第一章…「その、小さな者達と。【1】」


 晴天。

 水場が多いイクステンツでは、日差しが強くてもさほど気にならない程に、涼しい風が流れている。

 そんな過ごしやすいこの時、私は海辺沿いの転落防止で腰ほどの高さに作られた塀に腰を下ろしていた。

 釣り竿の水面にぷかぷかと浮かぶ浮きを見ながら、私は透き通る海に視線を落とす。

 海面から海底まで、街の周辺は基本的に3メートル程の深さらしい、後は大人で膝までの深さの場所もいくつか点在している。

 深いと言えば深い。


---[01]---


 大の大人が手を伸ばしても届かない3メートルの深さ。

 その深さを石材で埋め尽くして1つの国を作り上げたイクステンツは、見た目は綺麗なものだ。

 それを思った所で、だから何だという話だが。

 私自身が自分にそう言葉を返す。

 先ほどから手に持った釣り竿は、風による揺れしか感じ取らず、それ以外で竿を揺らす力は、風によって作り出される海の波程度だ。

 成果は…何もない。

 そもそも、水中に魚なんて見えないし、これだけ水が透き通っていては、魚達にも釣りをやっているのがバレバレで、逆に魚達の笑いを釣ってしまう。


---[02]---


 時間を潰すためにこんな事をやっている訳だけど、これでは何もしていないのと変わらない。

 本末転倒状態で、釣り竿の持ち手を、指の尖った爪でひっかき始める始末だ。

『どうですか?』

 あまりの不漁具合にやめようかなとも思い始めた時、後ろから聞き慣れた女性の声が届く。

 声の主を確認する事もなく、白い鱗と甲殻で覆われた尻尾を軽く跳ねさせて、不満を表すかのように返事を返した。

 その行動は、一言で元気のない状態を体で表現してみたモノだ…、この状況でそんな態度を取れば誰だってダメなんだなと思うだろう。

 それは、声の主も例外ではない。


---[03]---


「ダメなのですね」

 残念そうというかなんというか、少しトーンの落ちた声で話しつつ、声の主は塀に飛び乗って、私の横に座った。

「体の調子はどうですか?」

 海面に浮く竿の浮きを見続けている私の顔を、彼女は覗き込んでくる。

「特に問題ない…かな」

 この返答も、もはや日課のようになっていた。

 この世界で目が覚めれば、彼女事「フィア・マーセル、愛称フィー」が、私事「フェリス・リータ、愛称フェリ」の体調を確認する仕事をしてくれる。

 一応、フィアにとっては仕事という枠ではあるけれど、彼女自身どういうわけか私の事を気にかけているから、率先してやってくれているらしい。


---[04]---


「その割には疲れたような顔をしていますけど…」

「これは、毎日毎日魔力が尽きるまで訓練をやらされているから…。疲れが残っているせいよ。でも、体調不良とかそういう点では本当に問題ないから、安心して」

「そう…ですか。大変なら訓練の量を減らしてもらう様に言う事も出来ますけど…」

「そんな事しなくてもいい。大丈夫よ、大丈夫」

 私はフィアの方へ顔を向けて、無理をしていない微笑みを向けた。

 それで納得してくれたかはわからないけれど、本当の事だからこそ、これ以上言葉を飾る事も出来ない。


 「あの出来事」から…、早くも一ヵ月の時間が過ぎた。


---[05]---


 交通事故で家族を失った俺が贈られた夢、この世界に来るようになってからもう一ヵ月…。

 とても早く過ぎていったように思う日々。

 幸福と充実がいっぱいで、「眠りにつく」事が楽しみになるなんて、変わった楽しみが出来てしまった。

 この世界は、眠りについた先にある私にとっての現実、眠りから覚めれば、そこには俺にとっての現実がある。

 それは眠りに落ちる…意識を失う事で行き来する事が出来る繋がりだ。

 私の世界がA、俺の世界がBとすると…、Aで1日過ごし夜に私が眠りにつく、すると、目が覚めるのがBの世界で俺が眠り、次に目を覚ます時だ。


---[06]---


 Aで私が過ごしている時も、Bの俺もまた同時に生活を送っている。

 時間が同じなのだ。

 後は、俺という…私という人格があるかどうか、それだけの違い。

 記憶もぼんやりと朧気なものだが、存在はしている。

 同じ時間の流れがあり、そこで生活をしたという記憶もある、だからどちらの世界も、私にとって…俺にとって現実なのだ。

 一ヵ月経った今では、そういう解釈を私達はしている。

 本来は、俺の世界が本当の現実で、私の世界が贈られた夢という存在な訳だけど、今となっては些細な事に過ぎなくなっていた。

 この夢の世界もまた、現実の世界と形が違うだけで、同じだから。


---[07]---


 女の私、男の俺、性別が違う事に戸惑ったのも、結局最初も最初、この世界で目を覚ました時ぐらいだった。

 同じように驚き、喜び、怒り、悲しみ、そういった感情はあるし、痛覚等の感覚もまた、現実と同じように存在する。

 それと、あと1つ…新たに分かった事があるのだけど、それはおいおい話すとしよう…。


「イクから聞きました。戦闘訓練の事。感覚的な部分、体に染み込んだ経験があるから咄嗟の対応力はずば抜けているけど、知識として覚えている事が何もないから大変だって」


---[08]---


「はは…」

 イクは、「イクシア・ノードッグ、愛称イク」という私やフィアにとって同期の女の子であり、フィアのルームメイト、私の事を自称ライバルと言っている。

 実力は折り紙付きで、そこらの軍人にだって負けることは無いだろう。

 私…フェリスという女性は、私がこの世界で目を覚ます前から存在していた事になっていて、それまでは知る人ぞ知る武者だったらしい。

 あくまでそういう設定が刻まれた存在な訳で、当然そこら辺の事を全く知らない私は記憶喪失扱い、今はせっせと減退した戦闘能力向上のための特訓中だ。

 その相棒としてイクシアが選ばれ、毎日のようにしごかれている。

「それで? 今日、午前中は何も予定にはなかったと思うけど…どうしたの?」


---[09]---


「え~と、急ぐ用ではないのですけど、エルンさんが今日の予定が変わった事を言い忘れていたので、あなたに教えてあげてって」

「彼女らしい…」

 エルンは、「エルン・ファルガ」という女性、この街で医療術室なる外傷とか怪我専門の病院のようなものをやっている一応軍人だ。

 私の一軒家の同居人であり、最もしっくりくる言い方をするなら主治医…という奴だ。

 そして、フィアの師匠でもある。

「それで…、今日ある場所に行く事になりました」

「ある場所…」


---[10]---


「行くメンバーは、私、イク、フェリさんです」

「いつものメンバーね」

「行く場所は、「エアグレーズンにある孤児院」だそうです」


 エアグレーズンは、イクステンツにある本島から離れた島の名だ。

 イクステンツにはそんな島がいくつも存在する。

 どれも本島と同じように元々は小さい島でそれを石で埋め立てて1つの街を作り、拠点としての役割を担っている。

 その目的は主に外敵からの攻撃を防ぐ役割やその監視で、軍も駐屯している島、通称「監視島」だ。


---[11]---


 エアグレーズンは、そのいくつかある監視島の中でも敵国であるオラグザームとは正反対の場所に位置し、一番安全な監視島とか、平和ボケ島なんて馬鹿にされた言い方をされている。

 その反面、軍生から階級が上がり、軍人になったその多くの者達が、最初に配属される島でもある。

 ゲームで言う所の、始まりの街の次の街って感じの島だな。

 方角としては、イクステンツの中央に見守りの樹があり、その南側に居住区がある…、北側に軍施設、南西の方角に敵国であるオラグザームがあり、その反対である北東方角にエアグレーズンは存在する。


---[12]---


 エアグレーズンは、本島から見ようとすると、水平線に何かがある程度には小さく見える距離、向こう側からなら見守りの樹が見えるらしいが、私はそもそも行った事が無いので、どれほど見えるかはわからない。


 長い船旅、時計とか時間を調べるための術がないから、正確にどれくらいの時間を船で揺られたかはわからないけれど、それなりに大きい船で、体感で1時間は優に超えただろう。

 普通の乗合船とは違い、多くの物資等の荷物を運ぶための運搬船を利用、その大きさも相まって船体が大きく揺れる事はなかった。

 島の周辺は浅瀬のため、運搬船は近くまで港から伸びた船着き場で荷物を下ろす、私たちもまたそれと一緒に島へと降り立った。


---[13]---


 そこから港までは最低でも50メートルは離れているだろうか、それだけ島の周囲は浅い場所が多いらしい。

 だからこそ埋め立てが出来たともいえるが。

「はぁ…、やっと陸…だ…」

 私が周囲の観察をしていた時、その横ではイクシアが口に手を当てて膝をついていた。

「イクは乗り物が苦手ですから」

「そう…」

 そのイクシアの状態を説明するかのように、船から降りてきたフィアが教えてくれる。


---[14]---


 誰しも苦手なモノはある…、それが弱点になるかどうかは別として。

 自分としてはイクシアに一泡吹かすための手段を1つでもほしい所なのだが、乗り物に弱い…では、私が求める弱点としては使えないだろう。

「イク、行きますよ。荷物を持ってください」

「うぷ…」

 出発を告げるフィアの言葉に答えるように立ち上がるイクシアだったが、その顔にはどう見ても覇気というモノが感じられなかった。

 というか陸に上がったというのに真っ青なままだ。

「はぁ」

 これではいけないと私だけでなくフィアも思った事だろう。


---[15]---


 その証拠に、こちらに向かって苦笑いを浮かべていた。

 しょうがない…とため息をつき、私はイクシアの荷物を持って、有無を言わさず陸に向かって船着き場を進んでいった。


 島の構造はシンプルなモノだ。

 中央には埋め立ててない本当の島の部分があって、そこが広場としての役割を持っている。

 それを中心に街…島が広がっているようだ。

 北半分は軍関係や工場といった仕事関係のため地区、南半分が基本的に居住スペースとなっている。


---[16]---


 港はそんな島の西側にあり、ちょうど北の区画と南区画の間、中間に作られていた。

 目的の場所、孤児院は中央の広場付近にあるらしい。

 歩くのもつらそうなイクシアだが、そこに着く頃には酔いもさめているだろう。

 彼女にとっての一番の薬は…、恐らくフィアの介抱だ。

 あくまで勝手な解釈ではあるが、ここはフィアに一肌脱いでもらう。

 私は、フィアから荷物を取り上げると、戸惑っている彼女を横目に、ノロノロと歩くイクシアを指さした。

 それが意味する所を、早急に理解してくれたフィアはまた苦笑しながら、イクシアの介抱をし始める。


---[17]---


 その光景を見て、なんて穏やかな時間なのだろうかと、私はつい口元を緩めてしまうのだった。

 一応、この国は戦争状態にあるらしいのだが、私はその戦争の一端を見た事が無いから、ただ戦争中ですと言われても実感は沸きようがなく、今も信じられていない。

 もちろん、「私」としての存在の仕方にも問題はあるだろうけど…。

 後は、ここエアグレーズンの空気と、本島の雰囲気、いろいろなモノが重なっているからこそだ。


 中央の広場に近づくと目に入るのは、その中心にそびえ立つ巨木。

 率直な感想として、巨木らしい巨木だ。

 見守りの樹のように大きすぎて木と思えないモノではなく、幹を10人で囲えば一周できる程な控えめなサイズ。


---[18]---


 これぞ巨木、私の思う巨木というモノを表した大きさだ。

「フェリさん、こっちですよ」

 心地よいほどに理想的な大きさの木に、思わず見惚れてしまっていた所を、フィアが声を掛けてくる。

 別に木フェチとかそういう事がある訳ではないのだけど、どうにも自分の思っている事に合致するモノが現れると嬉しくなってしまう。

 フィアの誘導で進んだ先に目的の場所はあった。

 木製の立派な門をくぐれば、そこにはそれなりに大きな2階建ての建物が…。

 孤児院という事は軍関係ではないし、それらでないのなら立派すぎるとも思える木製の建物、本島にあるフェレッツェや軍関係の建物に引けを取らない。


---[19]---


 玄関前まで来て、フィアがノックをしようとした時、向こうから待っていましたというかのように、タイミングよく扉が開いた。

「連絡のあった軍生さん達かしら?」

 そしてその先から姿を見せたのは、目を瞑った1人の女性だった。

 落ち着いていて、柔らかな表情を見せる彼女には、なんというか…甘えたくなるというか、すごく大きな母性を感じる。

「はい。私がフィア・マーセルで、後ろの人たちが…」

 後ろに立つ私達の紹介をしようとした時、フィアの動きが止まり、女性の表情をうかがう様に見る。

 どうしたのか、私はそんな言葉を口にしようとして、その理由に気付き思わず口を閉ざした。


---[20]---


 事は単純、この女性の目が問題だ。

 私が気になった事、フィアも同じ事を思ったのだろう。

 フィアのその行動で、気になっていた事に結論が出た。

 自己紹介を始めた時、一応女性はフィアの方を向いたけれど、それは声がしたからで、彼女自身一度も目を開かなかった。

 目を閉じているようにしか見えない程の糸目だとしたら話は別だが、そうでないのなら、それ用に気を使った対応をしなければならないだろう。

 フィアもそれに気付いて私達の紹介をやめたのだ。

「私は…」

 だから、フィアが紹介するのをやめて、私は自分から前に出て自己紹介をしようとしたが…。


---[21]---


「大丈夫ですよ」

 ソレは、女性の方から止められる結果となった。

 迷う事なくフィアの手を取り、軽い握手をした後、フィアの横をぶつかる事なく通り過ぎて、女性は私の手を取り握手をする。

「大丈夫。あなたが考えている事は合っていますよ」

 そう言って女性は優しい笑みを向けてくる。

「ファルガさんから聞いています。後ろの子がマーセルさんなら、あなたがリータさんですね。そして後ろの方で先ほどから動かない方がノードッグさん」

「え、ええ。そうです」

「ど…どうも…」


---[22]---


 私は少し驚いた表情を見せ、イクシアは相も変わらず気分が悪そうな青い顔のまま会釈をする。

「では中へお入りください。少しお話をしましょう」

 合っている…、それが何を指しているのか、なんとなくわかっているつもりではあるけれど、そうであるなら今の動きはすごいというか、達人レベルだ。


 建物の中は、外が木製なら中もまた然り、外と玄関をくぐった場所、内装を含めてこの建物の感想を一言で言うなら、「木製の学校校舎」と言った所だ。

 自分が通ってきた学校に木製のモノはなかったけれど、テレビなり写真なりで見た事はあるし、この建物はまさにそれだ。


---[23]---


 もしかしたらこの世界で、現状一番落ち着ける建物かもしれない。

「リータさん、どうかいたしましたか?」

「あ、いえ、なんでも。落ち着く場所だなと」

「ふふ、ありがとうございます」


 通された場所は、学校で言う所の応接室…というか私としては校長室と言った方がしっくりくる部屋だった。

 部屋の真ん中に応接用のテーブルとソファー型の長椅子、一番奥には仕事をするための机と、その後ろには外に出られる扉、部屋の左側には本棚が置かれ、右側には何かしらの置物用の棚が置かれている。


---[24]---


「では少し待っていてください。今、お茶をお持ちいたしますので」

「あ、じゃあ私もお手伝いします」

「でも、お客様にそんな事…」

「いえ、「お世話」になる身なので、できる事はしたいと思います」

「そう…ですか? ではお願いいたします」

「…フィーが行くなら…私も…うぷっ…」

「いや、あなたはここにいた方がいいと思うけど…」

「大丈夫ですよ。気分が優れないならそれを和らげる薬草がありますので」

「…うぷ…」

 そんな流れで、3人が部屋を出ていく。


---[25]---


「・・・」

 完全にタイミングを逃した…というか、手伝うのに大勢で言ってもかえって邪魔になるかなと思いここに残った訳なのだが、1人知らない場所に残されるのは…ただ寂しく思う。

 俺としてはそういったモノに慣れてしまっているから気にならないのだけど、私はそういったモノに慣れていないというか、慣れる事が出来ないというか…、寂しいと言ったけれど、これはむしろ怖いと言った方が近い感情かもしれない。

 俺ではなく、私固有の感情。

 孤独、1人になった途端にその心細さに気付く。

 元から1人なら感じる事のないモノ、誰かと繋がっているからこそ得てしまうモノ。


---[26]---


 私には、俺が私になるより以前の記憶はないけれど、フェリスという個人が持っていたモノを引き継いでいる…と思う。

 引き継いでいたモノというのは、何も現物とかだけじゃなくて、感情とか感性というかそういった彼女の性格的なモノとかいろいろだ。

 俺は相手が男性だろうが女性だろうが話をする時に緊張とかそういう事はしないけど、フェリスである私は男性と話をする事が苦手、私はあくまで俺だから話はできるけど、俺である時と私である時とでは、やはり気恥ずかしさが出る。

 今感じている孤独というか恐怖もそうだ。

 俺は慣れて気にならない、でも私はそうはいかない。

 彼女は、「俺、向寺夏喜」ではなく、あくまで「フェリス・リータ」なのだ。


---[27]---


 それを、たまに感じる俺との違いで、感じ取る事になる。

ガサッ…。

 暇を持て余すように、俺と私の違いを整理しながら部屋内を観察している時、窓の方で何かの物音が聞こえてくる。

 正確には窓越しの建物の外からだ。

 風で何かが倒れたとか、そういう自然的な音とは何かが違う。

 耳を澄ませば、ヒソヒソと誰かが話をしている声が、微かに聞き取れた。

『ちょっと…音立てないでよ…』

『そんなこと言ったって…』

『シュンディ姉ちゃん、やっぱりまずいよ~…。こんな盗み聞きみたいな真似…』


---[28]---


『うっさい…、あんた達だって気になるでしょ…』

『気になるけど…』

『こんなことしなくたって、院長先生なら後で紹介してくれるんじゃ~…』

『何いってんの…。情報収集は基本じゃない…』

『だから~…』

『それに僕たちがいない間に先生の弱みを握って、この孤児院を我が物にしようと知れるかもしんないじゃん…』

『来る人たちって一応軍人さんたちだよね。そんな事はさすがにしないんじゃ…』

『軍人でもなんでも…、大人なんて信用しちゃダメよ…』

『院長先生だって大人だよ~…』


---[29]---


『フウガ兄ちゃんも大人だ…』

『フウガ~? ダメダメ、魔力機関も育ってない奴、大人じゃない。だからこそ信用できるのよ。あと、先生は特別…』

 その判断基準はどこから来ているのか…。

『言ってること無茶苦茶だよ~…』

『とにかく…、今のうちに情報収集を…』

 聞こえてくる声からして子供、それにしては穏やかじゃないというか、会ってもいない私達を完全に目の敵にしているというか。

 とりあえず、誤解が生じている事は確実だ。

 フィア達が戻ってくるまでやる事も無く暇なだけだし、これ以上俺と私の比例なんて、妙に悲しくなる事をやっていてもしょうがないと思う。


---[30]---


 だから、とりあえず穏やかじゃない話をしている子供の顔を見る事に決めた。

 部屋の奥にあるドアを開け、声の主たちがいる方向に目を向ける。

「誰が、誰の情報を収集するって?」

「あひゃっ!」

「バレた!」

「あら~」

 壁に張り付くようにしゃがみこんでいた人種の子供が3人。

 黒髪ロングヘアーの少女に、ちょっと体の大きな少年、おっとりとした表情を見せる細い少年。

 さっき聞こえていた声からして、今回の首謀者は黒髪の女の子の方だ。


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