夢 一
俺は実家への道を歩いていた。
夏だ。
蝉の声がかしましい。
「良!」
姉ちゃんだ。
「姉ちゃん!」
「おかえり! 父さんも母さんも待ってるよ」
姉ちゃんは高校の制服を着ている。帰ってきたばかりなんだろう。こういっちゃなんだが、あのお袋と親父の間にこんな美少女が生まれるとはね。
ミス・綿頭高校に選ばれたくらいだからな。毎日、他校から姉ちゃんを一目みようと校門に待ち伏せしている男子高校生が居たくらいだ。
俺は玄関の戸を開けようとして嫌な感じがした。
ここを開けてはいけない。
「良よ。うちに来なさい」
俺は振り返った。
ばあちゃんだ。ばあちゃんが怖い顔をして俺を見ている。
いつのまにか、あたりは真っ暗だ。
「でも、母ちゃん達が待ってるって」
ばあちゃんがスタスタと俺の前に来て、いきなり手を掴んだ。
「いいから、おいで! 逆らうんじゃない!」
「え? ばあちゃん!」
蝉の鳴き声がやかましい中、真っ暗な道をばあちゃんに手を引かれて走った。
足の悪いばあちゃんが、どうしてこんなに早く走れるのか、不思議に思ったが、とにかく逃げないといけない。
何故、逃げないといけないって思ったんだろう。
だって、あそこは俺の家だ。家族が待ってる。それなのに、何故、逃げないといけないんだろう。急に足が重たくなった。重い。走れない。
「ばあちゃん、待って! 俺、重くて走れないよ」
ばあちゃんが黙って振り返って、持っていた杖で俺の足を掴んでいる手を思い切り殴った。
暗闇の中から姉ちゃんが現れて「良、ご飯だよ。どこに行くの? 手を洗っておいでよ」と言って俺の手をぐいぐい引っ張る。
「良は私が面倒みるよ。おまえはお帰り」
姉ちゃんが急に恨めしそうな、悲しそうな顔をした。涙が頬を伝う。
「良、助けて! お願い!」
姉ちゃんが、姉ちゃんが、血まみれだ。は、はだかで立ってる。
「さ、行くよ」
ばあちゃんが俺の手をぐいぐい引っ張る。
「ばあちゃん、痛いよ。痛い!」
そこで目が覚めた。
「良ちゃん、朝だよ。よく眠れた?」
佐百合の紫の瞳が楽しそうに俺を見ている。
気持ちの悪い夢を見たのは、異世界に来たからだろう。冷たい水を飲むうちに、すーっと気持ち悪さが消えていた。
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