第21話 腕試し③

「ねぇイズミ、本当に大丈夫? さっきから独り言が激しい様だけど」


 ウィルディさんは、本気で心配してくれている様で、少しオロオロしながら聞いてきている。

 まぁ戦っている最中に急に独り言で叫び始めたら、僕だって心配はする。当たりどころが悪かったんじゃないかと。


 それに、観客からもザワザワとざわめきが聞こえてくる。中には「ウィルディがやった」とか、「やっぱりウィルディと戦ったから……」などと聞こえてくるが、ここ町でのウィルディさんの評価が垣間見れる。


「大丈夫ですよ、さぁ続きをしましょうか」


 僕は微笑むと、双剣を構えなおした。

 先ほどの様にただ持っているだけでなく、今度はしっかりと構える事が出来ている。これがスキルの力か。


「そう……ね、イズミの構えもマシになったし。続きをしましょう!」


 この際、周りの雰囲気は無視だ。今は目の前のウィルディさんを何とかしなければ……ガチで死ぬかもしれない。


 僕は呼吸を整えると、一気に加速して間合いを詰める。ナビちゃんと会話していた時に、結構ダメージを負っているのだ。防戦になったら負けるのは目に見えている。

 先ほどのやり取りでわかるように、ウィルディさんは僕の降参宣言を邪魔してくる。という事は、僕が負ける=戦闘不能状態になるという事だ。


 しかし、これ以上ボコられたら死んじゃう!


 誰だ! ボコられてから負けようなんて思った奴は!!

 何か、何か案を出さないと……ボコられて負けるという1番死に近いバッドエンディングを迎えちゃう!!


 僕は、息をつく間も無く左右の短剣を振るう。しかし、ウィルディさんは盾と片手剣を巧みに扱い、尽く捌いていく。


「さっきよりも太刀筋はいいけど、剣が軽くなったわよ。疲れちゃった?」


 ごめんなさい、スキルが弱体化しました。

 などと言える訳もなく、僕は笑って誤魔化すしか無かった。


「もうヘロヘロですよ。終わりにしません?」


「イズミちゃんのを見せてくれれば、終わらせてもいいわよ」


 何だとっておきって?

 回〇剣舞•六連とかスター〇ースト•ストリームとかやればいいのか?


『和泉様現実を見て下さい』


 まさかの非現実的存在ナビゲーション・ドールから現実を見ろと言われるなんて……てかまだ居たんだね。


『ここまで来たのですから和泉様の勇姿を見てから帰ろうかと思っています』


 勇姿って言うか、無様な姿だと思うけどね。

 まぁ実際にそういった技は出来ないけど、それに似た事をしろという事だろう……たぶん。


 僕は一旦攻撃の手を止め、今まで以上の距離をとる。そして、左手に持ったグラディウスを逆手に持ちかえ、獣が獲物を捕る前の様に静かに腰を落とし足に力を溜める。


「ッ!」


 その溜めた力を一気に爆発させ、小さな体を前に飛ばす。トップスピードへ到達した勢いを殺さず、右手のグラディウスでウィルディさんに飛び掛かりつつ袈裟斬りを叩き込む! ……が、さすがはウィルディさん、直ぐに反応し右手に持ったショートソードで下から掬い上げて来た。


「速度は凄いけど、直線過ぎるわ」


 ガッカリした様子で言い放つウィルディさん。

 下からの掬い上げの威力で、僕はその場で回転する。しかし、これで終わりじゃ無い。

 その回転を利用し、逆手に持った左手のグラディウスを振り上げ、空になったウィルディさんの右脇腹に逆袈裟斬りを叩き込む!!


「これが僕の精一杯だ!」


「!?」


 小さな軽い体、神懸ったバランス感覚、回転をものともしない動体視力。

 剣術もなにもあったものじゃない、今の僕に出来る事をしただけの攻撃。だけど誰もの意表を突く攻撃。

 しかし、現実は酷であった。

 攻撃がヒットし金属を叩く重い音ではなく、鳴り響いたのは金属を引っ掻く耳障りな甲高い音のみ。


 な!?


 ここで小さな体が仇となった。

 どうやら掬い上げられた時に外側に体が流れてしまったようだ。

 腕が短いため、精一杯伸ばしても鋒がプレートアーマーをなぞるだけだったのだ。

 無茶な体勢での攻撃は、失敗し受け身も取れないで地面に落ちる。


「ぐえぇ」


 僕の口から潰れたカエルのような声が出る。


 静まりかえる観客、あの体勢から反撃がくると思っていなかった為、驚きからまだ帰ってこないウィルディさん。

 どうやら、この場をどうにかできるのは僕しかいない様だ。


「参りました」


 会場中の時間が止まった気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 結局、あの降参宣言が認められ、今回の腕試しは僕負けと言う結果で幕を閉じた。

 そして今、僕は何処に居るかと言えば……医務室に居たりする。


 背中から落ちた痛みもあるのだが、両腕の痛みが酷いのだ。決定打にならないのならばいいと言う考えで、ウィルディさんの攻撃を数回腕で受けていたのだが、それが良く無かった様だ。

 借りていたガントレットはボコボコで、腕も青痣だらけである。


「ごめんなさい、姉さんが無茶して。痛いでしょう?」


 そんな腕を、ヴェルディアさんが丁寧に処置してくれているのだ。これはこれで役得なんじゃなかろうか?

 肘から下、青痣になっている部分に軟膏を塗りガーゼらしき布で抑え包帯を巻いてくれる。まさに致せり尽くせり状態だ。


「試合なのよ、それくらいの怪我当たり前じゃない」


 一緒について来てくれたウィルディさんが、何処か拗ねた様に口を尖らす。


「姉さんが、大人げなくこんな小さな子に本気なんて出すから、怪我をさせてしまったのよ。大体、姉さんは引退したとは言えAランクの冒険者でしょう? 本気を出せばどうなるかわかっていたはずよ?」


 元Aランクって……そりゃ強いはずですよ。

 それにしてもウィルディさんを怒りながらもしっかりと処置をしてくれるヴェルディアさんも怖いのだが……。


「あの……」

「あ~いいの、いいの。こうなったヴェル姉さんは止まらないから」


 どうにか止めようと声をかけようとしたのだが、隣に座っているスクラナさんに逆に止められてしまった。どうやら怒った時のヴェルディアさんは、ウィルディさんよりも強く怖いのだと言う。


「君子危うきに近寄らずってね。直ぐに収まると思うから、待ってた方が身の為よ」


 そう言う事なら黙って見ていよう。

 決してヴェルディアさんの矛先が向くのが怖かった訳じゃ無い。姉妹の話し合いも必要だと思ったからあえて口を閉ざしたのだ。本当だよ?


 ずっとヴェルディアのターンは、スクラナさんが言った通りあれから10分程で収まった。しかし、その間ずっと小言を言われ続けたウィルディさんはショボーンとなっている。


「はい、これで終わり。大丈夫だと思うけど、今日1日は包帯しててね」


「ありがとうございます。ヴェルディアさん」


「どうしたしまして。あと、私の事はヴェルでいいわ。長くて大変でしょう?」


 ヴェルディアさんが笑顔でそう言ってくれる。

 これは念願の女の子をあだ名で呼ぶと言う事なのでは!? 遂に、遂に僕にもイベントが!


「それでは、改めて、ありがとうございます。ヴェルさん」


 僕が『ヴェルさん』と呼ぶと、ヴェルディアさんは一層笑顔が華やいで見えた。


「さて、治療も終わったならカウンターへ来て頂戴」


 ウィルディさんはそう言って先に出てしまう。


「もう、ウィルディ姉さんはキツイなぁ一緒に行けばいいのに」


「あれは姉さんの照れ隠しなのよ。スクラナ」


「あんまし遅いとまた怒られそうですね」


 そう言って僕たち3人も医務室を後にした。


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