第56話 異物

「ご主人様はソフトコンタクトレンズ使った事あります?」

「いや、俺裸眼で普通に見えるから」

「そんな糸目だから近眼かと」

「コレでも充分見えるんだよ」

「それはさておき、ちょっと今日、ネットで気になる話を……」

「何?」

「レンズを乱暴に使っているとたまに、端が欠けてる事があるそうです」

「うわ、痛そうだな」

「問題はその欠けた部分がどこへ行ったか」


 A子がそう言った途端、その場が凍り付く。


「……涙と一緒に出るとか」

「自覚が無くても欠けてるそうです。出ていればいいんですが……」

「……抜けたまつげが眼球の裏から出てくるっていう話、思い出した」


 ご主人様は身震いする。


「実は眼球ってまぶたとくっついているんですよ」

「出てきたなB子!」


 メイド服姿のB子が、ふふん、と得意げに言う。


「従って眼球の裏にまつげも欠片も貯まるような事はありません」

「ま、まぁ、ホコリ一つで痛がるくらいだし、普通に考えれば貯まる前に痛くなるわな」

「だいたい、猫の毛玉みたいに貯まる訳……けほん」


 咳払いした途端、B子の口から黒い物体が飛び出した。


「ナニソレ」


 思わず瞠るA子。


「毛玉……だと……っっ?」

「あらあらあら」


 B子は吐き出したそれを慌てて掴み、がらっ、と窓を開けて外へ投げ捨てた。


「ナンノコトデショウ?」


 B子は愛想笑いを浮かべて翻し、居間から飛び出ていった。


「こらぁ!」


 B子を追うA子の後ろでご主人様は呆れた風に肩をすくめた。


「やれやれ」

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