93.スカーレットVSドンオウ 前篇

 反乱軍が土煙を上げて走り去って5分後。スカーレットの目の前にドンオウの隊が現れ、急停止した。腕を組んで仁王立ちする彼女を目にし、彼は勝ち誇ったように笑った。

 ドンオウは普段装着しているアーマーは装備しておらず、上半身裸で胸の中央にブローチの様な宝石を輝かせていた。その輝きに反応する様に筋肉はパンパンに膨らみ、心臓の鼓動と共に躍った。

「貴様か……ひとりでどうする気だ?」と、自分の隊を自慢する様に手を広げる。反乱軍の数には劣ったが、全員筋骨を増強させるパワードアーマー、エレメンタルガン、更には飛空艇に積むようなヒートバルカンを小型軽量させた新型兵器まで装備していた。

「お前らを止め、前に進む!」両手のガントレットに稲妻を蓄え、眼光を鋭くさせるスカーレット。彼女の殺気は今や嘗てのロザリア並の突風を吹かせ、ドンオウの隊の半数を怖気づかせた。

「成る程、覚悟は出来ている様子だな。だが、お前の拙い策には付き合わんぞ。お前ら、反乱軍は迂回して進軍した! 急ぎ背後を突け! 上手くいけば、ヨーコの隊と挟み撃ちに出来るはずだ!」と、腕で合図を送りながら下馬し、地響きを上げる。

「……くっ、早めに片付けなきゃな」スカーレットは指の骨を鳴らし、腰を落としてドンオウを正面から睨み付ける。

「そう上手く行くかな? 正直、楽しみなのはこちらの方だ」ドンオウはニタリと笑い、威嚇する様に大地を揺らす。彼の隊は言われた通りに反乱軍の通ったう回路を進んだ。

 しばらく2人は睨み合い、互いの殺気をぶつけ合い、腹の内を探り合う。

「ふふっ……」スカーレットは何かに気が付いたのか目を伏せて笑い始めた。

「なんだ?」

「いや、あんた武人みたいな出で立ちだし、強いのかな? と、思ったけど……そうでもないみたいね。チョスコのノーマンよりは全然下ね」

「なんだと?!」ドンオウは額に血管を浮き上がらせ、歯を剥きだした。

「一度あんたに掴まれて大地魔法を頭にぶち込まれた時も、死を覚悟したけど、まさか3発もかかってやっと額に皹を入れる程度だったし……それにその構え方。パワードスーツを脱いで戦うのは初めてかな?」彼の正体に気が付いたのか、スカーレットは獣の様な気配を解き、余裕を覗かせる。

「貴様ぁ!」胸のブローチを光らせ、大地に拳を突き刺す。すると、大地が引き裂かれて地割れが起こる。「どうだ!!」

「ふぅん……だから?」彼女は自信の揺れにはビクともせず、地割れには目もくれなかった。

「なにぃ?」

「あんたのその旨のブローチ、前にロザリアさんが戦った奴が付けていたヤツだね。早く外した方がいいよ? それを無理やり引き剥がされると呪術暴走が起きて獣化するよ」彼女はロザリアや他の仲間たちの戦いの記録に全て目を通して勉強していた為、ドンオウがつけるブローチの事を知っていた。

「なんだと……?」獣化の事は知らなかったのか、急に冷えた様に表情を固めた。

「そこまでして力が欲しいの? 言っておくけど、力って言うのはね、薄皮を少しずつ張り合わせて、自分では気が付かない内に蓄えられている物……そして、本当の強さってのは、そんな単純な物じゃないの! 付け焼刃で私に勝てると思うな!! わかったらそこを退きな、このデカブツ!!」スカーレットは声を張り、再び肉食獣の様な殺気を噴き上げた。

「黙れ小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ドンオウは図星を滅多刺しにされ、引くに引けなくなったのか力任せに間合いを詰めて拳を振り上げた。

 スカーレットは稲妻の早さで懐へ潜り込み、彼の腹筋に拳をめり込ませた。

「ぐぉう!!」

「堅っ! 流石に肉体強化はクラス4並か……でも!!」と、彼女はそのまま彼の上体をに5発の雷拳を見舞った。

「ぬがっ!! ……俺からも言わせて貰おう」

「なに?!」

「お前もアスカ程ではないな!」ドンオウの身体には痣は残っていたが、そこまでダメージは無かった。

「頑丈なだけが取り柄か?!」



 スカーレットとドンオウの激突の数分前。討魔団基地の外側の警備を任されているヨーコは欠伸をしながら目を擦っていた。

「あ~あ……なんであたしはここで警備なのかしらねぇ……スカーレット来ないかなぁ? あいつと決着つけたいなぁ……」と、眠たげな目で遠くを見る。反乱軍は進軍を開始し、自軍の作戦指令書をスカーレットに渡したが、意外にも平和な日常が流れ、何事もない持ち場が退屈で仕方がなかった。

 彼女自身はいつスカーレットが襲撃してもいいようにと、今迄ひたすらに水魔法を応用した棒術の訓練を続け、更に魔力の練り上げも行っていた。更に武具と義手義足の手入れを入念に行い、敵の襲撃を今か今かと目を爛々とさせていたが、その高揚も今や落ち着き、暇を持て余していた。

「ったく、あいつはどこを襲う気なのかしら! 早く来いよ!! 今日の為にあいつを助けたって言うのに! あんたはどう思う?!」と、自分の部下に問う。

「えぇ? 俺に聞きますぅ? えぇっと……普通に考えて単身突撃は考えられないと……」

「ふつーに反乱軍と合流するんじゃないですか?」

「それだ!! よぉし!! ここは任せた!!」と、ヨーコは水流魔法の流れに乗って反乱軍の侵攻ルートへと向かった。

「あぁ勝手に……」呆気にとあっれたヨーコの部下は一斉にため息を吐く。

「あの人はいつもあぁだからな……」



 スカーレットはドンオウと正面からの殴り合いを演じていた。彼の大きな拳は彼女の顔面を捉えたが、それを見切った様にスカーレットは雷速で避け、カウンターを入れる。

 ドンオウの一撃は全て強力なモノであったが、彼女に直撃させる事が出来ず、代わりにスカーレットの雷蜂の様な一撃が同じ個所に連続して叩き込まれ、流石に痣では済んでいなかった。肋骨は折れ、肉は弾け、流血して徐々に追い詰められていた。

「ぐっ……この……」

「肉体強化とそのアイテムに頼り過ぎて、技術は毛が生えた程度ね!」と、容赦なく傷痕に更に蹴りを入れる。

「ぐぅあ!! この……」と、唯一装備していたガントレットを弄り、何かしらの仕掛けを作動させる。

「用があるのはお前じゃないんだよ!! トドメだ!!」彼女自身、ドンオウに用は無く、彼女の目的はヨーコであった。

「俺を舐めるな!!」と、ガントレットから不意にガスを吹きだす。これは一呼吸どころか皮膚に触れただけで筋肉を麻痺させる代物であった。

「ぬっ! こ、これは!」この不意に対応する様に顔を隠して息を止め、目を瞑る。しかし、皮膚に触れる事は避けられず、忽ち身体の自由が効かなくなる。目は血走り、筋肉は痙攣したが、なんとか体勢は崩さずにその場で構えを解かずに立ち尽くす。

「残念だったな……俺は勝つためなら何でもするんだよ!」ドンオウは待っていたように容赦なく拳を振るい、膝蹴りを見舞い、更に頭を掴んで地面に叩き伏せた。

 この一瞬で形勢は逆転し、スカーレットは虫の息となっていた。

「がっ……がはっ!!」血の咳を吐き、目を剥く。

「よくも俺を侮辱してくれたなぁ? 覚悟は出来ているんだろうな!!」と、散々に殴りつけたスカーレットを更に踏みつけ、蹂躙し、蹴り転がす。麻痺ガスのせいで彼女の身体は指先一つ動かせず、防御する事も出来なかった。

 更に彼女の胸倉を掴んで無理やり引き起こし、眼前まで近づける。

「さぁ、謝って訂正するんだ。そうすれば、これ以上苦しませずに殺してやろう」したり顔で笑うドンオウ。

 それに対してスカーレットは唾を吐き、殺気を滲ませた。

「それがお前の答えか?」と、彼女を地面へ叩き付け、胸の上に拳を置く。そして、地震を起こす要領で彼女の身体に大地魔法を流し込み、全身の骨を砕き、心臓を揺さぶる。その衝撃は彼女を中心に地震が起こり、先程の様に大地が揺れた。

「げばがぁっっっ!!!!」彼女は夥しい量の血を空へ向かって吐き出し、白目を剥いて昏倒した。そのままピクリとも動かず、呼吸も止まる。

「くたばったか?」と、確かめる様に彼女の心音を確認する。「くたばったな……やっと」と、ダメ押しにもう一撃と蹴りを入れ、蹴り転がした。

 それと同時に何者かが現れ、殺気を吹き上がらせた。


「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 その悍ましい声は周囲に木霊して響き渡った。

「ヨーコか。持ち場を離れて何をしに来た?」返り血を拭いながら振り返るドンオウ。

「貴様ぁ……よくもあたしの好敵手を!!」と、ウォーターロッドをシャキンと伸ばし、目を尖らせた。

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