第96話 嵩んだ弾薬費
ハンター達が必死に小型タンクランチュラと交戦している。通信機からシカラベの指示が飛んでいる。
「逃げる個体は無視しろ! そいつらを倒しても賞金が出るわけじゃねえ! 親の防衛をしているのなら、親を撃破すれば周囲に散る可能性もある! 親の撃破を主目的に考えろ! 2番! マーキングはどうなってる!」
「こちら2番! 親個体に誘導機を設置しても、子がそれを破壊している! ……ちょっと待て!? 親から誘導機を剥がして離脱していく個体がいた! 誘導機を付けたまま、1番の車両の方に向かっている! 誘導設定を変えないと、ロケット弾がそっちに飛んでいくぞ!」
「
通信機から機械音声が繰り返される。
「59、58、57……」
全員の通信機から同一の音声が流れている。ハンター達の耳にその指示は届いていたが、大半の者はそれどころではなかった。
アキラが非常に険しい表情で、舌を
激しい揺れの中でも問題なく会話ができる念話の利点を活かして、アキラが戦いながら理不尽な疑問をアルファに尋ねる。
『アルファ! 何で俺だけこんなに囲まれているんだ!?』
『アキラだけではないわ。シカラベの車両も囲まれているわ』
『あれは指令車だからだろう!? 車体も大きくて目立って頑丈そうで脅威になるからだ! 目立つ機銃だって付いているからだ! 俺の車は他の車と大して差はないじゃないか! 何で俺だけ狙われるんだ!?』
当初子
アルファが苦笑しながら話す。
『初めに偶然敵の目標に成りやすい場所にいて、応戦して無傷で子
アキラが
『俺の運が悪いからか!? そう言われたらもうどうしようもないな!』
アキラも自分の運の悪さは自覚している。そう言われてしまったら、後はその不運がアルファのサポートで対処可能なものであることを祈るしかない。
不規則に蛇行している揺れる車両の上で、車両の慣性を強化服の操作で受け流しながら、車体の壁に足を付けてCWH対物突撃銃の専用弾の反動を押さえつけて、車両の一番近くにいる機械の
既に周囲には破壊された小型のタンクランチュラの残骸が幾つも散らばっている。しかし敵の砲撃が弱まる気配は全くない。
『アルファ! 幾ら何でも多くないか!? もう結構倒してるよな!? 他のハンターも戦っているし、シカラベの車両搭載の機銃でだってかなり倒しているはずだ! これだけ倒しているのに、何で一向に数が減らないんだ!?』
アキラも、シカラベ達も、他のハンター達も、既に相当数の子
『あの親
アルファが言いにくそうな表情で話す。
『その件に関しては、残念なお知らせがあるわ』
『何だよ!? やっぱり分裂とかしているのか!?』
『違うわ。子
『
『さあね。普通の
アキラの表情が引き
『ぜ、全部倒さないといけないのか? もしそうなら、後どれだけ残っているんだ?』
減る気配すら見えない敵の数が、アキラの体力と精神と弾薬を削り取っていく。じわじわと殺されているような錯覚を、CWH対物突撃銃の専用弾を食らってばらばらに吹き飛ぶ敵の光景を見て
だがその
『分からないわ。シカラベの予想通り、親
通信機からロケットランチャーでの攻撃タイミングを合わせる
「……6、5、4……」
アキラが慌ててロケットランチャーを準備する。狙う必要はない。引き金を引きさえすれば自動誘導で飛んでいく。タイミングを合わせて引き金を引く。
「……1、0」
アキラが撃った分も合わせて、計10発のロケット弾が上空に飛んでいく。そして空中で大きく軌道を変えて親機のタンクランチュラへ飛び込んでいく。
親機の周辺にいる子機が次々に砲弾を放ってロケット弾を迎撃する。親機まで届いたロケット弾は6発。初回の攻撃のように親機の巨体に接着した誘導装置による誘導ではないので、多少着弾位置がずれている。それでも無数の爆発が親機を呑み込んだ。
巨大なタンクランチュラは健在だ。少なくとも子機は逃げようとせず、親機の護衛を続けている。
通信機から機械音声が繰り返される。
「59、58、57……」
アキラが表情を
『本当に頑丈だな。賞金が掛かるわけだ。もう一度初回の攻撃ができれば
『そうするためには、それを邪魔する子機を倒さないといけないわ。子機と交戦中でさっきの攻撃に参加できた人数も少ないしね』
襲いかかってくる子
『とにかく子
『そういうことよ。私もサポートするから頑張りなさい』
『ああ、そうだな』
他に手段などないのだ。その手段が状況を改善させると信じて、アキラは必死に戦い続けた。
アキラが必死に戦って多くの敵を倒すほど、敵はアキラを強力な個体と評価して優先的に撃破しようとする。アキラの周りに更に多くの敵が集まり、それらを倒すことで更にアキラの優先度が上昇していく。その繰り返しだった。アキラはそのことに気付いていなかった。
アルファは気付いていたが、黙っていた。教えても意味がないからだ。
なお、アキラが初めに他のハンターより優先的に襲われた理由は、移動中のアキラの狙撃が原因だ。パルガの指示が出る前に遠方のモンスターを一撃で倒したあの狙撃を、偶然近くにいたタンクランチュラの子機が見ていたのだ。それにより、ほんの僅かだがアキラの優先度が他のハンター達より上がっていたのだ。
あの狙撃がなければ、アキラは他のハンター達と同程度の脅威としか認識されなかった。これはアルファも知らないことだ。
アキラは運が悪かった。それだけは、アルファの言葉通りだった。
トガミは必死だった。アルファの非常に荒っぽい運転の所為で激しく揺れる車体から投げ出されないように、必死に車体にしがみつきながら、周囲の機械
だが倒せない。揺れる車体からの銃撃は非常に困難で、敵もかなりの速度で移動しているのだ。狙い撃つのを諦めて乱射に切り替えているが、それでも弾を
ロケットランチャーによる一斉攻撃にも参加できていない。舌を
(……くそっ! 俺が! この俺が!)
近くの敵を銃撃しながら、トガミは
数体の子
アキラが近づいてくる個体を順に銃撃していく。敵が砲撃できないとしても、勢いよく車両に体当たりされるだけでも厳しいのだ。車が横転などしてしまえば致命的な状況になり兼ねない。
ここでアキラは撃破する個体の優先順位を誤った。車両との距離を基準に優先順位を決めていたのだが、個体の体長も考慮に入れるべきだった。
体長1メートルほどの個体を撃破している間に、体長2メートルほどの大きめの個体が距離を詰めてくる。それでもその大きめの個体が車両に体当たりをする前に、アキラはその個体の胴体部分を銃撃して撃破した。
次の瞬間、大きめの個体の腹部がはじけ飛んだ。その腹部から孫
複数の孫
アキラが慌てながらそれらの孫
『何だこれ! また増えるのか!?』
アルファが素早く指示を出す。
『アキラ! 車両に取り付いた個体をすぐに除去して! 車が食われているわ!』
アキラが慌てて車に引っ付いている孫
車の制御装置を食われでもしたらお
座席にいた個体を蹴り飛ばし、ハンドルを
車にはまだ大量の孫
アキラがぎょっとする。トガミが車両の内部にいる孫
「よせ!」
アキラは思わずそう叫んで、トガミが狙っていた個体を素早く蹴り上げて、殴り飛ばして車外に吹き飛ばした。
「何やってるんだ!? そんな銃で車両を銃撃するな! 車が壊れるだろう!」
トガミが慌てながら反論する。
「こんな時に何を言ってるんだ! 荒野仕様の車両がそれぐらいで壊れるか!」
「俺の車だぞ!?」
どちらかといえば、正論を言っているのはトガミの方だ。だがアキラはトガミも自分と同じようにCWH対物突撃銃の専用弾のような強力な弾丸を使用していると思っており、その銃弾で自分の車両を吹き飛ばそうとしているように見えて大声で言い返した。
二人が無駄な言い争いをしている間にも、アキラの車両は孫
アルファがアキラに指示を出す。
『アキラ。勢いを付けて引き剥がしてみるから、振り落とされないようにって伝えて』
アキラは指示の意味が分からずに一瞬だけ
「振り落とされないように
だがトガミはいきなり怒鳴られて驚きの表情を浮かべるだけで、その指示に対応できなかった。
アルファが車体を激しく回転させながら急激にUターンさせる。慣性と遠心力で車体に取り付いていた孫
トガミが宙を舞い、地面に
「ふ、ふざけ……!」
ふざけるな、と言い切る前にトガミの表情が凍り付く。体長2メートルほどの小型タンクランチュラがトガミに襲いかかろうとしていた。生体砲弾が切れているのか、
トガミも曲がり形にも反カツヤ派に押し上げられるだけの実力者だ。反射的に強化服の全力で蹴りを放っていた。だがその
死の認識がトガミの意識を加速させ、世界の歩みを遅くする。トガミの視界にゆっくりと近付いてくる敵の姿が映っている。その濃密な時間の中で、トガミが絶叫をあげようとする。
次の瞬間、トガミを襲おうとしていた子
アキラは更に周囲の別個体をCWH対物突撃銃で銃撃し続ける。アキラ達を襲おうとしていた子
アキラの車が再びUターンして戻ってくる。他の個体に距離を詰められる前に、アキラはトガミを
二度の高速Uターンで車両に取り付いていた孫
アルファが苦笑しながら話す。
『アキラ。ちょっと危なかったわよ?』
アキラが少し険しい表情で答える。
『仕方ないだろう。こんな状況で戦力を減らしてたまるか』
『アキラの車両に置いておいても大した戦力にはなりそうにないわよ。邪魔にもなったしね』
『そうだな。だから』
アキラが軽く笑って話す。
『シカラベの要望通り、シカラベの車へ投げ込もう』
シカラベの車両もアキラと同じようにタンクランチュラの孫
制御装置に表示されている車の耐久値が徐々に減っていく。シカラベがそれを見て舌打ちする。
「仕方ねえ。自力で何とかするか」
シカラベは車を自動運転に切り替えると、移動中の車両から外に出て車体に貼り付いている孫
アキラは車両をシカラベの車両に近づけると、トガミを
シカラベが笑いながら話す。
「あいつ、本当に俺の車に投げ込みやがった。有言実行なやつだな」
投げ飛ばされたトガミが
「お帰り。ちょうど良い時に帰ってきたな。トガミ。車の運転はできるな?」
トガミは状況をいろいろと把握できずにあたふたしている。シカラベがトガミの頭を強く振って意識を自分に向けさせる。
「トガミ! 運転できるのか! できねえのか! どうなんだ!」
「で、できる」
「俺の代わりに運転しろ。自動運転だと限度があるからな。何かあれば連絡しろ」
シカラベはそう指示を出すと、開いた後部扉の天井の部分を
我に返ったトガミは慌てて運転席に向かった。
アキラがシカラベの様子を見て驚いている。
『
アルファが
『感心して見ていないで、アキラも自分の仕事に戻りなさい。子
『おっと、そうだった』
『彼を振り落とす心配がなくなったから、車の速度をもっと上げるわ。気を付けてね』
『ちょっと待て。あれでも手加減していたのか?』
『そういうこと。行くわよ』
車が急加速する。アキラは慌てて体勢を直した。
ハンター達の必死の応戦の
戦況がこのまま推移し続けていけば、いずれはシカラベ達の勝利で終わるだろう。しかしそれはあり得ないのだ。戦闘を継続する
アルファからその説明を聞いたアキラが心底嫌そうな表情を浮かべる。
『本当なのか? 本当にこのままだと勝てないのか?』
『このままならね。恐らく本来は初めの一斉攻撃をもう一度繰り返せば勝ちだったのよ。現在の状況はシカラベ達にとってもかなり予想外の状況のはずよ』
『じゃあ何ですぐに撤退しなかったんだ? 勝ち目がないなら、戦っても弾薬費が無駄に掛かるだけだろう』
『勝ち目がなくなったわけではないからね。それに周辺の荒野から追加の増援さえ来なければ、増援が来てもその量が少数なら、とっくに勝っていたわ。もう少しで勝てるって状況が続いて、撤退の判断を先延ばしにしたのね。恐らくもう次の賞金首用の弾薬も
『でもこのままだと勝てないんだろう? どうするんだ?』
『多分その辺の指示がそろそろシカラベから来ると思うわ』
アルファの予想は正しく、通信機からシカラベの指示が出る。
「全員に通達! 次の一斉攻撃で最後だ。それで倒せなければ撤退だ。ロケット弾の誘導設定を変更して、空中待機時間を限界まで上げて攻撃する。次の合図で配布したロケットランチャーを撃ち尽くすつもりで攻撃しろ。ロケットランチャーを撃ち尽くした後は、ロケット弾を迎撃しようとしている個体を優先的に撃破しろ。次で最後だ! 死ぬ気でやれよ! 賞金が手に入らなければ、お前らへの報酬も出ねえぞ!」
アキラが軽く笑った後で大きく息を吐き、真剣な表情に変えて気を引き締める。
『よし。何があろうと次で最後だ。できれば勝って終わらせる。頑張ろう』
アルファが
『大分余裕も出てきたようね。良いことだわ』
『まあな。大分慣れてきた。後はその慣れに、大金を手に入れる慣れを付け加えるだけだ。大赤字に慣れるのは御免だ』
『私もできる限り協力するわ。さあ、最後の一撃の準備をしましょう……と、言いたいところだけど、誰か来るわね』
アキラが
ネルゴはそのままアキラの
「やあ。私はネルゴという。そちらに御一緒しても良いかな? 私に支給されたロケットランチャーはもう
アキラの車にはアキラとトガミの分のロケットランチャーが積まれている。トガミは一斉攻撃に
「まあ、それはこっちも助かるから構わないけど」
「感謝する」
ネルゴはそう答えると、アキラの車に飛び乗ってきた。移動中の車両にも
アキラがネルゴの動きを見て少し驚く。ネルゴがそのアキラに話す。
「どうかしたかな?」
「あ、いや、
「それなりに金をかけている機体なのでね。おっと、戦闘中だったな」
ネルゴが周囲の敵を攻撃する。アキラも少し慌てて別の個体を銃撃する。
「ところで、君の名前はアキラ、だったかな?」
「そうだけど」
「先ほどの戦闘を見せてもらっていた。素晴らしい動きだ。私は見ての通りサイボーグだが、君も実は義体だったりするのかな?」
「いや、俺は生身だ。強化服は着ているけど」
「ふむ。君は強化服使いか」
ネルゴは周囲の敵を問題なく対処しながらアキラをじっと見ている。アキラが何となく
「な、何だよ」
「いや、失礼。職業柄、君のような
「ナノマシンとかでの身体強化はしていない。訓練は……、自己流だ。どちらかといえば訓練の成果だな」
「そうか。それは素晴らしい」
アキラが調子を狂わされたように僅かに
『な、何だこいつ。アルファ。何か分かるか?』
『見た目通りのサイボーグで、先ほどの動きを見る限り機体の性能を十全に発揮できる実力者。分かるのはそれぐらいね。アキラに興味があるのは、まあ、アキラが子供にしては大活躍しているから、それなりに興味が湧いたってだけだと思うけど』
『そ、そうか』
アキラは妙な居心地の悪さを覚えながらも、それ以上は気にせずに敵の対応を続けていく。今は戦闘中だ。そして最後の攻撃の前段階なのだ。余計なことに意識を割く余裕はない。
ネルゴもそれ以上は特に話さずに的確に敵を撃破していった。
通信機からの機械音声のカウントと一緒にシカラベの声が聞こえる。
「そろそろだ! 俺が撤退を指示するまで、ひたすら撃ち続けろ! この最後の攻撃に参加できなかったやつは、役立たずだと判断する! 生き残っても
「5、4、3……」
アキラ達がロケットランチャーを構える。アキラは両手で構えているので1発分だ。そしてネルゴは4本の腕それぞれで構えているので4発分だった。アキラがそのネルゴを見て少し引いていた。
「2、1、0」
機械音声のカウントに合わせて、アキラ達が一斉にロケット弾を放つ。同じ車両から計5発のロケット弾が飛んでいく。他のハンター達もシカラベの脅しで可能な限りロケット弾の発射を試みていた。無数のロケット弾が次々に空中に飛んでいく。
次のロケット弾を発射しようとするアキラをネルゴが止める。
「ロケット弾の発射は私が請け負おう。腕は私の方が多いからな。君は敵の迎撃の阻止に回ってくれ」
「わ、分かった」
アキラがロケット弾の迎撃を試みている子
そのアキラの背後で、ネルゴが次々にロケット弾を放ち続けながら、アキラの実力を注意深く観察していた。
無数のロケット弾が滞空時間を調整しながら宙を舞う。そして着弾タイミングを各自で自動修正して一斉に敵に襲いかかる。子
アキラが顔を
『これで倒せなかったら、もう本当にどうしようもないぞ!』
アルファが笑って答える。
『そうね。でも大丈夫だったみたいよ? あれを見て』
巨大なタンクランチュラの各部位がばらばらになって飛び散っていた。そして周囲にいた子
『恐らく親機の制御下にあった状態で親機が破壊されたから、子機の方も同時に制御装置ごと停止したようね。もう大丈夫よ』
『勝ったんだな?』
『
アキラが大きく息を吐く。勝利の実感は歓喜よりも
ネルゴがどことなく気安い態度でアキラに話す。
「無事に倒せたようだな。何よりだ。では、私はお
ネルゴはそう言い残して自分の車に飛び乗ると、そのまま去っていった。
アキラが少し気が
『結局、あいつは何だったんだ?』
『さあね。まあ、私達が気にすることではないわ』
『それもそうだな。……ああ、疲れた』
アキラが心底疲れた表情で運転席に座る。アルファが笑ってアキラを
『お疲れ様。アキラ』
8億オーラムの賞金首は、こうしてシカラベが率いるハンターチームに討伐された。
シカラベ達は賞金首を討伐した後も
シカラベがすぐにハンターオフィスにタンクランチュラの討伐に成功したことを連絡する。装甲兵員輸送車に積んでいる高出力の通信機を使用し、荒野に配置しておいたドランカムの中継器を介して都市まで連絡できるように、事前に
賞金首を討伐した連絡をハンターから受けたハンターオフィスは、討伐の確認と賞金首の死体や残骸の運搬の
賞金首の死体や残骸はハンターオフィスに所有権があることになっている。賞金首に認定されるほどのモンスターは倒された後でも価値があるのだ。生物系モンスターならば特異な変異を起こしていることが多い。機械系モンスターならば希少な金属や部品、装置を保持していることがある。それらは企業の研究室に運ばれていろいろ調べられるのだ。
賞金首の死体が残っていないと賞金が支払われない、などということはない。木っ端
ただし賞金首の死体等が明確に残っていて、賞金首を倒したハンターがそれをハンターオフィスに引き渡すのを拒否する場合は、要交渉となる。場合によっては賞金が支払われないこともある。金に困っていないハンターが名誉を求めて賞金首を倒し、賞金を受け取らずに倒した賞金首を
それらの事情からシカラベ達はその場に
作業内容はタンクランチュラの残骸と機能を停止した子個体などの収集だ。タンクランチュラの破壊された砲塔、千切れた足、飛び散った装甲などを集めていた。別に賞金首討伐に賞金首の残骸を集める義理も義務もない。放置してもハンターオフィスの作業員が後で勝手に集めるだろう。
それでもシカラベが指示を出したのは、ハンターオフィス賞金首討伐後の手続きを速やかに終わらせる
アキラは待機場所で昼食を取っていた。朝食の時間を考えると少々遅めの昼食だ。自分の車に寄りかかって楽な姿勢を取り、持ち込んだ携帯食を並べてゆっくり食事を取っていた。
アルファがアキラの前に座って
アキラが自前のサンドイッチを食べながら、アルファが口に運んでいるサンドイッチを見る。
『……何か、そっちのは随分
『アキラも食べてみる? はい。あーん』
アルファは笑ってそう話すと、自分が食べていたサンドイッチをアキラの口元近くに持ってくる。ふっくらとしたパン。新鮮な野菜。ソースの滴る肉。それらで構成された非常に
アキラが顔を
『そういう嫌がらせは止めようじゃないか』
視覚から味覚を刺激するそのサンドイッチは実在していないのだ。アキラが手を伸ばしても触れることはできないのだ。口に含もうとしても舌に触れ味わうことは不可能なのだ。
笑いを堪えているアルファの前で、アキラは不服そうに表情を
『良し。決めた。帰ったらもっと良いものを食べよう。値段を気にせずに
アキラの決意の籠もった宣言を聞いて、アルファが笑いながら話す。
『それで良いのよ。アキラもそれぐらいの
『
『あら。アキラに
アルファは楽しそうに笑ってそう答えた。アキラは黙って手元のサンドイッチを食べきった。
シカラベ達は装甲兵員輸送車の近くで休憩を取っていた。トガミも同じ場所にいた。ハンターオフィスに報告する賞金首討伐チームの人員を集めているのだ。それはシカラベ、ヤマノベ、パルガ、トガミの4人だ。
シカラベが僅かに
「遅えな。ハンターオフィスの連中はまだ来ないのか?」
シカラベはすぐにでも次の賞金首討伐に向かいたかった。しかしハンターオフィスの職員と賞金首討伐の後手続きを済ませるまではこの場で待機しなければならない。
ヤマノベが上機嫌に笑いながらシカラベを
「落ち着けよ。俺達の最低限の目標は達成したんだ。後はじっくりやっていこうぜ」
パルガも機嫌良く話す。
「少なくとも賞金首討伐の一番乗りは俺達だ。他の賞金首が倒されたって連絡も来ていない。次の目標を万全の状態で倒すための休憩時間だと思っておけよ。今すぐに移動したって、俺達は
仲間達の話を聞いてシカラベも機嫌を戻した。
「……。そうだな。焦りすぎたか。俺らしくもねえ」
賞金首を倒したことで気分が高揚しすぎているのかもしれない。シカラベはそう判断して落ち着こうと軽く息を吐いた。
ヤマノベが笑って話す。
「しかしタンクランチュラは強かったな。あれで8億は軽い詐欺だ。12億は欲しいところだ」
パルガも笑って話す。
「いや、14億は欲しい。久々に大変だった。それなりに死人も出てるんだ。何人死んだんだっけ?」
「5人だ。借金持ちの連中に死者が出た。内1名は逃げだそうとして監視役に撃たれたやつだけどな」
「実質4人か。まあ、賞金首戦の被害と考えれば上出来だろう」
ヤマノベとパルガは上機嫌だ。だがシカラベは僅かに浮かない顔をしている。ヤマノベがそれに気付いて尋ねる。
「どうした? しけた顔して」
「賞金。8億なんだよな」
「そうだ。確かにあの強さで賞金が8億ってのは残念だが、別に赤字ってわけじゃねえだろう。俺達に
シカラベが少し面倒そうな懸念のある表情を浮かべる。
「弾薬費が予定をかなり超えて
ヤマノベとパルガが顔を見合わせて笑う。パルガが笑って話す。
「アキラとの交渉はシカラベの仕事だ。まあ頑張りな」
賞金首を撃破したハンターチームのリーダーなのだというのに、シカラベは浮かない顔で
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