第30話「対策」
第三十話ー「対策」
FDCの役員会議室では役員一同が沈痛な表情で押し黙っている。
雑誌とはいえ、「文秋」はそのネタ元の確かさには定評があった。それゆえに、「内部告発」によって明るみに出たとなると、それなりに信憑性がある。
ーーー朝倉さんから何か言って来てるか?
小野田は明石に問うた。
ーーーいや、今んとこ、何も。ただ、うちは「FDC開発」の一件が県警のマル暴にターゲットにされてるので、そこから芋つる式に先生のところまで行き着くことを恐れていました。
ーーーもし、「鹿島急便」に特捜の家宅捜査が入ったら、逆にウチにも火の粉が飛んでくるだろう。それと「大川組」と 「FDC開発」との関連でヤバいもんは早く処理しとく必要あるぞ。
ーーーその件は、すでに木下にやらせて終わってます。問題ありません。
ーーーん、ただ、あそこは直轄じゃないからなー、ガサ入って取り調べでもされたら普通の社員ならゲロするぞ。
ーーーええ、そこだけが心配です。それは、「鹿島急便」も同じだと思います。現に今回も内部告発ってことですから、綻びは簡単に広がるということです。
明石の他人事のような言い方に小野田はちょっとカチンと来た。
ーーー他人事じゃねーぞ!、少なくとも俺たち役員だけは一枚岩でないと乗り切れんことになるぞ。特捜の取り調べには最低20日は耐えられる根性も体力も必要だ。
滝川が小野田を抑えるように落ち着いた声音で言った。
ーーーいずれにせよ、「鹿島急便」にガサ入るのは時間の問題でしょう。我々も取り調べの「想定問答」作って異口同音にしておく必要ありますね。
小野田は、斎藤亜希が言っていた、鋼鉄の鎧を着た30万の兵隊が自分の城にまで迫って来て、ついには石垣を登りつめ厚い門を突き壊して侵入して来る様を想像し背中が冷たくなった。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーいよいよ、「FDC開発」と「大川組」への
柿山が電話で告げてきたところによると、それは11月15日 AM9:00同時着手ーーーという段取りだった。
柿山と橙子は「FDC開発」担当になっていた。
橙子は、柿山にも刑事としての自分にも言えない言葉を飲み込んだ。
ーーー(小野田がFDC開発に来ない事を祈りたい、、、)
それは、もう少しだけ斎藤亜希として小野田に接していたいという決して誰にも自分にも漏らしてはならない「秘密」であった。
橙子は卓上カレンダーに目をやり、それはもう1週間を切っていることに気を重くした。
ーーー(もしも、小野田とハチ合わせすることになったら?)
その時、自分はどんな顔で彼に接し、彼はどんな目で自分を見るのか。
ーーー(私は組体の特命刑事、それが仕事なのよ)
そう、強く自分に言い聞かせる橙子だった。
(第三十話ー了)
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