星に願いは届くのか

三毛猫迷子

第一章 

第1話 道のりは高く険しい

 吹く風が柔らかくなってきた早朝のとある学校の寮にある一室の鏡に、ミディアムショートのくすんだ金髪に澄んだ朝の青空をそのまま写したような瞳の少年が映っていた。


 軍服のような深緑の真新しい制服にまだなじんでいない様子の鏡の住人に向かってうなずくと間を置かずに鏡の人物もうなずき返した。

 身だしなみは大丈夫。忘れ物はない。何度も確認した。

 肩掛けのバッグをなでて軽くたたく。

 この僕シュテルヒェ・ダーン。本日、我が国メヒティヒ帝国の三大学校と言われるヴォルフェ魔法学校に入学します!

 魔法の才がないとその門をくぐる事はできないと言われている学校にまさか僕が入る事になるなんて思いもしなかったけど、今日は待ちに待った入学式。僕もこの学校の生徒になる。そう思うとくすぐったい思いだ。

 そうだ。チェックは十分やったからそろそろ朝食を食べないと。

 昨日の夕方から入った、机とベッドとクローゼットしか家具がない機能的な部屋にもう親しみを抱いている。夕方前には再び帰る場所だと分かってはいるけどなぜだか離れがたい。

 その思いを押し殺して部屋を出て鍵を閉める。鍵をそっとなでて鍵をバッグにしまい食堂に向かった。


 食堂には僕と同じ新入生らしき人たちがちらほらいた。

 目があったら軽く目で会釈するくらいしかできない。声をかけるなんてとても僕にはできそうもない。

 特にあのグレーの髪のガタイの良い人は怖そう。声も動きも大きいから気の弱い僕はどうしても萎縮してしまう。

 その人から少し離れた席に朝食を持って座る。あの人はもう友達ができたのかな。友人と思われる人の背中を豪快にバンバンたたいている事から実は気安い人なんだろうか。

 自然とその人の隣に立っている自分を想像していた。あんな風にたたかれたら僕なんて吹き飛んじゃうよ。知らずのうちに口は弧を描いていてはっと我に返る。

 とたんに自分が恥ずかしく思えてきた。なんてありえない事を妄想しているんだろう。そんな可能性あるわけない。

 僕はちらちらと周りに視線を巡らせて誰も僕を見ていないという安心が欲しかった。現実的に考えれば僕が人に注目される事は限りなくゼロに近いのだけど恥ずかしい事をした自覚があるから確認して落ち着きたかったのだ。

 こっそり辺りをちょうど一回りした時、件の彼のヘーゼルの瞳とばっちり目が合ってしまった。

 あからさまに思わず顔ごとそらしてしまった。体が熱くなり冷や汗が出てくる。

 この調子だと友達はできそうにない。気合を入れて星に願ったのになぁ。

 自分がとても情けない。少しため息をつきたくなる。


 頭を横に振って気持ちを切り替える。首にかけている布袋の中に入っている割れている魔石をギュッと握る。

 どうか僕に星の導きをお願いします。

 そう祈って朝食を食べ始めた。









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