16

 邸の家人達の計らいで明け方まで休ませてもらい、季風は大内裏へと戻った。

 陰陽寮に足を踏み入れれば、大部分の同僚が未だに屍となっており、ある者は呻き、ある者は泥のように眠っている。

 入室の際に音を立てても、転がっている者をうっかり蹴ってしまっても、誰一人起きる気配が無い。

 そんな同僚達の横で、何度も欠伸を噛み殺しながら、季風は報告書をしたためる。

 あの邸で休ませて貰ったとは言え。まだ十代の若い体であるとは言え。一日にも満たない休息で相殺できるほど、数日分の徹夜は甘くない。

 彼にしては珍しく、何度も誤字脱字をしてしまい、書き直し、同じ誤字をしてしまい、更に書き直す。

 書き上がったと思って読み返してみたら、文章が滅茶苦茶で何が言いたいのかさっぱりわからない。

 それでまた書き直し、何度も何度も誤字をして、また書き直す。

 そうして、何度書き直しをした事だろう。

 ようやくまともな報告書を書き上げて、季風はそれを隆善に手渡した。隆善もまた、眠いのだろう。眉間に深い皺が寄っている。季風が戻ってくるまでは彼も他の陰陽師達と雑魚寝をしていたが、季風が戻ってからは起き出してきて、彼が報告書を提出するまで、寝ずに待っていてくれた。

 隆善は眉間に皺を寄せたまま、報告書を睨むように読んでいる。そして、ため息を吐いてそれを箱に収めると、言う。

「とりあえず、これは仮の報告書として受け取っておく。お前、今日は帰れ。帰って、飯食って、慣れた夜具でしっかり寝ろ。……で、明日出てきてから改めて報告書を書け。な?」

 どうやら、まともな物を書けたと思ったのは季風だけであったらしい。しかし、普段であれば誤字脱字をやらかすような奴はぶっ飛ばすと豪語し、実際にぶっ飛ばす隆善が、妙に優しい。季風やその他の陰陽師達が徹夜を続けて奮闘していた事を知っているし、己も同じ理由で眠いし、今回ばかりは怒る気にならない、といったところか。

 帰れという言葉に素直に従う事にして、季風は陰陽寮を退出した。そして、いつの間にやら初夏から真夏に変わっていた日差しを浴びながら、体を引きずるようにして自邸へと戻ったのであった。

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