第48話 第9探索チーム

 翌日、アキラは再びクズスハラ街遺跡の地下街とつながっているビルの1階に来た。地下街にいるハンター達をまとめている本部の部屋だ。

 昨日アキラがあれだけ贅沢ぜいたくに消費した弾薬はシズカの店で補給済みだ。補給のためにシズカの店を訪れた時、CWH対物突撃銃の専用弾をあれだけ大量に買い込んだはずのアキラがすぐにまた大量の専用弾を補充に来たため、シズカをかなり心配させてしまった。

 アキラは遠距離から一方的に攻撃し続けたためだと説明してシズカを安心させた。専用弾の大量消費はむしろ安全に戦おうとした結果だ。そう説明して何とかシズカを納得させた。

 うそは言っていない。強いて言えば、そこまでしないと安全に戦えないほど危険だっただけだ。

 シズカは何かに勘付いた様子を見せたが、無理はせずに無事に帰ってくるように、とアキラに微笑ほほえんで話す以上のことはしなかった。行くな、とは言えないからだ。

 アキラが今回の依頼の本部として使用されているビルの一室に入る。すると本部の職員がすぐにアキラに気付いた。昨日アキラを14番防衛地点に配置した職員だ。

「27番、来たか。探索か討伐のどちらかを選べ」

 アキラが職員の言葉に疑問を抱く。昨日は防衛か探索のどちらかだった。選択肢から防衛がなくなっていた。

「防衛はないんですか? できれば昨日と同じ防衛を希望したいんですけど」

「駄目だ。探索か討伐のどちらかだ。お前は防衛を選べない。お前の昨日の活躍が評価された結果だ。防衛地点で案山子かかしにするのは勿体もったい無いと判断されたわけだ。良かったな。評価されたぞ?」

「……いや、あれを評価するならむしろ防衛人員として評価するべきだと思うんですけど」

「知らんな。決定したのはもっと上の人間だ。私に言っても無駄だ。諦めてどちらか選べ。……ああ、危険度はどちらも似たり寄ったりだ。大して違いはない」

 アキラが悩む。未知の場所を警戒しながら進むのが嫌なら討伐チームの方が良い。確実に大量のヤラタサソリがいるヤラタサソリの巣に突入するのが嫌なら探索チームの方が良い。

 放っておくといつまでも悩み続けそうなアキラに、アルファが判断材料を付け加える。

『探索チームなら索敵次第では戦闘を回避できるわ。ただし予期しない戦闘を強いられるかもしれないわね。討伐チームなら十分な戦力をそろえて交戦するはずよ。ただし戦闘は確実にあるでしょうね。そのための討伐チームなのだから。昨日のような戦闘に多人数で安定して対応したいのなら、討伐チームの方が良いかもしれないわね』

 アキラが答えを出して職員に告げる。

「探索でお願いします」

「分かった。……良し。設定した。端末の指示に従って19番防衛地点に行き、その場の指示に従え」

「分かりました」

 アキラが19番防衛地点へ移動を始める。立ち去るアキラを職員が微妙な表情で見ていた。

 職員が手元の端末に表示されているアキラの情報を見ながらつぶやく。

「……推薦人、キバヤシ。弾薬費保証条件許可者、キバヤシ。配置監督員、キバヤシ。……これは絶対あのキバヤシだろう。つまりあのガキをここに送り込んだのはあのキバヤシということだ。あの無謀好きに好かれるとは、あのガキも運が良いのか悪いのか……」

 キバヤシはハンターオフィスの職員とクガマヤマ都市の職員を兼任している人物だ。そして今回の地下街関連の依頼にも口を挟める権限の持ち主だ。以前アキラと縁があったキバヤシには、そこそこ知られている悪評が存在していた。

 駆け抜けて生き、駆け抜けて死ね。キバヤシは他者のその生き様を好み、ハンター稼業はその生き様を輝かせるものだと考えている。そしてその悪評とは気に入ったハンターに対して積極的に行っているその生き様の手助けだ。

 実力はあるが機会に恵まれずくすぶっている。だから現状から抜け出す一発逆転の機会が欲しい。キバヤシはそのようなハンターを見つけては、ハイリスクハイリターンの機会を嬉々ききとして提供するのだ。大勝か大敗。そのどちらかしか得られない魅力的で無謀なチャンスを。

 そしてキバヤシからその機会を得たハンターは一部の例外を除いて死亡するのだ。じっくり成長すればいずれ大成するであろう才能にあふれたハンターも、栄華をつかんで駆け抜けて生き、更なる栄華を求めて駆け抜けて死ぬのだ。

「賭ける機会があることを喜ぶべきなのか。その機会さえなければ死なずに済んだと嘆くべきなのか。あのガキはどちらになるのか。賭け事などというものは、賭け続けるほど負けやすくなるものだがな」

 職員は僅かに哀れむような表情でそうつぶやいた。


 アルファが地下街を移動中のアキラに尋ねる。

『アキラ。どうして探索チームを選んだのか聞いても良いかしら。昨日のような予想外の戦闘を避けるのなら討伐チームの方が良いと思うわよ?』

『その代わり、CWH対物突撃銃の専用弾を大量に消費する。できれば消費を抑えたい。それに討伐チームに参加して、また何かあって、下手にそれを評価されたら、CWH対物突撃銃の専用弾を使用しないと真面まともに戦えないモンスターとずっと戦うことになるかもしれないだろう。それは嫌だぞ』

 そう答えたアキラをアルファがじっと見詰める。

 アキラがどことなく言い訳するように答える。

『なんだよ。確かに討伐チームに参加した方が戦闘経験をたくさん積めるかもしれないけど、それで死んだら元も子もないだろう』

『高価な専用弾をシズカの店で大量に購入すればシズカの店の売上げに貢献できる。でも大量に購入した分だけシズカを心配させる。後者を優先させたわね?』

 アキラは黙って答えなかった。アルファが続ける。

『別にその選択を責める気はないわ。でも私としては、アキラが確かな実力を身につけて、より良い装備を手に入れて、ヤラタサソリの群れ程度軽く蹴散らせるようになることで、心配する必要など全くない存在になることをお勧めするわ』

『……。そうだな』

 アキラが少し無愛想に短く答えた。


 アキラが19番防衛地点に到着した。19番防衛地点は地下街の大広間に設置されていた。周辺の未調査部分を制圧するための簡易拠点だ。

 19番防衛地点には重要な拠点を防衛するために多数のハンターが配備されている。また探索チームや討伐チームの休憩場所にもなっている。そのため場はかなりにぎやかだ。

 広間の中央にはこの場を指揮している都市の武装職員達がいた。アキラが端末の指示に従ってそこに行くと、管理者らしき職員がすぐにアキラに気付いて声を掛けてくる。

「27番だな。お前が合流する探索チームは、今は地下街を探索中だ。戻ってくるまで適当に待っていてくれ。この広場から出なければ好きにして良い。暇なら警備でもしていてくれ。ついでにヤラタサソリがいたら駆除してくれ」

「了解」

 アキラは適当にいている場所を探して立ち去った。

 職員が探索チームに連絡を入れる。

「こちら19番防衛地点。第9探索チーム。応答しろ」

 職員の端末から女性の声がする。

「こちら第9探索チームよ。定期連絡には早すぎるわね。何かあったの?」

「そちらが希望していた追加要員が到着した。必要なら一度戻ってきて合流してくれ」

 端末から男性の声で追加要員に対する要望が加わる。

「使えるやつなんだろうな? 索敵要員は足りてるんだ。必要なのは火力だぞ?」

り好みするな。まあ、昨日相当数のヤラタサソリを倒したやつだ。大丈夫だろう。嫌なら前のやつらを連れていけ。お前が嫌がったから別の要員を手配したんだろうが」

 先ほどの男性が嫌みっぽく答える。

「連中を連れていくぐらいなら、いない方がましだね」

 先ほどの女性が職員に話す。

「取りあえず一度戻るわ。収集データ受渡しの用意をしておいて。以上よ」

 職員と第9探索チームとの通信が切れる。職員が部下に指示を出す。

「第9探索チームが戻ってくる。本部へ取得データの送信準備をしておけ。以前のデータ変換が終わっていなくても、データの受信だけはするように言っとけ」

「了解しました」

 職員の部下が敬礼して準備のために離れていく。職員が手元の端末を見ながらつぶやく。

「……まあ、大丈夫だろう。こいつの昨日の戦歴は確かなんだ」

 職員の端末にはアキラの情報が表示されていた。職員の表情を僅かに険しくさせたのは、そこに記載されているキバヤシの名前だった。

 アキラが余り強そうには見えなかったこと。そしてそのアキラを今回の依頼に推薦したのが、ハンターに無謀な試みを勧めるキバヤシであること。それらがアキラの実力を大いに疑わせたが、職員はアキラの昨日の戦歴を信じることにした。


 アキラが防衛地点の周囲を確認している。

 アキラがここまで来た方向の通路は強い照明で照らされている。それ以外の方向は真っ暗だ。光源のない地下街の闇がどこまでも続いている。単純に設置する照明が足りていないのか、調査とヤラタサソリの駆除が済んでいないのでえて照明を設置していないのかは分からなかった。

 アキラが周囲にいるハンター達を見ていると、警備や休憩をしているハンター達の中に知った顔が混ざっていることに気付いた。カツヤ達だ。

『あいつらもここに配備されたのか』

『そうみたいね。分かった以上、彼らからもっと離れましょう』

『理由は?』

『アキラに近づけるとめ事になるから』

『……了解』

 アルファの言葉を否定できないアキラは、忠告に従ってカツヤ達とは反対側に移動した。そしてそのまましばらく周囲の警備を続けていた。

 このまま何事もなく依頼の最低経過時間が過ぎないものか。アキラが都合の良いことを考えていると、背後からアキラを呼ぶ声がする。

「アキラ」

 アキラが声の方に振り向くと、サラがアキラの方に近づきながら笑って軽く手を振っていた。

 アキラがサラの所まで行って軽く会釈する。

「サラさん達もこの依頼を受けていたんですか?」

「そうよ。厳密には仮設基地周辺の警備を請け負っていたのだけど、急遽きゅうきょ地下街の方に回されたのよ。それにしても追加要員がアキラだったとはね。ちょっと驚いたわ」

「俺ですか? ということは、俺が参加する探索チームって……」

「そういうこと。私とエレナがいるチームよ。リーダーはエレナ。こっちに来て」

 アキラはサラに連れられて大広間の中央に行く。そこには都市の職員達の他にエレナの姿があった。エレナもすぐにアキラに気づき、近付いてくるアキラに軽く手を振った。

「第9探索チームにようこそ。私がチームリーダーのエレナよ」

「アキラと申します。本日はよろしくお願いします」

 エレナが冗談っぽく言い、アキラもわざと恭しく答えた。そして2人で軽く吹き出した。

「でも追加要員がアキラだとは思わなかったわ。できる限りフォローはするつもりだけど、結構危険だから注意してね。未調査部分の調査だから、当たり前だけどモンスターの分布とかも正確には分かっていないのよ。何がいても不思議じゃない。そういう心構えで、十分注意してね」

「分かりました。エレナさん達の足を引っ張らないように十分注意します」

よろしい。良い心がけね。……危ない時は無理せず頼ってちょうだい。アキラに何かあったらシズカも悲しむわ」

「はい。その時はお願いします」

 エレナがアキラの返事に満足して微笑ほほえむ。アキラには下手な気負いも緊張も見られなく平然としている。これなら大丈夫だろう。エレナはそう判断した。

 エレナは探索中に収集したデータの受渡し作業を進めていた。情報端末を介して都市の職員達にデータを転送しているのだ。

 データは都市から配布された端末が収集したものもあるが、ほとんどはエレナが装備している情報収集機器で収集したものだ。

 エレナが彼女の情報収集機器で取得したデータの精度は、都市の端末で収集したデータとは段違いに精密だ。ただしエレナのデータは都市の端末とデータ形式が異なるため、都市側がエレナのデータを使用するためにはデータを変換しなければならない。本来ならデータ変換の手間を省くために規格の異なるデータを使用することはない。

 しかしエレナが彼女の機材で収集したデータは、その有用性から特別にデータ変換の手間を掛けてまで別枠で使用されていた。

 エレナから軽く説明を受けたアキラが素直な感想をエレナに話す。

「そんな特別扱いをされるデータなんですか。やっぱりエレナさんはすごいんですね」

 アキラに素直に称賛されてエレナが少々照れた様子を見せる。エレナも褒められて悪い気はしない。エレナが少し自慢げにアキラに語る。

「分かってもらえてうれしいわ。情報収集の重要性を分かっていないハンターも多いのよ? 索敵をおろそかにしてモンスターと遭遇しても倒せば良いだけだ。遺跡の内部が少し複雑でも俺は迷ったりしないし、迷ってもすぐに脱出できる。その程度の浅い考えで遺跡に入るハンターは結構多いのよ」

 アキラが少し意外そうに話す。

「そうなんですか? 俺ならモンスターとの戦闘はできる限り避けたいですし、遺跡の中で迷うのも御免です。エレナさんの仕事を軽視するなんて、俺にはちょっと信じられませんが……」

 優秀なハンターの基準は人それぞれだが、強力なモンスターを容易たやすく撃破する戦闘能力の評価を優先する者は多い。確かにハンター稼業を続ける上で戦闘能力は重要であり、他者に自分の活躍を吹聴ふいちょうする時にも分かりやすいからだ。

 それは時に直接的な火力要員ではないハンターを軽視する思考を招く場合がある。エレナも過去に何度も経験があり、いろいろと嫌な思いをしてきたのだ。

 クズスハラ街遺跡で遺物を探していた頃のアキラは、アルファの索敵と地理の把握だけで生き残ったようなものだ。そのためアキラはエレナの仕事の重要性をよく理解していた。

 エレナはアキラが本心で自分の仕事の役割を、重要性を認めていることを感じ取り、内心かなり喜んでいた。エレナが機嫌を更に少し良くして話す。

「それが意外に多いのよ。そしてそういうやつに限って、モンスターと遭遇して交戦して、交戦音で別のモンスターをおびき寄せて、弾薬を山ほど消費して弱気になって逃げ出して、慌てて逃げたから遺跡で迷って、遺物を探す時間も予備の弾薬も無駄に消費した挙げ句、お前がちゃんと索敵と遺跡の構造調査をしないからだって言い出すのよ? 良い迷惑だわ」

 エレナはこのまま愚痴を続けてしまいそうな自分に気付く。アキラに愚痴を言い続けても聞いている方は楽しくないだろう。そう考えて気を取り直して話の方向を少し変える。

「一応言っておくけど、確かに私達の火力要員はサラだけど、私だってそれなりに戦えるのよ? 情報収集機器は照準精度の向上とかにも役に立つわ。それにこの前から私も強化服を着用しているから、結構重量のある装備も余裕を持って扱えるようになったわ。私が情報収集要員だからって、火力に不安があるとは思ってほしくないわ」

「そういえば、エレナさんはこの前から強化服を着用するようになったって……」

「情報収集機器の重量があるから、サラの装備品よりは軽い銃になるけど、それでも十分威力が……」

 話にエレナの強化服が出てきた時、アキラは以前にシズカの店で見たエレナの姿を思い出してしまった。

 強化服を着用したエレナの姿だ。肌に密着して魅力的な体の線を強く浮かび上がらせる強化服を着用していたエレナの姿だ。蠱惑こわく的な装いの強化服を着て、頬を染めながら慌てていたエレナの姿だ。

 更にアキラはそれに付随することも思い出してしまった。アルファの高度な演算能力が生み出した非常に再現率の高いエレナの全裸の姿だ。そしてそのエレナと一緒に表示されていたサラの全裸の姿だ。2人とも非常に魅力的な姿だったため、アキラの脳裏にはその時の記憶が強く残っていたのだ。

 不味まずい、と思った時には既にアキラの脳裏にその光景が浮かんでいた。アキラは慌ててその光景を頭から振り払ったが、それを思い出したことによる動揺までは完全に振り払うことはできなかった。

 エレナは話題とアキラの態度から、アキラが以前に見せた自分の格好を思い出してしまったことにすぐに気付いた。平静を保とうとしているアキラの態度を見て、エレナも平静を保とうとする。しかしエレナも動揺を完全に消すことはできなかった。

 アキラとエレナが会話を止めて、お互いに誤魔化ごまかすように軽く笑っている。その2人を見てサラが楽しげに笑っていた。サラはシズカから話を聞いて2人の事情を知っていたからだ。珍しい態度を見せる親友の姿を、サラは悪いとは思いながら楽しげに見ていた。

 アキラの脳裏にサラの全裸の姿まで浮かんでいたとは、流石さすがにサラも分からなかった。

 アキラが場の空気を変えるために少し強引に話題を変える。

「そういえば、エレナさん達の探索チームは何人ぐらいになるんですか?」

 エレナがアキラの誘いに乗って、気を切り替えて答える。

「アキラを含めて4人よ」

「4人? えっと、俺の感覚では少ない気がしますけど、それぐらいの人数が普通なんでしょうか? もう少し多くても良い気がしますけど」

 昨日のアキラはレイナ達と一緒にたった3人でヤラタサソリの群れと交戦する羽目になった。アキラとしてはギリギリの状況を何とか生き残った感覚だ。

 地下街の未調査部分にはそのヤラタサソリの巣が存在しているのだ。調査が主任務の探索チームとはいえ、アキラには4名は少ない気がした。勿論もちろんエレナ達の実力ならば全く問題ない可能性もある。しかし説明なしに納得できる人数ではない。

 エレナとサラがアキラの質問を聞いて僅かに眉をしかめて顔を見合わせる。余り愉快な話題ではないようだ。

 サラがアキラの質問に答える。

「本当はもう少し多めの人数で探索する予定だったのよ。ただ、ちょっとあってね」

「何かあったんですか?」

 聞き返すアキラにエレナが答える。

「人員の相性で、ちょっと問題があったのよ。よくある話とも言えるけど、事前の調整ぐらいは済ませておいてほしかったわ」

 アキラが2人の表情を見る。アキラには問題に対するサラとエレナの態度が少々異なっているように見えた。問題視している箇所は、サラは個人に対して、エレナは集団に対してのようだ。

 探索チームの最後の1人が話に加わってくる。

「悪かったな。人員調整の問題は、俺からも強く言っておくよ」

 探索チームの最後の1人はシカラベだ。カツヤ達と同じドランカム所属のハンターで、以前はカツヤ達の監督役をしていたハンターである。ただしシカラベは既にその役目を降りており、カツヤ達とは別行動を取っていた。

 シカラベがアキラに話す。

「俺はシカラベだ。第9探索チームの一人だ。お前が追加要員のハンターだな?」

「アキラと言います。今日はよろしくお願いします」

 シカラベがアキラを値踏みするように見る。

「追加要員は歓迎するが、足手まといが増えても困る。大丈夫なのか?」

 どことなく挑発気味に話すシカラベに、アキラが平然と答える。

「俺を使い物にならないと判断した場合の文句は、俺ではなく本部に言ってくれ。俺をここに派遣したのは本部だからな。本部にたっぷり文句を言って、新しい替えの要員の実力に期待してくれ」

 あからさまにアキラの実力不足を懸念するシカラベの問いに、アキラは自分を送った人間が悪いと答えた。

 そもそもアキラは防衛チームの方が良かったのだ。アキラには実力不足のハンターを探索チームに派遣した人間の文句まで聞くつもりはなかった。

 アキラの返事はシカラベの予想とは正反対のものだった。自身の実力を自信満々に話す。又は自身の能力を疑われたことに対して不満を言う。シカラベはそんな内容を予想していた。

 しかしアキラの態度からシカラベがアキラの能力を低く見積もったことに対する不満は一切見られない。シカラベはそのことに少し驚いた。

 シカラベはその驚きを隠しながら、どこかアキラを見下した感じを出しながら尋ねる。

「随分弱気な発言じゃねえか。そんなに自分の実力に自信がないのか?」

 アキラが平然と答える。

「そっちがどの程度の実力を期待しているかは知らないが、少なくとも、俺が必ず何とかするとか、俺がいれば大丈夫だとか、俺は自分がそんなことを口にできるような実力ではないことぐらい把握している。そう言う意味だと、自信はないな」

 シカラベはアキラの返事を聞いて軽く吹き出した。そして少し機嫌良く話す。

「いや、悪かった。何の根拠もない自信にあふれた馬鹿どもの相手をすることが多くてな。少なくともそんな馬鹿じゃないことは確かなようで安心だ。それなら大丈夫だろう。本部も実力が不確かなやつをここに送るほど間抜けじゃないだろうしな」

 シカラベはそう言って軽い愚痴と一緒にアキラに謝罪した。

「俺の方の準備はもう済んでる。出発するならいつでも言ってくれ」

 エレナが自分の情報端末でデータ転送の残り時間を確認する。エレナの情報端末にはデータ転送の状況が表示されている。全データの送信完了までの予測時間もそこに表示されていた。

「データの受渡しが済み次第出発するわ。あと5分ぐらいよ。アキラもそれで良い?」

「大丈夫です。今すぐでも構いません。……ん?」

 アルファが指を差している。アキラがそれに気付いてその方向を見る。そこには不満げな表情を浮かべているカツヤを先頭にして、アキラ達の方へ歩いているカツヤ達がいた。

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