第70話 秋葉原探訪(その9)


「ワシの馴染みの関係者が三人もこの近くに来ていたから、ちょっと悪戯したのさ」


「何が何だか分からないんですけど」


 A子は一人置いてきぼりにされたような顔でぼやいた。


「……本当に私のお祖父様と知り合いなんですか?」

「古すぎるくらいのつきあいでな、弦狼(げんろう)の倅のおしめをワシが変えてやった事もあるわ」


 それを聞いてA子が噴き出す。


「ななななんでお祖父様の名前をををを!!」

「つーかここだけの話だが」


 老人は真面目な顔をして、


「お主のおしめも替えてやった事もあるぞ。あと確か、6才の夏まで寝小便垂れて」

「はいだらぁぁぁぁっっっ!!」


 滅多に動揺しないA子が奇声を上げてまで動揺するとは。ご主人様は苦笑いした。

 しかし直ぐに老人の方を向いて怪訝そうな面持ちで訊いた。


「……本物の“金屋子神”なのか」

「いかにも」


 頷く老人のその姿を、ご主人様はじっと見つめた。

 どこから見ても普通の老人である。その姿が鍛冶屋に信仰される神には見えなかった。


「……金屋子神って確か女性だったような」

「そう“視える”ヤツもおる。それだけの話だ。まぁ堅くなるな。ジジイのお茶目に付き合ってくれた礼だと思ってくれればいい、おーい」


 老人はぽんぽん、と手を叩く。

 すると奥に飾られていた赤外線式電気コタツが飛び跳ね、なんと子供に変化してやってきたのである。


「な!?」

「いらっしゃいませ」


 子供は三人の前でぺこり、と御辞儀した。


「コタツが人に変化したっ!?」


 驚くB子。その隣ではご主人様はお前が言うなと小声で突っ込む。


「直したついでにちょいと弄った。付喪神って奴だ」

「付喪神、って……」

「年季の入った品なら大抵宿ってるものさ。そんなに古いものじゃないから小僧ぐらいにしかならんかったが」


 老人はけらけら笑った。


「便利じゃろ? ちゃんと躾けておるから、夏場に使わない時はおさんどんでこき使うといい」

「こき使うって……」

「よろしくおねがいします」


 元コタツの子供は丁寧に御辞儀した。

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