10
現場に戻ったは良いが、何をすれば良いのか。考え込みながら、季風は件のもみじの木を眺めている。
木は相変わらず、はらはらひらひらと葉を落とし続けていた。落ちてきた葉を一枚、無造作に手で受け止める。やはり、文字に見える虫食いがあった。
「〝野〟……と言われてもな……。一文字だけだと、何が言いたいのか……」
とは言え、全ての虫食い文字を繋ぎ合わせようにも、どう組み合わせれば良いものか。あれだけの量があるとなると、組み合わせはいかようにもなる。
頭を悩ませながら、季風は手にした葉を裏返したり、透かしてみたりと、様々な角度から眺めてみる。
……やはり、虫食いで文字が記されている以外は何の変哲もないもみじ葉だ。
困った。全く解決の糸口がつかめない。
この虫食い文字以外にも、この邸の主人か、その関係者が良からぬ事を企んでいないかまで調べなければいけないというのに。それもどこからどう手を付ければ良いのかわからない。誰かとすれ違った時には怪しい様子が無いか観察するようにしているが、それだけで何かがわかるはずも無く。
かと言って、邸の中を勝手に歩き回って探るわけにもいかない。この邸の主人はどうやら寛容な性格をしているらしいが、流石に勝手に邸の中を探られたら怒るだろう。何か良からぬ事を考えているのであれば、尚更だ。
そんな感じで延々と考え続けて、疲れたのだろうか。それとも、初夏の暑気にあてられたのだろうか。
少々めまいを覚えて、季風はその場に座り込んだ。幸い、場所はもみじの木の下。木陰になっていて、休むには丁度良い。
乾いた土の上に腰を下ろし、深く息を吐く。気の巡りを己で確かめて、どうやら疲れによる暑気あたりだろうと判断した。ここのところ忙しかったために睡眠もあまり取れていなかったし、この暑い中で水も飲まずに動き回っていた。疲れて当然である。
座り込んだまま、季風は首を巡らせ、真上を見る。目の高さが変わっただけで、降ってくる葉の見え方が変わるのが面白い。
しばらくの間、降ってくる葉を見詰めていて。やがて季風は顔をしかめ、首を傾げた。
めまいがひどくなった……というわけではない。だが、何やら引っ掛かる。
何が引っ掛かったのかわからず、険しい顔を続けていたからだろうか。この邸の家人が、慌てて声をかけてきた。どうやら、相当体調が悪いように見えたらしい。
どこかで休むか、水を飲むかと問われ、まずは水をお願いする。そして、休む場所の用意はしなくて良いと伝えようとしたところで、ある考えが季風の頭に浮かんだ。そして、少々申し訳無さそうな顔をして、家人に言う。
「できれば、釣殿で休ませて頂けないでしょうか? その……あそこで、少し調べたい事がありまして」
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