第50話 敵、襲来(その5)

 B子はまだ納得しないA子を留守番させて、ご主人様を引っ張るように買い出しに連れ出した。

 B子は近所のスーパーではなく、東品川にある、バスで少し離れた場所にある大型ショッピングモールへ向かう。

 まっすぐ地下食料街へ向かい、ご主人様に持たせたカゴへと次々と必要なモノを放り込んでいく。


「こんなものですか」

「そんなに買うもの無かったようだが」

「ご主人様を連れ出す口実です」

「へ」

「まずはレジで精算を。この後ちょっとお話が」

「はあ」


 言われるままにご主人様は買ったものをレジで支払いし、B子とともにショッピングモールを出た。

 既に辺りは陽が傾き、西の空に一番星がきらめいていた。


「どこへ連れて行くんだ、バス停はこっちじゃ……」


 B子はご主人様を休日のオフィスビルの中へ案内した。


「良く入れるなここ」

「我が主の持ちビルの一つですから」

「我が主?」

「お嬢様のお爺様ですよ」

「お爺様、って……」


 ご主人様は辺りを見回す。


「このビルって確か、国内屈指の……」

「ここです」


 案内されたのは、オフィスビルの一角にある宿泊所であった。


「何でこんな所へ」

「質問があります」

「……」


 ご主人様はようやく、B子の様子が少しおかしい事に気づいた。

 どこか殺気めいたものがB子から吹き付けられている、そんなふうであった。


「ご主人様はA子様とどのような関係ですか?」

「は?」

「どのような、って……」

「単刀直入に言います。お嬢様と寝ましたか?」


 ご主人様、思わず吹き出す。


「なんじゃそりゃ!」

「だから、お嬢様を抱かれましたか?」


 B子は押し殺したような声で聞く。

 ご主人様は困惑した顔で溜息を吐き、


「……んな事する訳無いだろ」

「……本当ですか」

「あのねぇ……」


 呆れるご主人様に、更にB子は殺気を吹きかけた。


「……正直に言って下さい」

「正直に、ねぇ」


 ご主人様はB子の殺気に物怖じした様子もない。意外と肝の据わった男である。


「じゃあ正直に言おう」

「……」

「俺は巨乳が好きだ」


 その一言で、あれほど辺りに立ちこめていた殺気が一気に失せた。


「……は?」

「言っちゃ何だが、アンタのお嬢さん、発育がよろしくないのでその気にもならんです、ハイ!」


 ご主人様、大変無礼な回答とともに、B子の豊満な胸を指す。


「アレで24歳というのはJAROへ訴えられても良いレベル」

「JAROって……いつ宣伝したんですかアレ」


 ようやくB子も笑い出す。

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