68.炎と大地のタッグバトル!

 ドラゴンは天高く咆哮した後、山頂から憎き気配を感じ取り、高く跳び上がる。その先にはアリシアとケビンが双眼鏡片手に立っていた。

「こっちに来る気か?! 上等ぉ!!」ケビンは素早く大剣を抜いて彼女の前で構える。

 ドラゴンの爪があと数秒で届くといったところで、その横っ面に隕石が如きヴレイズの赤熱拳が深々とめり込む。ドラゴンの血走った瞳がぐらりとでんぐり返り、勢いがピタリと止まる。

 そのままヴレイズは彼女らに寄せ付けない様に火炎と魔力循環で数十倍に跳ね上がった剛力でドラゴンを滅多打ちにし、回し蹴りで大地へ叩き落とす。

「この弾力、固さ……確かに俺じゃあ歯が立たないな」砕け、血塗れになった手足を炎の自己回復魔法で骨を接ぎ、一瞬で完治させる。

 墜落したドラゴンは何事も無かったように起き上り、黒い吐息と共にヴレイズへ矛先を変える。背中に広げた禍々しい殺気と共に翼を広げて跳び上がり、一気に彼の間合いへ入り込む。すると口をパカッと開き、喉の奥から激しい熱線を吐き出した。

「ぬぐっ!!」彼は一瞬で魔障壁を展開し、火花を散らして防ぐ。熱量と共に貫通力の高いそれが凄まじい勢いで彼を後方の山肌へと吹き飛ばす。

 そこからドラゴンは勢いに乗って両腕を振るい襲い掛かった。そのままヴレイズを爪でズタズタに引き裂こうと唸り散らしながら前進する。

「くそ、加勢しなきゃヤバいか!」と、焦ったようにケビンが構えるも、彼の肩をアリシアが掴む。

「あのドラゴンがあえて殴られたように、ヴレイズもあえて殴られている……互いに実力を確かめ合うように……」

「そんな余裕があるのか? あの大地の賢者も手を焼くドラゴンだぞ?」

「なくても、やるのがヴレイズだからねぇ」と、感心する様に彼女は腕を組みながら頷いた。



 数十秒後、山の向こう側が凄まじい轟音と共に穴が開き、そこからヴレイズが吹き飛ばされる。粉塵が吹き荒れ、遅れて溶岩の様な業火が噴き出る。

「凄まじいな……力も魔力もグラード以上。体格は5倍……圧倒的に不利だな」と、ボロボロになった上着を脱ぎ捨て、血唾を吐き捨てる。

 すると、山に空いた大穴からドラゴンがぬっと現れ、黒煙を鼻から吹きだす。未だに生きているヴレイズの姿を見て、面白くなさそうに唸り、牙を剥きだす。


「不利なのはいつもの事だ! 問題ない!!」


 ヴレイズは瞳を燃え上がらせ、爆発的な魔力と共に跳び上がり、ドラゴンと激突する。そこからヴレイズとドラゴンは体格差を物ともしない殴り合いが繰り広げられた。時折、ドラゴンは熱線を吐き散らし、彼はそれを避け、受け流してはカウンターで赤熱拳を放つ。

 そんな彼らの戦いを地上から眺めていたリノラースは感心する様に唸った。

「戦闘センス、魔力、気力……賢者に迫るものがあるな。だが、それでもあのドラゴンは倒せない。ひとりでは!!」と、彼は勢いよく大地を蹴って跳び上がり、ドラゴンの腹を狙って拳を振り抜く。

 その一撃は深々と突き刺さり、ドラゴンを怯ませる。そのまま踵落としで脳天を蹴り砕き、大地へと叩き落とす。

「リノラースさん?! す、凄い……あんな固いドラゴンを……」

「殺しきれない、がな。どうすれば倒せるか、まだ探る必要があるな。ふたりでかかるぞ!」

「はい!!」と、ヴレイズは彼の呼吸と魔力に合わせて動き、煙の中で再生完了させたドラゴンに殴りかかった。



 リノラースとヴレイズが2人で戦い始めると、アリシアは目を覚ます様に頭を振る。

「そうだった、あのドラゴンを倒す策をやっと思いついたんだった! ヴレイズぅ! ちょっと耳貸してくれるぅ?!」彼女は自分の魔力を少し強めて気配を飛ばし、大声を出す。

 しかし、彼は聞こえていないのか、生き生きとした顔でリノラースの動きに合わせてドラゴンを迎え撃っていた。

「策って、どんな策を? 俺はどうする?」ケビンはやっと出番が来たと張り切る様に大剣を構える。

「あのドラゴンは表層を闇で覆っていて、体内は呪術で満たされているの。さらにその奥は炎魔法が揺らめいていて、それらが全て噛み合って馬鹿みたいな回復力を誇っているってわけ。闇と炎を消せれば、恐らく……」と、手の中の光を漏らす。

「闇は光で打ち消せるとして、炎は? ヴレイズが消せるって言うのか?」

「うん、彼はもうそのステージにいる筈。炎と温度を操る、真の炎使いのステージにね。って、聞こえているの? ねぇ? ヴレイズ!!」より一層、己の中の魔力を上げ、ヴレイズに気配を飛ばす。

 それでも彼は気付かないのか、リノラースとの連携を楽しむ様に戦い続ける。リノラースが剛拳でドラゴンの筋肉を突き破り、そこへヴレイズが爆炎魔法を流し込む。

 ドラゴンは方向と共に爆散し、肉片を飛び散らせ、血の雨はヴレイズの炎によって蒸発させる。

 が、再起不能と一目でわかる重傷を負ってもドラゴンは一瞬で傷を完治させ、鱗の色をより一層濃くさせた。

「また頑丈になったな。どうすれば倒せると思う?」リノラースは目を鋭くさせ、ドラゴンの次の動きに注目した。

「ヤツの体内から火山の様な熱を感じます……それを鎮火させる事が出来れば或いは……」と、顎を摩りながら唸る。


「ヴぅレぇイぃズぅぅ!!! 聞けって!!!」


 彼に向かって光を当て、頭の中へ直接怒鳴り込むアリシア。

「お、アリシアか? なんだ?」

「何だじゃないよ! さっきから呼びかけているのにぃ! 策を思いついたからちょっとこっちに来てくれる?」

「策? 悪いが、もう少し時間をくれ! 大地の賢者さんと共闘できる機会なんて、そうそうないんだからさ!」と、ヴレイズは再びリノラースの動きに合わせて拳を振るった。

「これ以上そいつを叩いたら、次はどんな進化をするか分からないんだから!! いい加減にしてよ!!」と、アリシアは両拳を握り込み、額に血管を浮き上がらせた。

「っと、あと少し戦わせてくれ!!」ヴレイズはリノラースの呼吸に合わせて更に戦い続ける。


「いい加減にして! ちょっとこっちにきて!!」


 アリシアは全身に光を纏い、目にも映らない程の速さでヴレイズの背後に現れ、彼の耳を掴んで思い切り引っ張る。

「いででででででででででぃいでいいでい!!!」と、手足をジタバタさせながら後方へと引き摺られていく。

「この戦いは連携が必要なの! あのドラゴンはただの化け物じゃない、魔王軍の呪術生物兵器! 遊びでやって貰っちゃ困るの!!」

「わ、わりぃ……でも、遊びでやってたわけじゃ……」

「ここでヤツを取り逃がしたら、またこの国の人が沢山殺されるんだからね!! それだけは覚えておいて!!」と、指を立てながら叱る。

「は、はい……ごめんなさい」

「っと、2人はここにいな。俺は賢者さんの援護へ向かうぜ」待ちに待った様子でケビンは山肌を蹴り、大剣を振りながらドラゴンへと向かった。

「お願いね! で、ヴレイズにはやって貰いたい事があるんだけど」



 リノラースに加勢するケビンは、彼より前に出て大剣を振るった。が、ドラゴンの甲殻や鱗に刃は歯が立たず、弾かれてしまう。

「ちぃ、斬撃じゃ分が悪いか?」

「……君は吸血鬼の……どうやら、随分と実力を隠している様子だね。なぜ本気を出さない?」ここ1日でケビンを分析したリノラースは、彼の本質に気が付いていた。

「まぁ、本気は出せるが……ちょっと、難しくてね!」と、懐からナイフを取り出し、己の心臓に突き立てる。

 すると次の瞬間、彼の瞳は赤々と光り、凄まじい殺気が吹き上がった。

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