第59話 次こそは

 ナビちゃんが取り出していく物を、僕達はジッと眺めていく。


「さぁ皆様前回同様お好きな物を選んで下さい」


 ナビちゃんは、並べられた品々を前に両手を広げる。

 テーブルの上にはサイコロ、箱、ダーツの矢が置かれている。


「前回はえらい目にあったしな」


「まさかのギフトセットだもんな」


「いや、僕なんて辞典だよ?」


 みんな、前回引き当てた物を思い出している様だ。

 武さんは洗剤の詰合せ、ひなぞーはシャンプーセット。僕に至っては漢和辞典だもんなぁ。

 まぁ洗剤もシャンプーも辞書も大いに役立っているだけに、面と向かって文句を言えないのが辛いところか。


「順番は、前回と同じで良いだろう」


「じゃあオレか」


 武さんは1歩踏み出すと、目の前のくじ達を睨み始める。そしてそのまま動かなくなってしまった。


「どれを選んでも内容は同じですよ?」


「分かっているさ。分かっているけれど、もう洗剤はいらないんだ」


 それとなくナビちゃんが話しかけるが、武さんはテーブルの上から視線を逸らさなかった。

 武さんの言い分も分からなくもない。

 確かに重宝するものだが、何個も欲しいかと聞かれれば、首を振らざるを得ない。


「よし、今回もサイコロにするぜ」


 武さんはひと抱え程あるサイコロを手にすると、ナビちゃんに宣言した。


「畏まりました。それでは涼様の挑戦です。

 何が出るかな♪何が出るかな♪」


 ナビちゃんが抑揚の無い声で歌い始めた。

 これほど出る目に期待を寄せて居ない掛け声も珍しい。


「いくぜ……おりゃっ!!」


 武さんが勢いよくサイコロを投げつける。


 僕に向かって。


「って危なっ!?」


「チッ避けたか」


 紙一重で回避には成功するが……。

 この野郎、良い度胸じゃ無いか!。


「止まりましたね。今回の涼様の報酬は……『防具』ですね」


 内容そっちのけで、睨み合っている僕達を他所に、ナビちゃんはとっととサイコロの内容を確認してしまった様だ。


「良かったですね涼様。紙屑程度の防御力しか持って居なかったヘボタンクにはちょうど良い報酬ですね」


「ア、ハイ」


 武さんは、どこか放心した感じで返事をしている。てか、ナビちゃんの武さん嫌いは筋金入りの様だ。


「それではこの『障壁の籠手』をお受け取り下さい」


 ナビちゃんは、ポケットからひと組のガントレットを取り出すと、武さんに手渡した。


「なんだガントレットだけか」


「お言葉ですが涼様。この町で最も腕の良い職人はウトガルデ・ロック氏の作品になります。ロック氏が手がけた全身鎧一式は最低でも100万単位のお金が必要になります。今の涼様にそれほどのお金が用意できますか? また私共から提供させていただいている鎧はこの世界のレベルを逸脱しております。その様な鎧をいつどこでどの様に手に入れたのか私共の存在をバラさずに説明出来ますか?」


「ごめんなさい」


 さすがの武さんも、素直に謝っている。

 まぁ無表情で淡々と迫られたら、怖いよね。


「ご理解いただけた様でなによりです。では次陽向様お願いいたします」


 ナビちゃんは、くるっと向きを変えると、ひなぞーの方へ行ってしまった。

 後にはガントレットを持った武さんだけが残されていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 さて、放心状態の武さんは置いといて、今度はひなぞーが選ぶ番だ。

 どれを選んでも一緒だと、説明してもらったからか、ひなぞーもあっさりと前回同様スピードクジを選んだ様だ。


 今、ごそごそと箱の中身を漁っているのだが、そんなにクジが入っているのだろうか?


「むっ……これだ!!」


 何かを感じ取った様で、ひなぞーが箱の中から勢いよく手を引っこ抜く。

 スピードクジってこんなに気合を入れるものだったか?

 ひなぞーは手にした1枚のスピードクジをそのままナビちゃんに手渡している。

 自分で開いて確認すればいいのに、そういうところは律儀だ。


「今回の陽向様の報酬は……『武器』ですね」


 ナビちゃんがスピードクジを開いて見せてくれる。


「武器か……でも、これもたけぞーの防具と一緒なんだろう?」


「理解が早くて助かります。ではこちらをどうぞ」


 ナビちゃんは、ポケットから黄金の金槌を取り出し、ひなぞーに手渡している。

 てか、あのポケットには、いったいいくつのアイテムが入っているんだろうか?


「雷属性を付与したゴールドハンマーです。残念ながら重力は操作出来ませんので相手を光に変えることは出来ませんのでご了承ください」


 相手を光に変えるハンマーとか、どこの勇者王ですか?

 てか、そんなハンマー危なくて使えないよ!


「雷属性なのは解ったが、ちと小さくないか?」


 ひなぞーが言うとおり、ゴールドハンマーは普通の金槌の大きさしかない。

 これでは、キングフォレストボアの様な大型のモンスターにはダメージが少ないんじゃなかろうか?


「大丈夫です陽向様。そのゴールドハンマーは陽向様の魔力を感知すると大槌ほどの大きさまで巨大化いたします。その分重量も増しますが【怪力】持ちの陽向様なら問題ないかと」


 なるほどね、魔力を使用するタイプなのね。それならまぁ大丈夫か……大丈夫か? 今の所攻撃にまで使える魔力持ちって僕だけだよね?

 まぁナビちゃんが何も言わないのだから大丈夫なのだろう。


「あの……オレのガントレットの使い方も「では次に和泉様の抽選をいたしましょう」おしえ……」


 武さんがフリーズから回復し、自分の防具の使い方を聞こうとしたが、被せ気味にナビちゃんが話しを進めてしまった。

 武さん……ドンマイ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 さて、僕の番に回ってきたわけだが……。

 僕の目の前には、3つの道具が置かれている。

 サイコロは武さんが、スピードクジはひなぞーが。

 ならやっぱり僕も前回と同様ダーツにしようかな!


「僕も、前回と同様にダーツにするよ」


「畏まりました。ではこちらをどうぞ」


 ナビちゃんがダーツの矢を手渡してくれる。何の変哲もないタダのダーツの矢だ。ナビちゃんはいったいどうやって、こういうグッズを集めてくるんだろう?


「準備ができました。和泉様お願いいたします」


 少し考え込んでいたら、目の前に今回の賞品が書かれた丸いボードが回っている。

 さて、今回は何が当たりますかな?


「パジ〇ロ。〇ジェロ。パジェ〇」


 ナビちゃんが車の名前をコールしてくるが、本当に賞品の中にあるんだろうか?

 いやいや、ここで惑わされちゃいけない。集中集中……。


 僕は、手に持っているダーツに全神経を集中させて……放った!

 ダーツの矢は真っ直ぐに飛ぶと、ボードに突き刺さる。


「和泉様の報酬は……陽向様と同じく『武器』ですね」


 矢が刺さった場所をナビちゃんがめくると、そこにはデカデカと『武器』と書かれていた。

 武器かぁ……正直、魔砲はハミングバードで間に合っているけど……あ、近接用のダガーとかがいいかなぁ。


「では和泉様にはこちら『魔砲の卵』をお贈り致します」


 なんて考えていた僕をよそに、ナビちゃんはポケットからそれを取り出した。


「『魔砲の卵』?」


 どう見ても、スーパーで売られている6個1パックの鶏卵にしか見えないんだけど……。


「和泉様の武器はかなり悩んだんですが最終的に和泉様が決めればいいやと上司が言いましたのでそのままお渡しいたします」


 いやいや、僕のだってちゃんと決めてほしいよ。なに? 僕が決めればいいって。


「こちらの『魔砲の卵』は和泉様の思い描いた魔砲を作り出すことができるものになります。ただ強い魔砲を生むにはそれ相応の魔力を消費いたしますので調子に乗って設定を高くしすぎると魔力の枯渇で死にますのでご注意くださいませ」


 そう言いながらナビちゃんは、僕のお腹にパックから取り出した卵をグイグイと押し付けてくる。

 すると、不思議なことに卵は割れることなく、僕のお腹の中へと次々に沈んでいくではないか! 地味に気持ち悪いよ!


「卵はお腹で温めるものですよ和泉様」


 いやいや、そういう事じゃないからね!?


「大丈夫です。和泉様は天界からのお守りもお持ちですしきっと元気な魔砲をお生みになりますよ」


 お守りって……あの安産祈願の事か!? どんだけ長いロングパスだよ!!

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