第45話 専用弾の威力

 レイナ達とめた後、アキラはそのままぐに調査を再開した。また一人での調査に戻ると思っていたのだが、予想に反してレイナ達は14番防衛地点に戻らなかった。

 レイナはひどく落ち込んでいるが、索敵などは手落ちなく行っている。むしろ雑念がないためか、める前より手際が良い。シオリはそのレイナの様子を見て痛ましそうにしていた。

 アキラはその背後の空気を感じ取り、僅かな居心地の悪さを覚えていた。

『今更だけどさ、御機嫌取りも依頼の内って考えて、適当なことを言っておけば良かったかな?』

 あのめ事は依頼に対してアキラなりに誠実に対応しようとした結果でもあった。だがその結果がこれだ。依頼の本質がレイナのサポートである以上、あの対応はむしろ非誠実だったのではないか。アキラもその程度の感想は覚えていた。

 アルファが苦笑気味に微笑ほほえむ。

め事の回避を第一に考えるのならそうなるわ。少なくとも、もう少し穏便な伝え方を模索した方が良かったのは確かで、そこはアキラの不手際ね』

『まあ、そうなんだけどさ……』

『でも、依頼に対して誠実であろうとする精神はそれ以上に大切よ。私もアキラに依頼を出している者として、アキラの態度でそれを確認できたのはうれしかったわ。彼女もあれで今後は下手に絡むのを自重するかもしれないわ。そういう意味では、正しい対応だったのかもしれないわ。だから、無駄に気に病む必要はないと思うわよ?』

 死にたくなければへつらい身ぐるみ置いて命乞いをしろ。アキラはそれがまかり通るスラム街で、程度の差はあれどへつらがわで過ごしてきた。ハンターを目指したのは、力を得てその境遇から抜け出すためでもあった。

 そしてアキラはハンターとなった。少しは力を得て、かつての境遇にあらがうのもある程度は可能になった。

 だからこそ、かつての時と同じ対応を無意識に強く拒絶した。また同じことをしてしまえば、かつての境遇に戻ってしまう。その恐れを心のどこかで抱いていたからだ。それこそ、命を賭けるほどに。

 アキラにその自覚はない。その所為で、自分でも自分の対応に悩んでいた。

 そしてアルファはそこに付け込むために、優しく力強く微笑ほほえんでいた。


 地下街の通路にヤラタサソリの死体が転がっている。胴体に銃撃を受けており、足も数本千切れている。傷口から流れ出た体液が床に線状の跡を残していた。

 アキラがその死体と地下街マップを見比べる。

『線の跡の方向から考えて、15番防衛地点を襲った群れの1匹か? 負傷した状態で巣に戻ろうとしてここで死んだのだとしたら、他にも戻ろうとした個体がいたかもしれない。その跡でもあれば移動先を追えるんだけど……。アルファ。近くで他のヤラタサソリは見付かりそうか?』

『私の索敵範囲には死体も生きている個体も見当たらないわ』

『そうか。……ヤラタサソリの死体を見付けましたってだけで調査終了って訳にはいかないし、もうちょっと探すしかないか』

『普通なら見付けにくい痕跡でも、私が探せば見付かるわ。ただ、その痕跡が非常に見付けにくいものだったら、どうやって見付けたのか不思議に思われるかもしれないけれどね。その辺を聞かれたら、適当に辻褄つじつまを合わせる必要が出るかもしれないわ。どうする? 探してみる?』

 アキラが少し考えてから答える。

『……そうだな。頼む。いろいろあったんだ。早く何か見付けて、さっさと調査を切り上げたい。何か聞かれたら、勘や偶然とでも言って誤魔化ごまかそう』

『適当にって言ったのは私だけれど、本当に随分適当ね』

『良いんだよ。そもそも俺はアルファのサポートに頼った状態の成果を評価されてここにいるんだ。その辺の説明できない根拠を聞かれたら、初めから勘や偶然としか答えられないんだ。今更だ』

 アキラはもうその辺は開き直ることにした。その様子を見てアルファが少し楽しげに笑う。

『分かったわ。見付けたわよ』

『早いな!』

『まあ、それぐらいはね』

 驚きの表情を向けてきたアキラに、アルファは得意げに微笑ほほえみ返すと、15番防衛地とは別方向の通路を指差した。同時にアキラの視界が拡張され、普通は認識できない僅かな痕跡が強調表示された。更にそれを基にした移動ルートも床に追加表示された。

 アキラが新たな移動ルートに沿って歩き始める。レイナ達は今まで15番防衛地点に向けて進んでいたアキラが急に移動方向を変えたことに少し怪訝けげんそうにしていた。だがレイナは先ほどの落ち込みから回復していない所為で、シオリはアキラに下手に声を掛けるのを躊躇ためらった所為で、その理由を尋ねるようなことはせず、黙ってアキラの後に続いた。

 進行方向を変えた後の通路の様子も今までと一見差異はない。だがアルファの解析を通すと様々な痕跡が浮かび上がる。硬い床を引っいた僅かな傷。店舗の廃墟はいきょ内の散乱物を強引に押し退けた隙間。周辺に僅かに飛び散っている体液。それらを総合すると、大量のヤラタサソリが通過した痕跡がはっきりと姿を現した。

 アルファのサポートのおかげでそれが見えているアキラは、無意識にそれを見た上での動きをしてしまっていた。シオリがそれに気付き、明確な目的地を目指して、あるいは具体的な指針に沿って移動しているアキラの行動を怪訝けげんに思い始めていた。そして流石さすがにアキラにそれを尋ねるべきかと思い始めた時、先行していたアキラが足を止めた。そこには、通路の途中に大穴が開いていた。

 穴はかなりの大きさで、数人が横に並んでも幅に余裕がある。照明などは設置されておらず、奥は暗くてよく見えない。そして一番の問題は、その穴が地下街マップに記載されていないことだ。

 アキラが穴の先を照らすと、20メートルほど土の地面が続いた先に人工の床が見えた。明らかに地下街の別の場所に通じている。しかしその先も地下街マップに記載はなかった。

 アキラが本部と連絡を取る。

「こちら27番。本部。応答を求む」

「こちら本部。何があった?」

「通路に地下街マップに存在しない穴を見付けた。多分地下街の他の部分につながっている。15番防衛地点を襲ったヤラタサソリの発生元かもしれない」

「ちょっと待ってろ。……貸出し端末のカメラを穴に向けてくれ」

 アキラが指示通りに端末のカメラを穴に向けると、映像情報を含めた多数の情報が本部に送信された。

「……こちらでも確認した。穴の先はこちらでも把握していない別のエリアだ。その先にもヤラタサソリの巣が多数存在するのだろう」

「ヤラタサソリの巣って、そんなにたくさんあるのか?」

「ある。この地下街にはヤラタサソリの繁殖場所が無数にある。今のところ17か所の巣を駆除済みだ。まだまだ残っているだろう。この地下街全体がヤラタサソリの巣と言っても良い」

 アキラが前にヤラタサソリの群れに襲われた時のビル内の光景を思い出し、それを地下街の光景と重ね合わせて顔をしかめる。

「……そうか。取りあえず、俺が受けた調査指示は完了だな。これより14番防衛地点に帰還する」

「駄目だ。その先に新たな防衛地点を設置しなければならない。その場で待機して追加要員の到着を待て。それまではその場で新たなモンスターの侵入を阻止しろ」

「ちょっと待ってくれ。俺達だけでか? 流石さすがにそれは……」

「待たない。27番だけで調査に出たんだ。それだけ実力に自信が有るのだろう。更に既に2名追加されている。しかも追加の1名は14番防衛地点に配備されたハンターの中でも上位の実力者だ。戦力的には十分だと判断した。一時的な場の確保も防衛チームの仕事だ。やれ」

「……27番、了解」

 先ほどその追加人員と殺し合い手前までめたばかりだ、とは流石さすがに報告できず、アキラは仕方なく本部の要求を受け入れた。


 一定の間隔で設置されている簡易照明が通路を照らしている。十分な光量ではないが、地下街の本来の闇と比べれば十分なほど明るい。壁の大穴の先はその本来の闇が続いている。

 周囲を照らす光はその場所の危険性をそのまま示している。一応は制圧済みの場所と、全くの未調査の場所。モンスターとの遭遇率には雲泥の差がある。

 アキラはその境目、壁にいた大穴の前に座り、視線を穴の奥に向けていた。本当なら穴の中は真っ暗だ。だがアルファのサポートで拡張されたアキラの視界には、白黒ではあるが一定の距離までその形状が映し出されていた。

『便利だな。これ、ヒガラカ住宅街遺跡の地下室でもやったやつだよな?』

『そうよ。何にも見えないよりはましでしょう?』

『随分違う。これならヤラタサソリ達が奥から来ても早めに気付けるか?』

『その時はアキラが目視で確認する前に、私がちゃんと教えるから大丈夫よ。安心して』

『頼んだ』

 そのままアキラはアルファと雑談したり勉強を教えてもらったりしながら、この場の本格的な確保要員の到着を待っていた。


 レイナ達はアキラの後方、通路を挟んで反対側の位置に立ち、通路の左右を見張っていた。ヤラタサソリ達が壁の穴から襲撃してくるとは限らない。アキラは穴を、レイナ達はそれ以外の方向を、それぞれ受け持って警戒していた。

 シオリが周囲の警戒を続けながら視線をアキラに向ける。そして先ほど殺し合う手前までいった相手の実力を、落ち着いて改めて推察する。

 レイナを敵から守るために磨いてきた他者の力量を見抜く能力。自身の忠義をもって培ったその能力は、アキラをありふれた若手ハンターだと改めて判断した。少なくともあの戦歴に見合う実力者ではない。そう結論付けた。

 だがシオリはその自身の判断に疑念を抱き、推察を深めていく。少なくともアキラの覚悟は本物だった。それはシオリも認めていた。だが殺し合えば死ぬと分かった上での、一矢報いるための、信念を貫き通すための抵抗には思えなかった。また、相手の力量も分からない未熟な上の無謀にも思えなかった。

 ではアキラはやはり戦歴相応の実力者なのか。今見せている姿は実力を隠すための高度な擬態なのか。あれは自分に勝てると判断した上での行動だったのか。シオリはそう疑い、再びアキラを見て、流石さすがにそれはないと考え直し、疑問を取り消した。

 シオリはその堂々巡りの思考に気付くと、一度推察を切り上げた。強いのか弱いのかも分からない、いろいろ辻褄つじつまの合わない人物だが、脅せば引くような者ではないことだけは確かなのだ。レイナのそばで戦えば、万が一が起こりえるかもしれない。軽率な行動は慎むべきだ。そう結論付けた。

(無意識に彼の実力を軽んじて、私が威圧すれば引くだろうと判断してしまったのは失態でした。お嬢様が止めなければどうなっていたか。猛省しないといけませんね)

 シオリは今一度自身の忠義に誓い直した。そしてアキラへの、得体の知れない存在への警戒を強めた。

 ひどく落ち込んでいたレイナだったが、ある程度時間がったことやシオリの気遣いもあり、少しずつ落ち着きを取り戻していた。立地的に奇襲を受ける可能性も低く、頼りになる者もそばにいる。場は静かで、適度な明かりもあり、気を静めやすい環境だ。その落ち着いた心が生んだ余裕は、レイナに今までの流れを思い出させていた。

(……めた結果をちゃんと想定していたのか。殺し合いまで想定して喧嘩けんかを売っていたのか。……答えられなかったな)

 その想定の一例は先ほど見たばかりだ。シオリとアキラが臨戦態勢を取り、どちらかが後僅かでも踏み込めば殺し合っていた光景だ。ミマタ達に食って掛かった時に相手が嘲笑で済ませていなければ、似たような結末を、あるいは更にひどい結果を招いていても不思議はなかった。

(無用なめ事を無意味に増やしそうな人なんてただでも雇いたくない……か。当然と言えば当然よね)

 レイナが冷静に今までの自分の行動を振り返る。自分が誰かとめたのは今回に限った話ではない。危ない事態は幾らでもあったはずだ。今までそうとは知らずに地雷原を駆け抜けていたのかもしれない。

 今までは穏便に済んでいた。だが穏便に済まないこともある。自身の意見を通し相手を引かせる為に互いに踏み込み合って、その限界を見誤ることはある。その結末を誰も望んでいなかったとしても。

 恐らくシオリは自分が地雷を踏まずに済むように手を尽くしてくれていた。だが今日は、そのシオリが地雷を踏みかけた。辛うじて防げたが、もしアキラという地雷を完全に踏んでいたらどうなっていたか。レイナはその先を思い描き、自嘲した。

 シオリがレイナの様子に気付いて優しく声を掛ける。

「……お嬢様。もう余り気になさらぬ方が良いと思います。気を切り替えることも大切です。それにあれはアキラ様を無駄に挑発してしまった私の失態でもあります。お互いに、この経験を次にかしましょう」

 あの挑発は自分の代わりに怒ってくれたようなものでもある。レイナはそう思い、それをうれしく思いながらも、申し訳なくなった。

「……そういえば、最近ちゃんと礼も言っていない気がするわ。今まで何度も迷惑をかけたわね。御免なさい。助けてくれてありがとう。これからも何度も迷惑をかけると思うわ。これからも頼っても良い?」

「……も、勿論もちろんです! お任せください!」

 シオリは感動で一瞬意識を飛ばしそうになったが、気合で耐えた。緩む涙腺を何とか持ちこたえさせる。ここは戦場なのだ。視界がゆがんではまともに戦えないのだ。

「ありがとう。シオリ。これからもよろしくね」

 レイナは幾分元気を取り戻すと、シオリを安心させるために少し無理をして微笑ほほえんだ。


 アキラは情報収集機器で周囲を警戒しながら、背後のレイナ達の様子も一緒にうかがっていた。派手にめた自覚はある。後ろから撃たれるのは御免だった。

『……あいつらは何をやってるんだ?』

 怪訝けげんそうな顔でそうつぶやいたアキラに、アルファが微笑ほほえんで答える。

『友好を深めているのだと思うわ』

『いや、そういうことじゃなくてさ。……まあ、いいか』

 自分に危害を加えないのなら何をしていても別にかまわない。アキラはそう考えて背後の出来事への興味を失うと、それ以上レイナ達を気にするのを止めた。

 そのアキラの様子を、アルファがいつもの微笑ほほえみを浮かべながら見ていた。いつも通りにアキラを観察し、推察し、その行動原理へ理解を深めていた。

 高度な演算能力で生成された理想を詰め込んだ計算された美貌。そこに浮かぶ制御済みの微笑ほほえみが、その裏にある真意を映し出すことはない。


 傍目はためには静寂を保っている大穴。その奥に視線を向けていたアキラの表情が険しくなる。そのまま立ち上がり、開いたリュックサックを蹴飛ばして中身の弾薬を床に散乱させる。そしてCWH対物突撃銃を穴の奥に向けて構えた。

 その様子に気付いたレイナ達が警戒を強めながらアキラのそばまで来る。そして敵襲を予想して穴の奥の様子を確認したが、それらしい様子があるようには見えなかった。

 レイナは情報収集機器にもそれらしい反応がないことを確認すると、怪訝けげんそうな顔をアキラに向けた。

「……そっちの索敵に何か引っかかったの?」

「こっちは俺が引き受ける。そっちは通路側を警戒してくれ」

 アキラは既に迎撃の準備を終えている。後は引き金を引くだけの状態だ。

『アルファ。何体だ?』

『索敵範囲内に124匹。増加中よ。15番防衛地点を襲ったヤラタサソリは、ただの斥候だったのかもしれないわね』

『……何か、俺はこういうのばっかりだな』

 アキラが少しうんざりした様子を見せると、アルファが少し楽しげに笑った。

『まあ、アキラの運ならこんなものでしょう。いつも通りってことで、落ち着いて対処しましょう』

 アキラが苦笑する。

『そうだな。それじゃあ、今日もその不運に負けないサポートを頼む。俺に残っていた幸運を使い切った分、ちゃんとサポートしてくれるんだろう?』

『任せなさい』

 アルファはアキラの横に立ち、得意げに笑った。

 シオリは単なる警戒ではなく明確な迎撃態勢を取っているアキラの態度から、一応念を入れる事にした。アキラの横で銃を構え、情報収集機器の精度向上効果もある小型の照明弾を穴の奥へ向けて複数発射する。一定間隔で着弾した照明弾が着弾地点を強く照らして闇を払い、手前の土や奥の人工物の床をあらわにする。しかしそこに敵の姿はない。情報収集機器を再度確認しても、やはりそれらしい反応はない。

「……気のせいでは?」

 アキラはシオリの問い掛けを無視した。レイナ達がアキラへの疑いを更に強めていく。

 その時、穴の奥が再び闇に覆われて目視可能な範囲が縮まった。一番奥に着弾した照明弾の光がなくなったのだ。照明弾は最短でも15分は持つもので、自然に消えるには早すぎる。レイナ達がその異変に気付いた後も、照明弾の光は奥の方から次々と消えていき、地下街を闇で塗りつぶしていく。

 その様子にレイナ達もようやく意識を戦闘に切り替える。穴の奥からは大量の何かが近付いてくる音が響き始め、段々と大きくなっている。光源を遮った大量の遮蔽物がアキラ達に向けて殺到してきている。それは情報収集機器の反応など確認するまでもなく明らかだった。

 アルファがいつも通りの微笑ほほえみで合図を出す。

『来るわよ。5、4、3、2、1』

 同時に、照明弾の光が全てき消えた。

『ゼロ』

 アキラがCWH対物突撃銃の引き金を引く。銃口から発火炎マズルフラッシュが飛び散り、その閃光せんこうが穴の闇を一瞬だけ剥ぎ取った。闇から現れたものは、場を埋め尽くすヤラタサソリの群れだった。

 発射された弾丸は群れの先頭の個体に着弾すると、その凶悪な破壊力で目標の体を一撃で四散させた。更に後続のヤラタサソリ達まで貫きながら吹き飛ばし、たった1発で十数匹分の個体の肉片を通路に飛び散らした。

 使用した弾丸はCWH対物突撃銃の専用弾だ。本来はヤラタサソリ程度の相手に使用するものではない。価格も威力も高すぎる。だがアキラはその使用を躊躇ためらわなかった。弾薬費が依頼元持ちだからという理由もあるが、たとえ自腹であっても使用を躊躇ためらえる状況ではなかった。

すごい威力だ! 流石さすが専用弾! 高いだけはあるな!』

『有効射程も長くて助かるわ。距離を詰められる前に可能な限り殺しておくわよ』

『了解だ!』

 銃撃のたびにアキラの体が僅かに後方へ滑っていく。専用弾の反動はその綿密な設計と高度な技術により弾丸の威力から考えれば十分に小さい。それでも生身ならそのまま通路の逆側の壁まで吹き飛ばされてしまいそうな程に大きい。それを強化服の身体能力とアルファのサポートによる姿勢制御で押さえ込み、銃撃体勢を維持して銃撃を続行する。

 大量のヤラタサソリが次々に撃ち出される専用弾を浴びて紙屑かみくずのように粉砕されていく。アキラはその威力に驚きながらも、自分が優勢とは思えずに険しい表情を浮かべていた。

 ヤラタサソリ達は粉砕されて飛び散った同種の肉片を浴びながらも、欠片かけらひるまずに進軍を続ける。後続の個体が仲間の死骸を踏み潰していく。負傷して動けないだけの個体も同様に踏み潰されていく。撤退する様子など微塵みじんも感じられない。

『……しかしこいつらにはひるむとか、そういう概念はないのか!? 一応生物だろう!?』

『多分ないわね』

『15番防衛地点を襲ったやつは帰ったじゃないか!』

『それは恐らく敵の戦力や位置情報を伝えるために戻ろうとしただけよ。別にひるんで逃げた訳ではないと思うわ。斥候役だったのかもしれないわ』

『……これが本隊?』

『その可能性は、あるわ』

『そうだとしたら、ついてないにも程があるぞ!』

『ぼやいていないで撃ちなさい。どんどん来るわよ』

『くそっ!』

 アキラは必死に銃撃し続けていた。専用弾の過剰な威力や地の利に恵まれたこともあり、穴の奥から続々と湧き続けるヤラタサソリを一方的に粉砕し続けていた。空になった弾倉を交換している間に、ヤラタサソリの群れに大きく距離を詰められる。交換後に慌てて銃撃を再開し、敵の戦線を大きく後退させて、再度弾倉を空にする。それを繰り返し、場を一人で押さえていた。

 レイナ達はアキラの指示通り通路側の警戒を受け持ち、別方向からの敵増援や奇襲に備えていた。勿論もちろんアキラに助けを求められたらすぐに加勢するつもりだった。だがアキラからその要請はなく、少々必死な様子を見せてはいるが一人で敵を押し切っている。

 あの戦歴は、実力は、真実だった。そう示すようなアキラの奮闘を見て、レイナ達は半ば呆気あっけに取られていた。

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