第2話 時計は回ってはいない
原稿用紙は、下半分ほどがいびつな形で破り取られていた。おかげで内容がわかりにくい。ともあれ、これは詩だろう。それに作者は「宮沢賢」とある。それより下が切り取られているので、はっきりとはわからないが、もしかしたらこれは偉大な作家の隠された原稿なのかもしれない。そうであったら、大金になる。
俺は冒頭の数句を入れて、ググッてみた。蔵の中は電波が入りにくいようで、一度外に出てスマートフォンの検索アプリを立ち上げる。しかし、それらしい詩作はヒットしなかった。未発表原稿の可能性がいよいよ高まってきた。
俺は大金の予感にドキドキしながらも、さすがにこの状態ではどうしようもないこともはっきりと悟っていた。少なくとも、破り取られた残り半分の原稿用紙を見つける必要があるだろう。それに、原稿用紙の頭の方に1/4と書いてある。つまり、残り3枚の原稿用紙があるはずだ。それらを集めてようやく一つの詩となるはずだ。そうなったら、大きなセンセーションが巻き起こるかもしれない。オークションにかければ、百万、いやもっとか……。以前、ヘミングウェイとかなんとかの未発表原稿が、どこかの暇人の金持ちによって競り落とされたというニュースが頭をよぎる。たしかそこでは慎ましく一生遊んでくらせるくらいの金額が動いていたのではなかったか。 はち切れんばかりのモチベーションを持って、俺は蔵の探索を再開した。
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