第8話

旅人が旅路を往く中で世界も時間と共に旅を進めていた。しかしその旅路は一本道ではなかった。

いわば世界は混乱に満ちていた。この地域一帯を支配していた大帝国が内部の反乱によって崩壊、大帝国の威圧によって保たれた諸国の均衡や秩序は一夜にして無効化し諸種族の利害のみで衝突する紛争地帯へと様変わりした。紛争、ともなれば舞や村が突如戦場となるのは間違いない。もしそうでなかったとしても統制するもの、すなわちストッパーがなければそこで封じられてきた種族間の対立感情が炎上化するのは必至のこと。ともなればもうそれは闘争であり、紛争なのであった。

そうなると村や町は当然の如く荒廃の一途をたどってしまう。町や村が荒廃化すれば廃墟となるのは当然の理。廃墟となれば人々は職を失ってしまうのも当然の理。ならばそれが一部の人々によって犯罪へと駆り立ててしまう事も当然の理であった。

特に少年少女たちの犯罪はそれに起因するものが大きく、自らの意思で事を犯す割合はほぼ0に近い。

彼等の犯罪の大半の理由は自分自身がお金に困っているか、家族を養うためかの二つのどちらかである。

旅人はその理論に沿って『奴』もその理由に当てはまるのではないかと考えた。ただしこれには問題点が一つ存在していた。それは『奴』が少年であるかどうかという問題であった。『奴』が少年であるならば、あの襲撃は何の為だったのだろうか。何の意味があるのだろか。金稼ぎのためならば殺し屋か。

しかし『奴』が殺し屋だとすればあんなに大量殺人を依頼するものなどいない筈である。ならば強盗か。

理由を考えれば考える程、旅人は混乱の渦に苦しめられていた。

その時ふと何かを思いつき、『奴』の顔を見ようとした。そもそも『奴』が本当に少年の顔をしていたかどうかが疑問点であったからだ。もし『奴』が人を襲う化け物であったら――

その可能性を否定する事はできなかった。『奴』は少年だと決定づけるにはあまりにも不審な点が多い。あんな大量殺人など人の心を失った化け物しかできる筈が無かったのだ。

そう考えると旅人は恐ろしくて『奴』を見るのをとたんに躊躇し始めた。もしも『奴』が起きていたら、もしも『奴』が起きて旅人に襲い掛かったら、ということを考えていたら旅人は『奴』の顔を見るにみれなくない状況に陥ってしまった。しかし『奴』もいずれかは眠りから起き上がる身。危機的状況は必ず発生してしまう。ならば安全な時に全てを調べ上げた方がいつか起き上がった際にも対応できるはずであるのだ。そうして旅人は奴の顔を見た。

『奴』はやはり少年の顔をしていた。


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