第14話

教会を出た旅人は少年のいる宿場へと向かった。仮説の再確認のためである。

 旅人は少年について何か重大な事態が発生していないか不安になっていたが、幸いなことに部屋に入れば少年はそこに居たままであった。しかし容体には大きく不安が残っていた。

 顔色は悪く、口元は血で濡れていた。体はさっきより痩せ細っており、近くには血であふれたボウルがあった。旅人はそれをおそらく少年が吐いた血だろうと考えた。そんな少年の姿は臆病を超えてさらに弱弱しくなっていた。初めて目にしたそれとはもはや別人の領域であった。

 しかしこれで旅人の仮説は大きな支柱を手に入れることとなった。

 痩せ細っていた少年はまた突如として現れた旅人にこう聞いた。

「俺に・・・・・・何の用だ?」

「そういえばと思い、お前の名前を聞いていなかった。名は何だね?」

「名乗れない」

 それは旅人にとって意外な答えであった。

「・・・・・・それは何故だ?」

「名乗れないものは名乗れない。あんただって俺に名を名乗ってないじゃないか」

 旅人はそう言われると何も反論ができなくなっていた。

「まあいい。お前はもう少し大人しくしていろ。体調はすぐには良くならない物だからな。ゆっくり休んでいるといい」

 そう言って旅人は宿場から出て行った。旅人が行くべき場所はただ一つに定まった。それは旅人に依頼をした酒場である。旅人は急ぎ足でその酒場へと向かった。酒場につくといつも通り酒場の店主のアルバンがそこに居た。アルバンは旅人が着た途端、旅人の肩を掴んで

「よくやった!お前さんのおかげで町は平和と安全を取り戻せた!おかげで町は大騒ぎだ!お前さんは英雄だ!」

 と唐突に旅人を称えた。町は連日お祭り騒ぎとなっており、新しく来た平和を皆その一身で感じており、中には旅人の銅像を建てようとしている人もいる。とのことを旅人はアルバンから聞いた。

「やっぱりすげえわお前さんは!さすがワシがお前さんに依頼をした甲斐があったな!」

「それについてなんだが・・・・・・」

「んだ?何かあったか?」

 旅人は呼吸を整えてこう言った。

「『奴』は今ここにはいない。」

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