これはまるで、SFの世界に迷い込んだかのようですね。

愛知川香良洲/えちから

第1話

 地下鉄名城線・東別院駅前に社屋を構える愛知放送(ABS)。四階にはニュース報道センターがあり、放送エリアの東海三県に限らず日本国内外のあらゆる情報が集まってくる空間である。

「浜岡総理が緊急会見を行うとの速報! 内容は調査中!」

 系列局で一体化して運用されているニュース送受信システムからの情報。それを確認した誰かが読み上げる。緊急会見と聞いて真っ先に連想されるのは総理大臣辞任だが、直近の支持率を見てもそのような部分は見られない。霞ヶ関の記者クラブは今頃パニックだろう。キー局からの続報が待たれた。

 その情報が入る前、他局の放送をチェックするモニターのうち、NHKを映す四機の映像がほぼ同時に切り替わる。それに気付いた当番のアナウンサーは、驚きを隠せない。これは何か、異常事態が起こっている。それを証明する証拠だった。キー局からの続報を待つ間、NHKの音声がニュース報道センター内のスピーカーで流される。

『番組の途中ですが、ここでニュースをお伝えします』

 NHKは総合、Eテレ、BS1、BSプレミアム、ラジオ第一、ラジオ第二、FMの全七波で緊急放送を開始する合図であるチャイムが流され、特別報道の体制へ移行している。

『先ほど日本政府から発表された情報によると、正体不明の飛翔体が世界各地に出現したとのことです。出現したのは少なくとも四カ所、ニューヨーク・モスクワ・サンパウロ・パリです』

「マスターより、ステテレ映像が特番に切り替わったとの連絡!」

 愛知放送の東京におけるキー局は、六本木にある東京ステーションテレビ。現場では「ステテレ」と呼ばれている。

 愛知放送の映像はキー局アナウンサーによる顔出しの後、会見があるということだけを伝え、首相官邸会見場に切り替わっていた。そのためニュース報道センター内に流れる音声は引き続き、NHKのものが流される。それはNHKの情報が一番速かったこともあるが、ラジオの音声としても使えるよう構成されていることも背景にある。この事態、映像を見ている余裕はない。

『また防衛省のレーダ解析による情報では、中国に対しても最低一カ所出現したと推測されています。現在の所、日本国内において同種の飛翔体は確認されていません。この件に関して、総理大臣による記者会見があります。テレビの画面は現在の首相官邸会見場の様子です』

 総理大臣が会見場に姿を見せる頃には、他の民放系列も画面を同じ会見場へ切り替えていた。番組変更を好まない東京セブンもであるから、これはかなりの異常事態。ネット上では「日本滅亡の危機」などと騒がれているだろうが、NHKの情報を信じれば、まさに「世界滅亡の危機」と言っても過言ではない状況だ。

「この世界は、どうなっているんだ……」

 誰かがボソッと、呟いた。愛知放送がある名古屋は、巨大ウナギの襲来を。キー局がある東京は、巨大怪獣の出現を。それぞれ、経験している。

「これはまるで、SFの世界に迷い込んだかのようですね」

 他の誰かも、呟く。

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