45.魔王の予測

 ところ変わってバルバロン国内のファーストシティ。日が正午を差す頃、飛空艇発着場へ向かって1艇のガルムドラグーンが飛来し、ゆっくりと着陸する。

 その中から風でスカートをはためかせながらロキシーが悠々と現れる。

 そんな彼女を数十人のバルバロン兵が出迎え、行儀よく敬礼する。

「「「お帰りなさいませ、ロキシー様!!」」」と、声を揃える。

「ん、ご苦労様。ウィルガルムはいる?」

「は! たった今、昼食中でございます!」

「私もご一緒させて貰おうかしら」と、ヒールの音を小気味良く鳴らしながら、ウィルガルムのいる大食堂へと向かう。

 大扉を開けると、そこでは魔王とウィルガルムが2人でテーブル越しに向き合って昼食を楽しんでいた。

「随分食べるじゃないか。大丈夫か?」と、魔王はウィルガルムの食べっぷりを見て驚いたように問う。

 普段の彼は、小食であり、あまり固形物を食べる事が出来なかった。何故なら彼は消化器官を半分以上無くしており、まともな食事が出来ない身体であった。

「やっと人口臓器の実用化が実現したんだ! 消化薬の助けなしでまともに飯を味わえるようになったんだぜ? 食べずにいられるか!」と、ステーキ肉をゆっくりと噛んで味わう。

「旅していた頃からお前、栄養バーと野菜ペーストしか食べてなかったもんな」

「そうだ! 食事がこんなに楽しいモノだったとは……俺は最高に幸せだ!」

「ちょっと失礼」と、ロキシーは彼ら2人の間に入る様に椅子に座る。

「お、ロキシーか。予定より早いお帰りだな。どうだった、南大陸は? ヴァイリーの実験は成功したみたいだが」魔王はステーキを切りながら問いかける。

「お、向こうからの物資が十分すぎる程送られてきたぞ! これでデストロイヤーゴーレム完成まであと一歩だ!」と、ウィルガルムが満足そうに口にする。

「それはよかった……それより、コレみてよ」と、砕かれたダーククリスタルの破片を取り出し、魔王に向かって投げ渡す。

「……ん?」

「ごめんなさい。貴重なクリスタルを砕かれたわ。こんな事は15年以上の戦いで初めてね」

「この破壊跡……光魔法によるものだな」と、手にした破片を魔法で探る。

「光使いにやられた……? まさか、お前のナイトメアソルジャーがやられたのか?!」食事を中断し、仰天しながら立ち上がるウィルガルム。

 彼女のナイトメアソルジャーが退けられたのはこの18年で初めてであった。

「こんな事の出来る光使い……ナイア・エヴァーブルーか?」

「いいえ……それに、いくら彼女でも3000ものナイトメアソルジャーを光矢一本で全滅させるほどの魔力はないはずよ」と、頬杖を突きながら唸る。

「3000を一本で?! 一体どんな奴だ?! 聞いたことが無いぞ?!」

「……この光の痕跡……感じたことがあるな。ナイア・エヴァーブルー、そしてエリック・ヴァンガード……まさか……」と、魔王は目をギラリと光らせる。

「まさか?」ウィルガルムは太首を傾げる。


「アリシア・エヴァーブルーが生きている……」


 魔王は手の中でダーククリスタルの破片を手の中で溶かしながら奥歯を鳴らす。

「何ぃ?!」この言葉にウィルガルムは仰天し、席を立ち上がる。

「アリシア……? 確か、貴方が殺した筈よね?」と、彼の失態を責める様な目で睨む。

「あ、あぁ! 首の骨をへし折り、確実に殺した! 俺のこの手でな!!」

「首の骨を?! に、しては元気そうだったわね……首の骨の治療は相当高度な医療技術が必要な筈……即死じゃなければね」

「だが、アリシアが生きている事は事実だ。全く……」と、魔王は目を瞑りながらため息を吐く。

「す、すまない……魔王様」


「いや、不幸中の幸いだ」


「なにぃ?!」ウィルガルムは仰天して目を剥く。

「我が軍に足りないモノは何だと思う?」

「……そりゃあ……六魔道団に魔動科学技術、化学……全てにおいて隙は無いと思うが」

「もしかして、光使い?」ロキシーは口元を歪めながら答える。

「その通りだ。前々から言っているが、我々の最終目的には、実は光使いが必要なのだ。ウィルガルムが頑張って、ライトクリスタルを加工して上手くやってくれてはいるが……やはり必要なのは使い手だ」

「……つまり、どういう事だ?」ウィルガルムは未だに魔王の考えが解らないのか唸る。

「まさか、あの小娘を仲間に引き入れるつもり?」彼の考えを呼んだロキシーが呆れた様に口にする。

「あぁ。俺様が推理するに……この2年近くでここまでの使い手になるには、ただの努力や才能だけでは不可能だ。おそらく……神聖存在の手助けがあったに違いない。確か、ウィルガルムがアリシアを殺した場所はゴッドブレスマウンテンの近場だったな。きっと、その山頂にいる『ヤツ』から教わったのだろう。で、アリシアが賢ければ、そこでこの世界の歴史についても知った筈だ。そこで世界の矛盾に気が付き、迷いが生まれている筈だ。そこを擽ってやれば……」と、魔王はニヤリと笑った。

「そう上手くいくかしらね?」

「行くさ。俺様の闇魔法で心を蝕んでやれば……だが、その前にウィルガルム。デストロイヤーゴーレムを完成させろ。話はそれからだ」

「おう、任せておけ! ロキシーのお陰で必要な物は揃っている。あとは、組み立てるだけだ!」

「楽しみにしているぞ……」と、魔王は脚を組み、余裕の表情のまま含み笑いを漏らした。



 その頃、ラスティーはバンガルド首都へ向かう馬車の中で静かに眠っていた。共にディメンズとヴレイズが登場し、周囲の襲撃に備えていた。

「で、今回はどう取り入る気だ?」ディメンズが問題を出すように尋ねる。

「俺たちは、バンガルド軍が魔王軍と繋がったという弱味を握ったからな。それを使うつもりだ。が、もうひとつの材料を使わせて貰う事にした。それに、アリシアとヴレイズが戻ってきているし、少し強気に攻めてみるのもアリかと思ってな」

「で? その材料とは?」

「ドラゴンだよ。この国の悩み事のひとつだ。それを取り除いて恩を売ってやるのさ。アリシアが喜ぶぞぉ~ ドラゴンを狩るのは初めてだろうしな」

「だろうな」と、ヴレイズも納得した様に頷いた。



「どらごん? 本当に?!」アリシアは自分の耳を疑った。

「あぁ! 本当だよ! ロザリアさんもみたよな! な?!」ケビンは同意を求める様に彼女に話を振る。ロザリアは大剣の手入れをしながら静かに頷いた。

「うっそだぁ! ドラゴンなんてこの世界にいる訳ないよ!!」

「でも、噛み砕かれた俺が言うんだから……って、アリシアさんは何故そこまで断言できるんだ?」と、不思議そうに問う。

「シルベウス様が何度か、創造の珠でドラゴンを生み出そうとチャレンジしたらしいんだよね。でも、毎回失敗して結局大地をはい回る蜥蜴が生まれるだけで、火を吐き大空舞う龍は生み出せなかったって悔しそうに言ってたんだ。だから、断言できるんです! この世にドラゴンはいないって!!」と、腰に手を置き、鼻息を鳴らす。

「成る程……説得力が違うな。その話を聞くと、俺はドラゴンではない別の何かに噛み砕かれたのかも……」と、自身を無くした様に項垂れるケビン。

「だが、遠目で見ても、アレは間違いなくドラゴンだったぞ。大きな翼で空を舞い、立派に火も噴いていた」と、ロザリアが口にする。

「本当? だったら、狩りたいなぁ~……でも、そんな時間はないんだろうなぁ……ラスティーはこの大陸と、西と東で世界同盟を目指しているし……遊んでいる場合じゃないよね」

「ドラゴン退治が遊びって……」彼女のこの言葉にケビンが唖然とする。

「本当に頼もしい人だ……貴女なら、皆を守れるだろう」と、ロザリアは彼女の肩に手を置き、信頼を寄せる様に優しく叩く。

「いくらあたしでもひとりじゃ無理だよ。皆の力が無いとさ。頼むよ! 特にケビン! 吸血鬼なんだから、少しは無茶してよ?」

「吸血鬼なんだからってなんだよ……ま、頑張るけどさ」

 そこへ、エルが慌てた顔で現れる。

「キャメロンさんが目を覚ましました!!」

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