくる。
「はい」、と返しながら俺はあんたに暖めて貰いたいわ、とか思いながら弁当を受け取る。
「ありがとうございましたー」背中に声を受けながら店を出る。
「あー、マジかー……」
空を見上げると、遥か彼方からは白い粒が降ってきていた。
「彼女もいないのにホワイトクリスマス……ってか、積もらないといいけどなー」
基本的に徒歩と自転車の俺にとって、アイスバーンとなれば死活問題だ。チャリで滑って転んで死んだりしたらシャレにならん。ガキんころは雪だゆきだと、騒いで嬉しかったものだが。今は気苦労を考えて大して嬉しいものでもない。
しんしんと降る雪の街を歩いている。それだけで違う世界のようで。
フッと、
果てしなく続くループを経験しているような、世界が目まぐるしく入れ替わるかのような―――
誰かの夢なのか、俺は夢の中なんだろうか―――
胡蝶の夢、という言葉が脳裏をよぎる
世界がほころんでゆくような、本当は世界なんて存在してないような……そこへ、或る思考が侵入してきた――
いっそのことこの仮想現実は、ある種の思考実験ってことで内密に自然現象で成り立っていて、かつそれはどうにも抗えない限界値を突破しなければ其処へは辿り着けないのだ
だから何かにつけて色々企んでしまおうともとどのつまり徒労、気苦労に終わる。いつまでも過去に固執したところでなんも変化はなくそれはきっとまるで……
いっそのこと、全て叩き壊してしまおうか、なんて仕様もないことを考えたりしても流石にそれは不可能極まりない周知の事実であり宇宙法則によって飲み込まれてゆく
それは、きっと、まるで美しい、残酷な世界だった―――
人独り離れようともそれは多分きっと偶然に見せかけた必然
そうだ、俺はここにいない。俺はこの刹那にいない。どこにも存在などないのだ
あるのはない。ないのはある。
なにもない。なにもある。
――――――壊れたオモチャは戻らない。
覆水盆に帰らず
…………思考の渦が絡まり、拡がり、解けてまた絡まる。思考がどうにもおかしいことにも気づけないくらいおかしいようだ
頭痛、目眩、動悸、疲労感。けれど寒くて、底冷えするようなツメタサ……寒い。さむい。サムイ。
辺りは次第に白く覆われていって、銀世界に覆われてゆく。それはまるで小説の別世界のようで。
(冷た過ぎ……死に……)
体の芯まで冷やされていく感覚によって、俺は意識をうしなった
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